ゴールボール男子、東京パラへ視界良好 国際大会で連続優勝、若手が台頭

吉田直人

多彩な攻撃戦術が魅力のゴールボール 【写真:吉田直人】

 アイシェード(スキー用ゴーグルのような形状の目隠し)を装着した1チーム3人の選手がコートに立ち、鈴の入ったゴム製ボールを投げ合い、12分ハーフで得点を競うゴールボール。パラリンピックで実施される競技の中でも数少ない、障がい者スポーツ独自の競技である。

 競技中は、音声情報を頼りにプレーする選手の妨げにならぬよう、観客には静寂が求められる。淡々と進行する攻防では、チーム間の駆け引きや、味方同士の策略が絶えず展開されている。緻密な心理戦と、工夫に満ちた多彩な攻撃戦術が、ゴールボールの魅力であると言えよう。

 日本代表は、2012ロンドンパラリンピック金メダル、2018インドネシアアジアパラ競技大会金メダルなどの主要国際大会で実績を残してきた女子に加え、男子の強化も進む。陸上・十種競技の元全日本王者でタレントの武井壮さんが、NHKの番組に出演し、ゴールボール男子日本代表に挑戦。スポーツナビはこの収録に同行し、選手、コーチに男子チームの現在地を聞いた。

「世界とのギャップは狭まってきている」

 男子日本代表は、今年1月の「2019 Goalball Japan Men's Open」、2月に米国・デトロイトでのトーナメント戦と、海外勢を相手に立て続けに優勝。4月27日には、リオデジャネイロパラリンピック王者、世界ランキング2位(2018年12月時点)のリトアニアとの親善試合が行われる。同ランキング13位の日本にとっては格上だが、現在の座標を図る試金石ともなるはずだ。

 池田貴スタッフは、男子に必要なのは「場数」だと強調した上で、近年は強化に手応えも感じていると話す。

「世界には、とんでもない勢いのボールを放ってくる選手がゴロゴロいる。日本国内では仮想敵を設定して準備することが難しく、今までは海外選手の球を受けて面食らうこともありました。そういった部分での世界とのギャップが年々狭まってきていると思います」

 なぜギャップが狭まったのだろうか。池田スタッフによれば、「チームとして海外で戦う機会が増えていること」に加えて、“武者修行”と称して選手が個別に海外へ出向き、他国のプレイヤーと練習をともにすることで鍛えられてきたという側面があるようだ。

「日本人は国際大会が特別な場であるという感覚を持つ人も多いけれど、欧州は毎月のように(ゴールボールの)リーグ戦をしているんです。でも、僕らも海外に出ていく機会が増えているし、海外選手と心理的に近くなって連絡を取り合ったりもしている。そうやって世界との距離を縮めているという感覚でしょうか。技術やパワーの面でも、心の面でも」(池田スタッフ)

選手自身も実感するチーム力の向上

左右どちらかを担うことができ、日本の主軸として期待される辻村 【写真:吉田直人】

 日本代表の主軸となる辻村真貴(コカ・コーラボトラーズジャパン)も一昨年、中国に滞在し、トレーニングを積んだ。

「海外でしか受けられない投球があるので、ディフェンスに対する意識が高まるきっかけになりました。遠征経験を積んで、国際大会にも慣れてきた。それが、直近の優勝にもつながっていると思います」

 ゴールボール歴8年目の辻村は、「ウイング」と呼ばれるチーム陣形の左右を担当するプレイヤーだ。多くのウイングは左右どちらかを担うことが多いが、辻村は双方をこなせる器用さを持つ。自身を「オタク気質でハマりやすいタイプ」と評し、「ゴールボールが好きでしょうがない。堪能しています」と笑顔を見せる。

 辻村の強みは、左右の守備対応に加え、その多彩な攻撃手法と言えるだろう。ゴールボールでは、投球者ではないプレイヤーが、声を出したり、足踏みをしたり、実際に投球するふりをしてフェイントをかける。それに連動して投球者がコートを縦横無尽に移動しながら攻撃を行う光景を頻繁に目にする。この“移動攻撃”を辻村は好む。「自分のサイドで投げるよりも移動した方が強みを生かせる」と心強い。

 そんな辻村も、男子のチーム力向上を感じているという。

「自分たちの追求してきたことを発揮して、終わったところが結果。2020年はパラリンピックのホスト国なので、メダルを取りたい気持ちはあります。一方で、そればかりだと固くなってしまうので、自然体で臨みたいですね」

 結果は求める。しかし、ゴールボールを堪能するというベーススタンスを崩すことはないようだ。

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著者プロフィール

1989年千葉県生まれ。大学時代は学内のスポーツ機関紙記者として、箱根駅伝やインターカレッジを始め各競技を取材。2016年、勤務先の広告代理店を退職後、フリーランスライターとしてスポーツを中心に取材を行っている。

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