初招集組の評価とロシア組の気になる今後 「平成最後の代表戦」に思うこと

宇都宮徹壱

あえて3枚看板を外して臨んだボリビア戦

日本は中島(8番)のゴールで待望の先制点を挙げた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 コロンビア戦から4日後の26日、ノエビアスタジアム神戸にてボリビア戦が行われた。指揮官が予告したとおり、この日のスタメンは総入れ替え。GKシュミット・ダニエル。DFは右から西大伍、三浦弦太、畠中槙之輔、安西。中盤は底に小林祐希と橋本拳人、右に宇佐美貴史、左に乾、センターに香川。そしてワントップに鎌田。畠中と橋本は、これが代表デビュー戦である(安西はコロンビア戦の後半44分に途中出場)。また、森保体制を象徴する3枚看板(中島、南野、堂安)が、ロシア組の3人と入れ替わったのも興味深い。

 序盤の日本は、やや消極的なプレーが目立った。無理もない。ロシア組の3人を除くと、全員がキャップ数1桁。単なる親善試合であっても、かかるプレッシャーは並大抵ではあるまい。初めての組み合わせゆえに連係ミスも多く、およそチームとしての体(てい)をなしているとは言い難い。対するボリビアも新体制が発足したばかりで、国際Aマッチは先週の韓国戦に続いて2試合目。スタメンの平均年齢も25.5歳と日本よりも若い。それでもチームらしさという点では、相手のほうが少なからず上回っていた。

 そんな中、ひとり気を吐いていたのが左MFの乾である。前半23分、逆サイドにいた香川からの長いパスを受けると、そのまま中央に切れ込んで右足で鋭いシュート。44分には、宇佐美のシュートが相手に当たったところを即座にボレーで狙う。さらにエンドが替わった後半13分には、畠中の縦パスを受けると前線の鎌田にスルーパスを送り、相手GKとの1対1の局面を演出した。いずれも乾らしい、積極性と即興性あふれるプレーであったが、残念ながらゴールネットが揺れることはなかった。

 ポゼッションとシュート数では圧倒するものの、なかなか均衡を崩せない状況を打破すべく、森保監督が決断したのは「いつもの顔ぶれ」に戻すことであった。後半16分に宇佐美と乾を、23分には香川と小林をベンチに下げ、堂安と中島、さらに南野と柴崎が投入される。これで前線は一気に活性化。縦への意識がより強まり、前線でのプレッシングで次第に相手を圧倒していった。後半28分には、安西に代えて佐々木。この日の安西は荒削りな面はあったものの、左サイドからたびたび意欲的な仕掛けを見せていた。

 そして後半31分、ついに待望の先制ゴールが日本に生まれる。起点となったのは、自陣での堂安のパスカット。ここから日本のカウンターが始まり、堂安から南野へ、さらに南野から中島へ、それぞれパサーを追い越しながら左サイドを突破していく。そして仕上げは中島。ペナルティーエリア内で切り返すと、利き足でない右でニアサイドを突いて決勝ゴールを挙げる。後半38分には、鎌田から鈴木への最後の交代があったが、大きなアピールには至らず。そのまま1−0のスコアで、日本は「平成最後の代表戦」を勝利で締めくくった。

最もアピールに成功したのはボランチの橋本

ボリビア戦で初キャップ初スタメンとなったボランチの橋本拳人は、最もアピールに成功した選手 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 あらためて、今回の2試合の評価について考えてみたい。まずは初招集の選手たちから。FWの鈴木と鎌田は、得点こそなかったものの、いずれも可能性を感じさせるプレーは見せていた。ただし(最初から分かっていたことだが)彼らに「大迫の代わり」を求めるのは酷な話。鈴木は縦へのスピードが持ち味であり、長身(185センチ)ではあっても前線でボールを収めるタイプではない。それは鎌田にも言えることで、ボリビア戦では2列目まで下がったり左右に展開したりして、何とか活路を見いだそうとしていた。

 DFの安西と畠中については、前者が縦への突破力、後者が視野の広さと展開力を随所に披露。どちらも今後が楽しみな選手だが、それぞれのポジションですぐさま序列が逆転することはなさそうだ。最もアピールできていたのは、ボランチの橋本。初キャップ初スタメンで臨んだボリビア戦では、小林と柴崎というタイプの異なる2人が安心して前に出られる位置取りを意識し、最終ラインのカバーリングにも配慮しながらつぶし役に徹していた。今回は追加招集だったが、次はストレートで呼ばれるかもしれない。

 では、図らずも3枚看板の引き立て役となってしまった、ロシア組についてはどうか。試合前日に「周り(の動き)をうまく感じながら、自分の特徴を生かして、いろいろな攻撃パターンを出せれば」と語っていた宇佐美は、残念ながらアピール不足のまま後半16分でお役御免となった。逆に積極的にチャンスに絡んでいた乾は「アピールできなかったら、いい選手はいっぱいいるので(代表に呼ばれるのは)最後になる可能性もある」と危機感を隠さない。そんな中、気になるのが香川の今後である。

 森保監督は「なかなか相手の守備が崩れない中、相手を少しでも間延びさせる、あるいは疲労させる、嫌なところを突くようなプレーをしてくれていた」と、ボリビア戦ではキャプテンも務めた香川の貢献度に一定の評価を示した。確かに、この日のプレーそのものは悪くなかったし、彼がピッチにいる間に得点が決まっていれば、もっとポジティブな評価になっていたとも思う。そもそも11人中8人が1桁キャップ数というチームの中で、香川を含むベテランたちの評価が必要以上に低く見られてしまうのはフェアではない。

 とはいえ、このまま世代交代が進めば、3年後のW杯のピッチに昭和生まれがいなくなるのは必至。そのスピードは、むしろ早まるかもしれない。香川にしても、背番号10とキャプテンマークを付けてスタメン出場した地元での代表戦が、実は見納めとなる可能性もゼロではないように感じられる。果たして森保監督は、どのような判断を示すのだろうか。次の代表戦は、コパ・アメリカの直前。6月5日(豊田スタジアム)と9日(宮城スタジアム)で行われる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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