吉田、上林は侍打線の中核に成長できるか 最後の“試す機会”で猛アピールに成功

中島大輔
「(秋山)翔吾さんとかいますし、レギュラー陣が入ってきた中でどうかなというところがあるので」

 上林誠知(福岡ソフトバンク)が初戦の後に話した言葉が、3月9、10日に京セラドーム大阪で行われた「ENEOS 侍ジャパンシリーズ2019」の意義をよく物語っていた。

 2019年のプロ野球開幕を3週間後に控え、初選出が11人。今年の秋に開催されるプレミア12、そして来年の東京五輪で中心メンバーになると目される選手たちがそろって未招集となる中、稲葉篤紀監督は今回のメキシコとの2試合を「試すことのできる最後の機会」と位置付けた。

“動くボール”への対応は…

第2戦で満塁弾を放つなど、5打数4安打6打点の大暴れを見せた吉田が最大の収穫だ 【写真は共同】

 秋山翔吾(埼玉西武)や柳田悠岐(福岡ソフトバンク)、筒香嘉智(横浜DeNA)という近い将来メジャーリーグへの移籍がうわさされる面々が抜けた場合、果たして誰が打線の中核を担うのか。その試金石となるのが、データのない相手への対応力、さらに国際試合で毎回苦しめられる“動くボール”への対処だ。

「解決策がなかなか見つからない中で、選手には動く球を経験してもらいながら、その打席の中でどれだけ自分で修正できるか、対応できていくか」

 1勝1敗でメキシコとの強化試合を終えた後、稲葉監督はそう話した。結局バッティングとは投じられたボールへのリアクションだと考えると、チームとしてできる対策はそう多くない。最後は個々が対応するしかないのだ。つまり高度な打撃技術を身につけた者だけが、侍ジャパンにとって本番と位置付けられるプレミア12、そして東京五輪で主力の座を担うことができる。

 そうした意味で、今回の最大の収穫は初選出の吉田正尚(オリックス)だった。2試合で5打数4安打、計6打点。初戦は初回にタイムリー安打を放つと、4番に入った2戦目はまたしても初回に満塁本塁打をライトスタンドに突き刺した。持ち味を存分に発揮した吉田について、稲葉監督はこう称賛している。

「勝負強いなというところですね。初見の投手でもしっかりと自分の中でタイミングを合わせていける。改めて一発勝負というところでは、ああいう勝負強さは魅力的だなと感じました」

 吉田は初戦の後、周到な準備についてこう明かした。

「日本のシーズンでは戦わないタイプのピッチャーばかりだったので、相手に合わせることなく自分のタイミングを早く取り、対応できる準備をしました。動く球というところを意識して、少しポイントを(体の中に)入れるというか。詰まってでも何とか(外野の前に)落とすことを意識しながら、センター方向にしっかり返していくことを心がけて今日は対戦しました」

 メキシコ戦で発揮した見事な対応力は、卓越した打撃技術を誇る証だ。普段から自分のポイントまでボールを呼び込み、引きつけて強くたたくことを心がけているから初見の相手にも対応できたのだろう。たとえタイミングをずらされても、外野の前に落としてヒットにすればいいという“二段構え”も打撃技術の高さを表していた。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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