創意工夫が生み出す人馬一体 強化進むパラ馬術、騎手たちの挑戦
「人馬一体」がパラ馬術の理想形。馬を操るのではなく、馬の進みたいように進ませているような調和が必要だ 【写真:吉田直人】
石井直美(サンセイランディック)と高嶋活士(かつじ、コカ・コーラボトラーズジャパン)の2人は、異なる経歴を経てパラ馬術と出会い、東京大会を視野に競技に取り組んでいる。リオデジャネイロ大会には日本代表から1人(宮路満英)のみの出場となった同競技だが、石井や高嶋も国内主要大会で上位に食い込み、日本代表入りをうかがう。
2人は、陸上・十種競技の元全日本王者でタレントの武井壮さんがパラスポーツに挑戦するNHKの番組に出演(2月22日放送)。スポーツナビはこの収録に同行し、競技に臨む思いを聞いた。
石井のきっかけは「夫のひとこと」
石井の背中を押したのは、夫の「障がいがあっても馬に乗れるらしいよ」という言葉だった 【写真:吉田直人】
「子育てが終わったころ、主人の『障がいがあっても馬に乗れるらしいよ』という一言で、すぐに体験乗馬に行きました」
片腕のみで騎乗ができるようになるまで苦労もあったというが、「手綱のコントロールの前に馬を動かせるかがポイント」だと気づいてから、コツをつかんだという。馬場馬術では、人が馬の動きを手助けするのではなく、あくまでも馬が自然に動いているような状態が理想とされる。そのためにはまず、選手自身のリラックスが必要不可欠だ。その秘訣(ひけつ)を、石井は「場数ですね」と言い切る。
馬場馬術には7年ほど前から取り組んでいる。初めて競技会に出た時を振り返ると「今思うとよく出たなと思います」と笑うが、「上達の最短距離は競技会に出ること」という向上心が、挑戦に向けて背中を押した。
“片手騎乗”を実現するための工夫とは
片手での騎乗は「私のアピールポイントでもあります」と自負している 【写真:吉田直人】
「海外の選手たちも、工夫をこらした馬具を使用していますね。ただ、あまり調整を加えすぎても、馬が選手のどの状態に合わせれば良いのか迷ってしまうという懸念もあるんです。まず“馬優先”で考えて、少しずつ加工を重ねていくというイメージです」
石井が義手を外さずに騎乗しているのにも、似たような理由がある。左右のバランスや、馬にかかる体重を考慮して、「重り感覚」で義手を付けたまま乗っているのだという。
「調教する上でも、なるべくバランスが整った状態の方が馬に優しいんです」
石井の競技クラスは最も障がいが軽いとされるグレード5。国際大会の経験は浅いものの、アピールポイントを聞くと、「片手での騎乗」と即答した。
「私のクラスには片手の選手が少ないのですが、自由演技であえて片手での技を取り入れる人もいます。それだけ難易度の高い騎乗をしているという自負もあるので、私のアピールポイントでもありますね」