谷口彰悟×槙野智章 J開幕直前対談 アジアでの戦い、今季に懸ける思いを語る

宇都宮徹壱

共にチームの守備の要である槙野(左)と谷口に話を聞いた 【宇都宮徹壱】

 昨シーズンのJ1リーグチャンピオンである川崎フロンターレの谷口彰悟。そして天皇杯覇者である浦和レッズの槙野智章。シーズン開幕を告げるFUJI XEROX SUPER CUPで激突した両者に、大会前に話を聞く機会があった。

 共にチームの守備の要である彼らには、背番号が同じ5であること以外に、もうひとつ共通点があった。実は4年前の2015年8月に中国で行われたEAFF東アジアカップの対北朝鮮で、彼らは日本代表として共にスタメン出場しているのである(2カ月前の対イラク戦でも彼らは同じピッチに立っているが、スターティングリストに両者の名前が載ったのはこの試合のみ)。

 さて、今季のACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)への出場が決まっている川崎と浦和だが、J1リーグへの捉え方は対照的だ。「3連覇というものを絶対に狙っていきます」(谷口)という川崎に対して、13年ぶりのリーグ優勝を目指す浦和は「ファン・サポーターからの強い期待を感じていますし、チームとしても『今年こそはリーグを』という姿勢」(槙野)を鮮明にしている。

 共に首都圏をホームタウンする人気と実力を兼ね備えたクラブながら、チームカラーやサポーター気質が異なる川崎と浦和。今季のJ1が、この両者の動向に注目が集まることは間違いなく、そこから新たなライバル関係が生まれることを期待せずにはいられない。さっそく谷口と槙野、両選手に今季への意気込みを語ってもらおう。(取材日:2月14日)

過酷なアジアの戦いに必要なもの

17年にACLを制した浦和、アジアでの戦いについて「簡単な相手はひとつもない」と気を引き締める 【写真:Motoo Naka/アフロ】

──間もなくJ1の2019シーズンが開幕します。Jリーグキックオフカンファレンスを終えて、今の率直な気持ちをお聞かせください。

谷口 いよいよ始まるという楽しみな気持ちが強いです。ここからまた1年、長い戦いが始まるわけですが、そのための準備はキャンプを通してだいぶできてきたと思います。今はシンプルに「早く(新しいシーズンが)始まってほしいな」という心境ですね。

槙野 僕はアジアカップが終わってから沖縄のキャンプに合流したんですが、コンディション的にちょっと(調整の)難しさはありましたね。ただ、僕は(オズワルド・)オリヴェイラ監督の下でキャンプをしたことがなかったので、そういう意味では早くチームに合流したかった。コンディションを上げるのはもちろんですけれど、早くチームメートと時間を共有することが、自分にとって一番大事だと思っていましたので。オフなしでの合流ではありましたけど、気持ちの面では(日本代表から)すぐに切り替えることができました。

──今季は浦和も川崎もACLに出場します。すでにグループステージの組分けは終わっていますが、まずはそれぞれの印象についてうかがいたいと思います。浦和は北京国安(中国)、全北現代(韓国)、そしてタイのブリーラム・ユナイテッドとなっています。

槙野 簡単な相手はひとつもないですね。ブリーラム以外はACLで対戦したことがあるので、移動やスタジアムについてもそうだし、選手の特徴も分かっています。ただし、Jリーグでの戦い方とアジアでの戦い方はやっぱり違いますよね。ブリーラムについては、Jリーグ勢がアウェーで苦戦している印象があります。向こうで試合した選手に聞いても、けっこう暑いし、移動も(飛行機を)乗り換えないといけないし。それくらい難しい環境で戦わなければならないので、メンタル面をしっかり整えて臨まなければならないと思います。

──川崎はシドニーFC(オーストラリア)、上海上港(中国)、そしてプレーオフでもう1チームですね。

谷口 おそらく韓国の蔚山現代が勝ち上がる可能性が高いのかなと。去年のグループリーグが蔚山と上海とメルボルン・ビクトリー(オーストラリア)だったので、もし蔚山が上がってきたらある程度の慣れはあるかなと。ただし(去年)戦ってみて分かりましたけれど、やっぱり簡単な相手ではないし、特にアウェーではまったく日本とは異なる雰囲気での試合になります。ですからそこの切り替えというか、自分たちのスタイルを貫くところと、逆に割り切って戦うというところ、頭を柔らかくして対応する必要があると思います。

──去年のACLでグループステージ敗退している川崎としては、その反省を生かしたいところですよね。

谷口 そうですね。去年はACLが先に2試合あって、それからJリーグが開幕したんです。そこで2敗して、なかなか波に乗り切れずに苦しいスタートになりました。やっぱり初戦は重要だし、しかもホームでは確実に勝ち点3を確保しておかないと厳しい。アウェーでも負けないくらいの気持ちで、しぶとく戦っていかないといけないと思いました。

──浦和は17年のACLに優勝したにもかかわらず、昨年はアジアの舞台に立てませんでした。今年は天皇杯を制しACL出場権を獲得しましたが、やはりアジアへの思いというものは強かったのではないでしょうか?

槙野 少なくとも、僕の中ではアジアでの思いは強かったですね。(ACLの)チャンピオンチームが翌年にアジアの舞台にいないという、もどかしさと虚しさは感じていました。やっぱり浦和レッズというクラブは、アジアの舞台に返り咲かないといけない。それは、チームの合言葉にもなっていました。去年はリーグ戦で、ACLの出場権を獲得しようとしていましたけれど、(なかなかチームは勝てず)オリヴェイラ監督が来て、そこからは「天皇杯でACL出場権を」という思いが明確になりましたね。それがしっかり実現できて、再びアジアの舞台に戻って来られたのは良かったです。

──リーグ戦とACLを平行して戦う上で、選手に求められるものは何でしょうか?

槙野 フィジカルとメンタルじゃないですかね。去年ACLを制した鹿島(アントラーズ)も、最後までリーグ優勝も目指していましたけれど、選手に聞いたら「相当疲れた」と言っていました。試合だけでなく移動の疲れもあるし、国内とアジアとでは戦い方も違うし。

 僕らもACLを優勝した年は、リーグは結果を出せなかった。もちろん捨てていたわけではないけれど、なかなかうまく波に乗れなかったですね。この2つを並行して戦うためには、しっかり戦うためのメンタル、そして長距離移動にも相手のプレッシャーにも耐えられるフィジカル、その両方が必要だと思います。

谷口 今、槙野選手が言ったように、コンディショニングというのは非常に重要だと思います。どれだけ回復して試合に臨めるかというのは、僕らの生命線でもあるので。そこはいろいろな方の力を借りながら、できるだけ毎試合100%でやれるように準備していくことが大事だと思います。

 あとは、ACLとリーグの結果に引きずられないというか、目の前の1試合1試合を丁寧に戦っていくというのは大事ですね。ACLで勝ったからといって、リーグが勝てるわけでもないし、逆もそうです。ひとつひとつ、やるべきことをやっていくということが大事だと思います。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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