堂安律は“屈辱感”を胸にリベンジを誓う 長友も期待を寄せる、ずば抜けた向上心

元川悦子

決勝T以降は警戒され、思うような動きができず

決勝T以降は徐々にプレーを研究され、思うような動きができないことも増えた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 これで自信を得た堂安は、続く13日のオマーン戦で、より意欲的な局面打開を試みるようになった。開始早々の2分には、自らのドリブル突破から原口元気にマイナスのボールを入れた。これを原口が決めていたら、もっと楽に勝てていた可能性もあるが、シュートは惜しくもクロスバー。そこから日本は度重なる決定機を逃し、原口のPK1本で逃げ切る苦戦を強いられてしまった。

 堂安はPK奪取につながる起点のパス出しを見せたものの、日本通の敵将、ピム・ファーベーク監督に分析され、警戒される部分も少なくなかった。「もう少しアイデアが必要だなと感じた」と本人も述懐するように、相手のマークが厳しくなる中、いかにして解決策を見いだすかという新たな課題も突きつけられた。その難易度は決勝トーナメント以降、試合ごとに上がっていった印象だ。

 顕著だったのが、日本のボール支配率が23.7%と攻め込まれた21日のラウンド16・サウジアラビア戦。開始7分に原口のクロスを南野がそらしたボールに反応するシュートシーンをいきなり作ったものの、その後はボールキープできない状況が続いた。レフティーの若武者が左足でファーストタッチをするという癖を相手も分析していて、一歩目の出足を狙われるシーンも目についた。それは28日の準決勝・イラン戦やカタール戦でも何度か見受けられた。

 思うようにドリブルを仕掛けられず、前へ出られなくなった堂安は守備に忙殺される。時折、繰り出すカウンターも不発に終わり、いら立ちを募らせた。堂安がドリブル突破という絶対的武器を備えていることは特筆すべき点であり、これからも研ぎ澄ませていくべき部分だ。ただ、日本対策を講じてくるアジアでは、常にその強みを発揮できるわけではない。

 ドリブルで確実にタメを作れる中島がいたらよりフリーになって前へ行けたかもしれないが、原口とのコンビでは微妙にリズムが違っていた。南野も徹底マークで苦しむ中、堂安には攻撃陣をどう機能させていくのかという命題が課された。中島不在が影を落としたのは事実かもしれないが、代表攻撃陣の軸を担う堂安には、自らイニシアチブを取って、多彩なバリエーションを示す必要があった。苦しんだサウジ戦などはその重要性を再認識するいい機会になったのではないか。

長友も太鼓判を押す、堂安のメンタルの強さ

「律の向上心は本当にすごいし、ずば抜けている」と長友(5番)も太鼓判を押す 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 主導権を握ったベトナム戦では、酒井宏樹とのタテ関係でサイドを攻略したり、自らのスルーパスから南野が決定機を迎えるようなチャンスを数多く作れていた。自身もPKながら、得点を取れたことでポジティブになれた。「(遠藤航→原口→堂安という流れから)PKを取ったシーンは、あれこそ森保さんが求めているサッカーだと思います。タテパスが入って3人目が絡んで飛び出すという動きがやっと連動できた。今大会初めてじゃないかというくらいの動き出しができた」と堂安自身もうれしそうに語ったほど、手ごたえをつかんだようだ。

 準決勝のイランでもその流れを持続させた。前半こそ屈強なフィジカルと当たりを備えた相手に凌駕(りょうが)されたものの、後半に入ってからは運動量と集中力で上回り、大迫の2ゴールと原口のダメ押し点で3−0と圧勝した。ただ、堂安には南野とのワンツーで右サイドを駆け上がり、敵をかわして打った左足シュートを防がれた決定機に象徴される通り、フィニッシュの課題が残された。

「自分は一発を持っていると思っていたけれど、なかなか振り切れず、大会を通してその一発を出せなかった」と決勝後に述懐した通り、A代表デビューしたばかりのアタッカーが大舞台でゴールを奪う難しさを再認識したのは間違いない。「どこで一発を出すのか、自分の特徴をどうやって出すのか。それを逆算してプレーしていきたい」と堂安も自戒を込めて口にしていた。

 今大会の日本は、4試合出場の大迫が4得点で、全7試合出場の原口が2得点、6試合出場の堂安と南野がそれぞれ2点と1点。9ゴールを挙げ、得点王とMVPをダブル受賞したカタールのアルモエズ・アリのような傑出した点取り屋は不在だった。総得点も優勝したカタールの19に対して日本は12。これも含めて数字的にも物足りなく映った。

 堂安自身もアルモエズ・アリという2つ年上の新星には刺激を受けたことだろう。もともとワールドカップ・ロシア大会に参戦したキリアン・ムバッペ(フランス)やイ・スンウ(韓国)を見て「自分は何をやってるんや」と焦りを覚えていた男だ。さらなるレベルアップへの渇望を強めたに違いない。

「律の向上心は本当にすごいし、ずば抜けている。あの信念の強さがあれば上にいけますよ」と長友も太鼓判を押すメンタルの強さがあれば、優勝を逃した屈辱感をバネにできるはず。堂安のここからの巻き返しに大きな期待を寄せたい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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