2大会ぶりの4強は評価すべき一方…序列が固定化する日本はイランに勝てるか

宇都宮徹壱

VARに泣かされ、VARに救われる

この日唯一の得点は堂安(写真右)のPKだった 【Getty Images】

 試合会場のアルマクトゥーム・スタジアムには、新たな歴史を作ろうとする祖国の代表を後押しするべく、ベトナムのサポーターが大挙して駆けつけていた。日本のサポーターも応援では負けてはいないが、何しろ多勢に無勢。加えてスタンドの色がブルーなので、余計にベトナムの赤が目立つ。ややアウェー気味の雰囲気の中、日本はサウジ戦から一転、ポゼッションを高めながらチャンスをうかがう。対するベトナムは、守備ブロックに人数を割いているため、カウンターはグエン・コン・フォンによるドリブル任せの状態。そこは日本の守備陣も織り込み済みで、序盤は危険な場面をほとんど作らせなかった。

 日本の最初のチャンスは前半24分。柴崎のCKに吉田が頭で合わせてネットを揺らす。ここでいきなりVARが発動し、吉田のハンドでゴールが取り消される。リプレー映像を見ると、ヘディングシュートが自身の腕に当たっているので、確かに納得の判定。しかしそれは、ベトナムに勇気を与える判定でもあった。37分にはグエン・コン・フオンとファン・バン・ドゥックが連続シュート。その1分後にも、日本の自陣での連携ミスを突いて、グエン・クアン・ハイとファン・バン・ドゥックが決定的なチャンスを迎える。いずれも守備陣のブロックと権田のセーブで事なきを得たが、何とも落ち着かない前半の45分であった。

 後半8分、日本は原口のスルーパスに反応した堂安が、ブイ・ティエン・ズンに引っ掛けられてペナルティーエリアで倒される。いったんは試合が流れたが、3分後に再びVARが発動してPKの判定となった。これを堂安が落ち着いて決めて、後半12分にようやく日本が先制する。その後の日本は、ベトナムのカウンターにきっちり対応しながら、左サイドの原口が再三チャンスに絡むも追加点は奪えず。すると後半27分、いつもより少し早めに森保監督が最初のカードを切る。北川に代えて大迫。初戦に出場して以来、3試合に欠場していた背番号15が、準決勝進出を見据えての戦列復帰となった。

 日本は後半33分には、疲れの見える原口を下げて乾貴士を投入。残り時間が10分を切ると、次第に球際での攻防が激しさを増す中、不用意なカードをもらわないかとハラハラし通しだった。後半44分には、3人目の交代としてクローザーの塩谷がピッチに送り込まれ、南野が安堵(あんど)した表情でベンチに引き上げていく。アディショナルタイムは4分あったが、日本は相手の猛追を振り切ることに成功。サウジ戦に続いて1−0のスコアで勝利し、ベスト4進出一番乗りとなった。それにしてもVARに泣かされ、VARに救われる、何とも奇妙な試合であった。

2大会ぶりのベスト4進出を果たした日本だが

イランとの準決勝を見据えて3試合ぶりの出場を果たした大迫(写真右)。一方、北川は得点を挙げることができていないまま、ベンチに下がった 【Getty Images】

「われわれは日本を相手にベストを尽くした。敗れたことでの失意はあるが、選手たちの戦いについては十分に満足している。今大会で、日本やイランやイラクのような強豪国と対戦した経験は、ベトナム・サッカーの今後にきっと役立つと思う」

 敗れたベトナムのパク監督は、穏やかな表情でこのように総括。最後は韓国人記者のひとりひとりと笑顔で握手する姿が印象的であった。もちろん悔しさもあるだろう。それでも、グループステージをギリギリで突破したベトナムが、アジアカップの準々決勝で日本と堂々と渡り合った。今回の快挙には、ベトナム国民も大いに誇りに思えたはずだ。そして個人的に注目していた、グエン・コン・フォン。吉田や富安とマッチアップする姿に、「なぜJリーグで通用しなかったのだろう?」と疑問に思った方もいたと思う。今回の活躍で、再び日本でプレーするチャンスが巡ってくることを願わずにはいられない。

 一方、勝った日本の森保監督は「チームとしても経験値がひとつ上がり、成長につながる戦いができたので、次の戦いもしっかりチャレンジしていきたい」と、一定の手応えを感じた様子。本当はもっとチャンスを決めきれていればよかったのだが、2試合連続で失点ゼロに抑えたこと、最後に大迫を試すことができたこと、そして誰も累積警告にならずに試合を終えたことは大きかった。もっともサスペンドのリスクについては、指揮官はどう考えていたのか非常に気になるところ。幸い会見で質問する機会があったので、その疑問をぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。

「もちろん(リスクは)考えていました。しかしながら、これまでもいろんなアクシデントがあった中、まずは現時点で最良と思うことをやって、そこで何か起こった時に対処していこうと思っていました。もし出場停止の選手が出たとしても、代わりに入っていいプレーを見せてくれる選手は控えていますので、そこは自然な流れでいこうと決めました」

 果たして慎重なのか、それとも大胆なのか。あるいは控えの選手を信頼しているのか、いないのか。どちらにも取れるコメントである。もっとも北川の起用については、大迫を投入するまでの「埋め合わせ」にしか私には見えなかった。そこでゴールという結果を出せればよかったのだが(後半21分には原口のクロスからのビッグチャンスがあった)、決めきれないまま大迫と交代。今大会5試合すべてに出場機会を得ている北川でさえ、スタメン組の序列を打ち破るのは容易ではない。

 20時から行われたイラン対中国は、イランが盤石の戦いを見せて3−0で勝利。この結果、28日のアルアインでの準決勝の相手はイランに決まった。日本が前回大会を上回る、ベスト4という結果を残したことは純粋に評価すべきであろう。だが「総力戦」とは言いながらも、メンバーの序列が固定化された今の日本に、アジア最強のイランを打ち破ることは可能だろうか。2大会ぶりのベスト4進出には正直、うれしさ半分といったところである。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

【速報】サッカーU-23日本代表、U-2…

フットボールチャンネル

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント