不必要な延長戦を強いられた韓国 日々是亜洲杯2019(1月22日)

宇都宮徹壱

ラウンド16で大健闘の3位抜けチーム

会場のラシド・スタジアムは駅からのアクセスが抜群。遠景には駅を行き来する列車が見える 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ18日目。この日、ドバイでは韓国対バーレーンが17時(現地時間、以下同)から、アブダビではカタール対イラクが20時から、それぞれ開催される。ラウンド16も残り2試合。ここまで日本をはじめ、ベトナム、中国、イラン、オーストラリア、UAEの6カ国のベスト8進出が決まった。この日はシャルジャからドバイに拠点を移して、韓国対バーレーンを取材。前回準優勝の韓国は、今大会はまだ未見だったので楽しみにしていたのだが、その前にラウンド16での「驚き」について言及しておきたい。それは、3位抜けの大健闘である。

 まず、ヨルダンをPK戦の末に打ち破ったベトナム。5−4−1という後方に重心を置いたシステムながら、決してドン引きすることなく、ワイドを有効に使った切れ味鋭い攻撃を繰り出す。若い選手が中心だが、アンダー世代のワールドカップ経験者をそろえているだけに、国際大会で物おじしないメンタリティーを共有しているのも強みだ。オマーンはイランに0−2で敗れたものの、1失点はPKによるものであり、十分に存在感をアピール。そしてキルギスは、開催国UAEに対して一歩も引かぬ戦いを見せて、延長戦の末に2−3で敗れている。

 出場国が16から24に増えたことで、大会前は「アジアカップのレベルが下がるのではないか」という懸念は確かにあった。3戦全敗で失点が2桁というチームがあったのも事実である。とはいえ、ここまでの3位抜けチームの大健闘を見ると、レベルが下がっているどころか、むしろアジアにおける強豪国と中堅国との実力差が、想像していた以上に接近しているようにも感じられる。中堅国が欧州のスタンダードを積極的に取り入れた結果なのか、それとも強豪国が頭打ち状態であることの証左なのか。結論を出すには、もう少し大会の推移を見守る必要がありそうだが。

 韓国対バーレーンもまた、1位抜けの強豪国と3位抜けの中堅国の顔合わせである。今大会の韓国は、グループステージの2戦はスロースタートだったものの、最後の中国には2−0で快勝して3戦全勝の1位抜け。ただし、初戦でキ・ソンヨンをけがで失ったのは痛手だった(すでにチームを離脱)。一方のバーレーンは、UAEとのオープニングマッチに1−1と引き分け(失点は微妙な判定によるものだった)、タイに0−1で敗れたものの、最後のインド戦では土壇場で得たPKを決めて、実に4大会ぶりのグループ突破を決めていた。

韓国の勝利には感動があった、けれども

試合は2−1で韓国が勝利。感動的な結末だったが、ゲームをコントロールできなかった課題も 【宇都宮徹壱】

 試合は、バーレーンの積極的な仕掛けから始まった。前半4分にモハメド・ジャシム・マルフーンが、10分にはサイド・レザがミドルで狙うもネットを揺らすには至らず。対する韓国は前半32分、ソン・フンミンのゴール前へのスルーパスにファン・ウィジョが反応。しかしシュート直前、GKサイド・シュッバルに止められてしまう。ポゼッションでは相手を圧倒しながらも、枠内シュートゼロの韓国が会場を沸かせたのは前半44分。ソン・フンミンのパスを受けたイ・ヨンが右サイドから折り返し、ニアで受けたファン・ウィジョが後方に流すと、最後はファン・ヒチャンが右足インサイドで先制点を決めた。

 1点ビハインドで後半を迎えたバーレーンは、相手にゲームを支配されながら粘り強くチャンスを待ち続ける。その瞬間が訪れたのは、後半32分であった。サイド・ジヤからの縦パスに、途中出場のマフディ・アルフマイダンがシュート。ゴールラインぎりぎりで相手DFにクリアされるも、モハメド・アルロマイヒが押し込んでバーレーンが同点に追いつく。結局、1−1のタイスコアで90分が終了。ラウンド16に入って、これが4試合目の延長戦となった。

 延長前半12分、バーレーンはゴールを守り続けたシュッバルが負傷交代。その5分後、韓国は右サイドを駆け上がったイ・ヨンのクロスに、途中出場のキム・ジンスが見事なダイビングヘッドで勝ち越しゴールを決める。次の瞬間、韓国のベンチにいた選手とスタッフ全員が駆け寄り、キ・ソンヨンの背番号16のユニフォームを掲げて喜びを爆発させた。バーレーンの抵抗もここまで。延長後半の15分間、しっかり要所を締めた韓国が2−1で勝利してベスト8進出を決めた。

 3位抜けのバーレーンの健闘が光った今回の試合。とはいえ、ポゼッションで圧倒しながらも同点に追いつかれ、不必要な延長戦を強いられた韓国に問題があったのも事実だ。実際、チームを率いるパウロ・ベント監督も「1−0の段階でもっとゲームをコントロールすべきだった」と語っている。そうして考えると、サウジアラビアに1−0できっちり逃げ切った日本の勝利は、もっと評価されてよいのではないか。確かにゲーム単体で見れば、韓国のゲームは感動的であり、日本のサウジ戦は「塩試合」だった。それでも大会全体を通して見れば、ラウンド16での両者の戦いの評価は、おのずと変わっていくように思えてならない。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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