波乱の幕開けとなったラウンド16
日々是亜洲杯2019(1月20日)

準々決勝の日本の相手が決まる試合

試合前、国旗を広げてくつろぐヨルダンのサポーター。早々にグループ突破を決めた余裕が感じられる
試合前、国旗を広げてくつろぐヨルダンのサポーター。早々にグループ突破を決めた余裕が感じられる【宇都宮徹壱】

 アジアカップ16日目。いよいよ大会はノックアウトステージに突入する。この日は15時(現地時間、以下同)よりドバイにてヨルダン対ベトナム、18時よりアルアインにてタイ対中国、そして21時よりアブダビにてイラン対オマーン。実は私が滞在しているシャルジャでも、ラウンド16のサウジアラビア戦を控えた日本代表の前日会見が予定されていたが、悩んだ末にドバイでの試合を取材することにした。日本がサウジを倒せば、次の相手はこの試合の勝者となる。ベトナムについてはグループステージで2試合見ているが、ヨルダンについては未見。そんなわけで、この機会を優先することにした。


 ヨルダンのFIFA(国際サッカー連盟)ランキングは109位タイ(2018年12月20日時点)。ノックアウトステージに進出した16チームの中では3番目に低い(バーレーンが113位、タイが118位)。しかし今大会は、初戦で前回王者のオーストラリアに1−0で競り勝ち、続くシリアとのゲームにも2−0と完勝して、グループステージ突破第1号となった。対するベトナムは、第3戦でイエメンに1勝したものの、残り2戦は2敗。グループステージの全試合が終わって、ギリギリでの3位抜けが決まった。つまりこのカードは、グループ突破を最初に決めたチームと最後に決めたチームとの顔合わせ、ということになる。


 バスとメトロを乗り継いで、試合会場のアルマクトゥーム・スタジアムへ。40分間のバスの旅では、宗教都市の趣があるシャルジャから観光都市のドバイへのグラデーションを楽しむことができた。会場に到着すると、両チームのサポーターが、楽しげに祖国の名を連呼し合う姿をあちこちで見かける。ベトナムにとっては、自国開催(タイ、インドネシア、マレーシアとの共同開催)だった07年大会以来のトーナメント進出。アウェーの地での偉業に、サポーターの表情は誇らしげだ。なんとなく、南アフリカでの日本サポーターの姿が重なって見える。一方のヨルダンのサポーターは、どこか余裕の表情。


 試合が始まると、チャレンジャーと思われたベトナムが主導権を握った。システムはいつもの5−4−1だが、ラインを高めに維持しながら果敢に仕掛けてくる。対するヨルダンは4−4−2。受け身に回りつつも、個の力でボールを押し戻しながら反撃の機会をうかがう。特に目立っていたのが、急所を突くようなパスを得意とするボランチのバハ・アブデルラフマン、そして右サイドから迫力あるダイアゴナルな動きを見せるムサ・スレイマン。この2人が何度かチャンスを作るものの、この日のヨルダンはシュートの正確性を欠き、なかなか先制ゴールが奪えない。逆にベトナムは前半35分、グエン・コン・フオンのワンツーからドゥアン・バン・ハウが強烈なミドルを見舞うなど、両者はきっ抗した戦いを見せていた。

PK戦の前に勝負は決まっていた?

ヨルダンとのPK戦を制してベスト8進出。ベトナムのサポーターは優勝したように喜びを爆発させた
ヨルダンとのPK戦を制してベスト8進出。ベトナムのサポーターは優勝したように喜びを爆発させた【宇都宮徹壱】

 それでも先制したのはヨルダン。前半39分、相手ペナルティーエリアの左でFKのチャンスを得ると、アブデルラフマンが右足で放った弾道が一直線に逆サイドのネットを貫いた。しかし、この失点でベトナムの闘争心はさらに燃え盛る。前半43分にはドー・フン・ズンが、そしてアディショナルタイムにはグエン・チョン・ホアンが、連続してミドルシュート。いずれもヨルダンのGKアメル・シャフィの好判断に阻まれるが、シュートの精度は明らかにベトナムの方が上だ。加えてポゼッションとシュート数でも、ベトナムがヨルダンを圧倒。この傾向は、後半になるとより顕著になっていく。


 ベトナムの同点ゴールが生まれたのは、後半6分。右サイドからのグエン・チョン・ホアンのクロスに、ワントップのグエン・コンフォンが右足ボレーで合わせ、シャフィの堅守を打ち砕く。その後は何度かヨルダンが盛り返すが、ベトナムはポゼッションで6割近くをキープ。1−1のまま延長戦に突入後も、運動量と集中力が極端に落ちることはなかった。結局120分でも決着がつかず、試合はPK戦に突入。延長戦終了のホイッスルが鳴った直後、ヨルダンの選手たちの落ち込みようは尋常でなかった。すでにこの時点で、勝敗は決まっていたのかもしれない。


 PK戦はベトナムのサポーターが陣取るゴール裏で行われた。先行のベトナムは3人目まで成功したのに対し、ヨルダンは2人目と3人目が失敗。4人目はベトナムが失敗してヨルダンが成功する。ここで流れが変わるかと思われたが、5人目のキッカー、ブイ・ティエン・ズンが冷静に決めて試合終了。次の瞬間、ベトナムのベンチからはパク・ハンソ監督はじめスタッフと選手全員が飛び出し、ゴール裏は優勝したかのようなお祭り騒ぎとなった。一方、敗れたヨルダンは、全員が打ちひしがれたようにピッチ上に崩れ落ちてゆく。ラウンド16は、文字通りの波乱の幕開けとなった。


 風景の変化を楽しめた往路から一転、宵闇の中を進む復路のバスにて、この日のゲームで明らかになったことを反芻(はんすう)してみる。思いつくままに挙げると、(1)スタジアムの空気感がグループステージとはまるで異なること、(2)ラウンド16には真の意味での「弱者」はいないこと、(3)トーナメントではどんなことでも起こり得ること。これらの傾向は前回大会以上に顕著でありながら、ヨルダンは最後までアジャストできずに敗れてしまった。ラウンド16に臨む日本は、サウジに対する準備は万全であろうが、まずはトーナメント特有の雰囲気に飲まれないこと。そのハードルさえ乗り越えられれば、ベトナムとの準々決勝への道はおのずと開かれるはずだ。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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