グループステージ、他国の戦いを振り返る 日々是亜洲杯2019(1月19日)

宇都宮徹壱

ラウンド16最後の切符をつかんだのは?

試合会場でVIPの到着を待つ運営スタッフ。今大会はこの人たちに大変お世話になっている。 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ15日目。グループステージは1月17日(現地時間)に終わり、ラウンド16に進出するチーム全てが決定した。20日から始まるノックアウトステージに向けて、18日と19日の2日間はノーマッチデー。グループステージを3戦3勝の1位で突破した日本代表は、ウズベキスタン戦翌日の18日は完全オフとなった。その日の午後、ラウンド16のサウジアラビア戦が行われるシャルジャに移動。私も同じ日にアルアインからバスで2時間半かけてシャルジャに到着した。スマートフォンで確認したら、現地の天候は曇りではなく「ほこり」。空が淀んで見えるのは、砂じんが舞っているからであろうか。

 UAEはアラブ首長国連邦(United Arab Emirates)の略で、7つの首長国(アブダビ、ドバイ、シャルジャ、アジュマーン、ウンム・アル=カイワイン、フジャイラ、ラアス・アル=ハイマ)による連邦国家である。シャルジャはアブダビとドバイに次いで、UAEで3番目に大きな首長国。面積は2590平方キロで、佐賀県と同じくらいの土地におよそ90万人が住んでいる。観光地で知られるドバイとは車で30分くらいの距離感だが、シャルジャは国内で最もイスラム教が厳格であるためアルコールは一切厳禁。ドバイに宿泊している同業者が、ホテルでビールを楽しむSNSを見て、少しだけ損した気分になった。

 さて今回は試合がないので、今大会のグループステージを振り返ることにしたい。といっても、日本代表の戦いについてはここではあえて触れない。グループステージの間、私は12試合を取材し、15チームを記者席から見ている。ここでは3試合で大会を去ったチームを含めて、個人的に印象に残ったチームを中心に言及することにしたい。周知のとおり今大会は24カ国が出場し、各グループの上位2チーム、そして3位の中で最も成績上位の4チームがラウンド16に進出するレギュレーション。この3位抜けをめぐる争いも、思いのほか手に汗握る展開となった。

 ちょうど日本がウズベキスタンと戦っている頃、裏の試合ではオマーンがトルクメニスタンに3−1で勝利。3位を確定させたオマーンは勝ち点3の得失点差0となり、同勝ち点で得失点差−1のベトナムを抜いて突破を決めた。続く20時の試合では、レバノンが北朝鮮に4−1で大勝。1勝0分け2敗の得失点差−1と、全ての数字でベトナムに並んだ。3位抜けの最後の切符を得るのは、ベトナムか、それともレバノンか。明暗を分けたのが反則ポイントである。グループステージ3試合で、ベトナムが警告数5だったのに対し、レバノンは7。このわずかな差で、ベトナムのラウンド16進出が決まった。

バランスよく強豪が散らばったトーナメント

毎試合、スタンドを真っ赤に染めるベトナムのサポーター。ラウンド16ではヨルダンと対戦する 【宇都宮徹壱】

 かくして、脱落したのはグループステージ3位の中ではレバノンとパレスチナ、そして4位のインド、シリア、フィリピン、イエメン、北朝鮮、トルクメニスタンの計8チームとなった。このうち、初出場のフィリピンとイエメンは、いずれも3戦全敗。フィリピンは最後のキルギス戦で歴史点な1ゴールを挙げたが、イエメンは0得点の失点10という惨たんたる結果に終わった。フィリピンは国内リーグが未成熟、イエメンは国内情勢が不安定という事情ゆえに納得の結果と言えるだろう。よく分からないのが同じく全敗の北朝鮮で、得失点差−13は出場24カ国の中で最悪の数字。彼らの不振については、今大会最大の謎と言えるかもしれない。

 逆にグループステージ最下位に終わったものの、十分にラウンド16進出の可能性があったのがインドとシリアであった。インドは初戦で格上と思われていたタイに4−1で完勝すると、開催国のUAEに対しても押し気味に試合を進めながら0−2で敗れ、最後はバーレーンに土壇場でPKを決められて万事休す。シリアは初戦にパレスチナに引き分け、第2戦でヨルダンに敗れたものの、最後にオーストラリアに勝利すれば逆転で2位抜けするチャンスがあった。実際、前回王者に互角の戦いを見せたシリアであったが、2−3とあと一歩届かず。ポテンシャルを秘めながらのグループステージ敗退となった。

 ここで、ラウンド16に進出したチームを地域別で確認しておきたい。中東勢が8、東アジアとASEAN(オーストラリアを含む)が3ずつ、そして中央アジアが2。中東の国々が半数を占めているのは、母数が多い上にホームアドバンテージもあるから当然として、注目すべきはASEANからタイとベトナムがそろってラウンド16に名を連ねたことである。グループステージ+ノックアウトステージの大会方式になってから、これは初めての快挙だ。また中央アジアからは、唯一の強豪だったウズベキスタンに加えて、初出場のキルギスがグループステージを突破したことも特筆すべきであろう。

 かくして完成したトーナメントを俯瞰(ふかん)してみると、非常にバランスよく強豪が散らばった印象があり、ベスト4の顔ぶれも薄っすらと見えてくる。タイ対中国、イラン対オマーンの山は、よほどのことがない限りイランが出てくるだろう。UAE対キルギス、オーストラリア対ウズベキスタンの山は、尻上がりに調子を上げているオーストラリアが有利か。韓国対バーレーン、カタール対イラクの山は、韓国が粘り強く勝ち上がると見る。そしてヨルダン対ベトナム、日本対サウジアラビアの山については声高に「日本!」と予想したい。まずは21日のサウジ戦で、しっかり勝利を収めてほしいところだ。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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