新しいアジアカップの開幕 日々是亜洲杯2019(1月5日)

宇都宮徹壱

アジアカップの開催地UAEについて

アジアカップ開幕を前に、UAE代表への期待を口にする地元の少年たち 【宇都宮徹壱】

 AFCアジアカップ2019の開催国、UAEのアブダビに到着したのは1月5日になったばかりの午前1時。簡単な入国審査を経て、黒いスカーフの女性がポンポンとパスポートにスタンプを押してくれた。「AFC ASIAN CUP 2019」の文字と大会ロゴのサッカーボール、そしてUAEの国章にもなっている鷹のスタンプ。細かいことではあるが、こういう配慮は取材者として非常にうれしい。

 この日はアジアカップの開幕日。オープニングゲームは、アブダビのシェイク・ザイード・スタジアムで20時キックオフだ。実のところ、空港内がアジアカップ一色になっていることを密かに期待していたのだが、真夜中の到着ロビーにフットボールの祭典を予感させるものは何ひとつなかった。中途半端な時間に到着したので、しばらく空港内に留まり、夜が明けてからタクシーでホテルまで移動。パキスタンから出稼ぎに来ていたドライバーは、アジアカップ開幕のことを知らなかった。

 アブダビでの移動は、基本的にタクシーである。車窓から見えるのは、青い空とだだっ広いアスファルト、そしてビル、ビル、ビル、時々モスク。道を歩く人の姿はまばらで、高級車が猛スピードで行き来するばかりだ。アブダビには、これまで何度も取材に来ているので、今となってはすっかり見慣れた光景。しかも今回は1カ月近くの長丁場である。アブダビ以外にも、アルアインやドバイで取材するが、代わり映えのしない風景の中、ホテルとスタジアムを往復する日々になりそうだ。

 キックオフ3時間前に試合会場に到着。AD(取材)カードを取得するのに手間取ると思っていたら、やはり誘導が実に不親切で、30分近くスタジアム周辺をさまようこととなった。ADカードを首から下げて、ようやく私にとってのアジアカップ取材がスタートする。これから決勝が行われる2月1日まで、日本代表の成績に関係なく、現地での取材を続ける予定。そして開幕戦では、地元UAEがバーレーンを迎える。UAEを率いるのは、元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ。実に楽しみな一戦である。

土壇場で引き分けに持ち込んだUAE

セレモニーで登場した巨大な優勝カップ。今大会はどの国が手にするのか? 【宇都宮徹壱】

 開幕セレモニーでは、ピッチ中央に巨大なアジアカップのトロフィーが登場。その周りを白装束の男性たちが、音楽に合わせてひらひらと舞い、時おり花火が打ち上がる。中東の盆踊りを見ているかのような、なんとも摩訶不思議な演出。不思議な余韻の中、白いユニホームのUAE代表がピッチ上に登場する。開催国として臨む、重要な初戦。対戦相手のバーレーンは、FIFAランキングで劣る相手とはいえ(UAE79位、バーレーン113位/2018年12月20日発表時点)、相当なプレッシャーを感じているのは間違いない。

 今大会のUAEは、前任のマフディ・アリ監督が敷いた路線をザッケローニ監督が引き継ぎ、しっかりパスをつないで相手を崩していくスタイルが明確だ。対するバーレーンは、受け身の姿勢からカウンターのチャンスを得ると、前線のモハメド・アルロマイヒに当てる作戦を愚直に繰り返している。一時はUAEが7割近くポゼッションで支配していたものの、チャンスを決め切れないまま、バーレーンの反撃を許すシーンがたびたび見られた。両者とも決め手に欠き、前半は0−0で終了。

 後半9分、UAEは中盤の選手を2人代えて、何とか攻撃に弾みをつけようとする。しかし、完全アウェーの状況に慣れてきたバーレーンは、随所に個人技を見せながら次第にゲームの主導権を握るようになる。序盤の15分までに、UAEには2度の決定機があった(シュートを放ったのは、いずれも15番のイスマイル・アルハンマディ)。決めるべき時に決められず、その後もポゼッションでは優位に立つものの、ずるずると相手の反撃を許してしまう。まるで良くない時の「ザック・ジャパン」を見ているかのようだ。

 先制したのは、アウェーのバーレーン。後半33分、右からの折返しにアルロマイヒがシュート。いったんはUAEのDFがクリアしたものの、再びアルロマイヒが押し込んでネットを揺らす。しかしUAEは後半43分にPKを獲得。自陣ペナルティーエリアからクリアする直前、バーレーンの選手の手にボールが当たったという判定であった。転がり込んできた望外のチャンスを、途中出場のアフメド・ハリルが冷静に決めて1−1。これがファイナルスコアとなり、両者が勝ち点1を分け合う形で試合は終了した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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