大津、満身創痍の16強から這い上がれ! 未来の日本代表へ、挑戦は始まったばかり

平野貴也

誰もが疲労と負傷を抱える中で

12月中旬から決勝戦並のゲームをこなし続け、満身創痍の状態でベスト16に。全国制覇はならなかったが、選手たちのサッカー人生はまだまだこれからだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 彼らは、2年間で多くの魅力的なプレーを示してきた。だからこそ、普段は試合を見ない人にもプレーを見てもらえる晴れ舞台で、作り上げてきたプレーを見せられない悔しさは、計りしれない。

 昨年から得点源としてチームをけん引してきた水野は、無得点。「シュートを打ってもなかなか枠にいかなくて、悩んでいました。悔いが残る大会でした」と止まらぬ涙を何度もぬぐい、悔しがった。いつもならパスをつないでくれる松原はいない。代わりに先発したMF高見柊真(3年)が献身的に動いたが、水野も高見も疲労と負傷を抱えていた。アタックの前段階がうまく作れないもどかしさの中、後半に入ると、水野は強引なドリブル突破で何度もチャンスメークをした。大津の底力を証明したい一心だった。

 前半を2失点で折り返したハーフタイムには、主将の福島が仲間に喝を入れていた。

「こんな試合じゃ、見ている人も楽しくない。応援は、頑張ってくれている。もっとやらないとダメだ」

 誰もが厳しい状態にあることは、知っている。福島自身も「負けていて焦りがあったし、ミスをしてしまった。チームに不安を与えてしまった。ヒザが思ったように動いてくれなかったし、気持ちの面でも圧倒されていた」という苦しい状況だ。しかし、この戦いを乗り越えなければ、報われない。連係ミスの多かった攻撃陣にも厳しく言ったという。だから、水野ら攻撃陣が最後まで強引にでもアタックを仕掛け、守備に戻ってきたプレーは、心に焼き付いていた。

 攻撃に関する話を聞くと、福島は「前線の選手は、守備も攻撃もしてくれて、疲れがきていた。パスミスも多く、後ろから怒鳴ったけれど、言い過ぎたところもあった。申し訳ないです。(自分のところから、いい)ロングボールももっと通せたと思う。前線の選手は、本当に頼もしかった。頑張っていました」と言葉を絞り出した。取材陣の前に出てからは真っすぐ前を見て、泣くまいと気丈に話していたが、瞳が潤んだ。

平岡総監督「次のステージで日の丸を」

「1点でも取りたかった」

 福島は、最終ラインから1列前のボランチに上がりたいと平岡総監督に申し出ていたという。何としても1点。しかし、その思いは届かない。現実は厳しく、ダメ押しのゴールを奪われ、0−3で試合は終わった。

 結果は受け入れなければならないが、それぞれの人生は続く。平岡総監督は「まだまだ発展途上の子たち。彼らのキャリアは、まだ続きます。もう1回、彼らのストロングポイントを伝えて、次のステージで日の丸を付けられるように頑張ってほしい。今やっている11人からフル代表に1人でも2人でも多く入ってほしいし、Jリーグで活躍する選手が複数出ることは間違いない」と、この敗戦を糧に大きく育つことに期待をかけた。

 まだ日本一になったことがなく、チームとしては勝負弱いという指摘も受ける大津だが、巻誠一郎(ロアッソ熊本)、谷口彰悟、車屋紳太郎(共に川崎フロンターレ)、植田直通(セルクル・ブリュージュ)と日本代表選手を続々と輩出している。負けは、負け。しかし、負けが人を強くすることもある。無情のホイッスルは、満身創痍(そうい)の16強から、未来の日本代表へ這い上がる挑戦のスタートだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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