「春高よりもしんどい」直接対決を経て 洛南と東山、ライバルが紡ぐ物語

田中夕子

洛南主将が「一番しんどかった」と語る試合

洛南の主将が「一番しんどかった」と語るのは、東山高との京都対決だ 【写真提供:月刊バレーボール】

 2018年12月、天皇杯皇后杯バレーボール全日本選手権大会はJTサンダーズが制した。東京体育館の改修工事に伴い、初めて会場に使用された武蔵の森総合スポーツプラザ。きらびやかなライトが印象的な体育館は、約1カ月後、今度は高校生日本一を懸けて戦う全日本高等学校バレーボール選手権大会、通称“春高バレー”の会場となる。

 まばゆいライトが、練習時には少し気になったが、試合では少しも気にならない。そう言ったのは、洛南高の主将、山本龍だ。

 全日本大学選手権準優勝の福山平成大学に2−0から逆転負けを喫し、「悔しい」と言いつつも、優勝を期待されたインターハイから着実にレベルアップした手応えをのぞかせ、来る春高に向け「狙うのは優勝しかない」と表情を引き締める。

 そしてまた表情を緩め、今度はこう言った。
「春高よりも京都の対決が一番しんどかった。もう直接対決はやらへんでいいから、それはホント、うれしいです」

 山本の言う“直接対決”の相手――。それは春高でも優勝候補に挙げられる、洛南にとって最も嫌で、最も警戒し、最も苦しめられたライバルの存在、東山高だった。

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 洛南が春高の舞台で戦っていたのと同じ頃、南禅寺に程近い京都、東山高の体育館では新人戦に向け1、2年生が練習に汗を流していた。その日は月に一度、同校OBで中央大前監督、現在は豊田合成トレフェルサのスタッフを務め、現役時代は全日本にも選出された松永理生が練習を指導する日。松永は一見楽しそうに取り組むが、前後左右の動きを瞬時に判断しながら際どい位置のボールを上げる。基本に忠実ながらも運動量は高く、実はクリアするのが苦しい練習に臨む選手たちの様子を見ながら、豊田充浩監督が言った。

「松永が来てくれるようになって、選手は毎回『今回は理生さん、どんな練習するんやろ』と楽しみにしているんです。でもそれは私も同じ。毎回、こんなやり方があるんや、とか、世界の考えはこうなんや、と勉強させてもらっていますよ」

 漠然とした言い回しではなく、テンポやスロットといった世界のバレーボールと同じ言葉が当たり前に飛び交う。新人戦が楽しみだ、と言いながらも、春高の話になると豊田監督の表情にはまだ、悔しさが浮かぶ。

「狙い通りの形」が完成に近づいた矢先に……

東山は洛南に勝利するため、1年をかけて徹底的に準備を重ねてきた 【写真提供:月刊バレーボール】

 春高予選を約3週間後に控えた11月1日のことだった。

 2年生の正セッターがレシーブ練習の最中に右肩を負傷。痛みを押して2日後の練習試合に出場したがサーブを打つ際に肩が上がらず、トスを上げることもできない。一時は手術も余儀なくされるほどの重症だった。

 さらにアクシデントは続き、11月5日にはサーブレシーブの要となる選手がバックアタックで足を捻り、はく離骨折。前衛3枚に加え後衛からのバックアタックも同じテンポで入る、豊田監督いわく「変幻自在のコンビバレー」の要となる2選手を大会直前で欠いて戦うことを余儀なくされた。

 豊田監督はこう振り返る。

「いろいろなことを考えました。指導者として長いキャリアの中でも、一番大事な大会でけがをして選手が出られないのは初めてだった。私自身もショックでしたし、誰よりも選手がかわいそうだった。みんな『東山に入って洛南を倒したい』と入って来た子たちですから。出たかった、やってやりたかった、と何とも言えない悔しさ、屈辱やったでしょうね」

 現在の3年生が2年生だった昨年の春高で、洛南は準優勝だった。そのチームに京都予選で勝って全国優勝を成し遂げるため、1年をかけて徹底的に準備を重ねてきた。相手のエース、セッターに十分な状態で攻撃をさせないようサーブの狙いを徹底し、「打てるならミスを気にせずどんどん打て」とジャンプサーブで攻めることを基本とし、そこからさらにブロックとレシーブの関係を構築した。

 攻撃もミドルとサイド、バックアタックが同じタイミングで入り、相手の動きに迷いを与え、一辺倒にならないよう多彩な攻撃を繰り出し、スピードを生かしながら、高さも最大限に生かす。まさに狙い通りの形がようやく完成に近づいた。その矢先のアクシデントだった。

 事実、昨年から優勝候補として全国に名を馳せていた洛南も、17年はインターハイ予選で東山に敗れ、国体出場も逃した。春高予選はフルセットの激闘の末に洛南が制したが、京都の決勝では常に顔を合わせる両校は誰よりも互いの手の内を知る相手だ。だからこそ、相手の攻略法ではなく、自チームのスキルの質を高め、守りに入るのではなく攻め続ける。そうすれば必ず洛南に勝てる。豊田監督はそう踏んでいた。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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