入れ替え戦に救われた磐田と指揮官の安堵 J1参入プレーオフを終えて思う
小川航のPKで先制し、田口のFKで試合を決める
小川航のPKで先制した磐田は、後半にも田口の直接FKが決まり、試合を決定づけることに成功 【宇都宮徹壱】
前半40分、右サイドで山田が送った縦パスに小川航がフリーで抜け出す。しかし、ペナルティーエリアでボールをコントロールしようとした刹那、飛び出してきた東京VのGK上福元直人に倒された。主審はすぐさまPKの判定。キッカーは小川航が自ら志願し、上福元の逆を突いてゴール左にきっちり沈める。時間は41分。もちろん、まだまだ東京Vが挽回できる時間は十分に残されている。しかしPOの場合、上位チームは引き分けでも「勝利」。磐田にとっては、実に大きな意味を持つゴールであった。
最初にカードを切ってきたのは、1点ビハインドの東京Vである。ハーフタイムで、1枚イエローをもらっていたMF梶川諒太を下げてMF渡辺皓太。そして後半1分、FWドウグラス・ヴィエイラに代えてFWレアンドロを投入する。レアンドロは、J1得点王に輝いたヴィッセル神戸時代の16年、磐田を相手にリーグ戦2試合で計4ゴールを挙げていた。さらに後半19分には、最後のカードとしてFW李栄直をピッチへ(OUTはFW奈良輪雄太)。しかし東京Vのシュートは、レアンドロが放った2本のみ。後半20分の至近距離からのシュートは、この試合唯一のビッグチャンスだったが、磐田GKカミンスキーのブロックに阻まれてしまう。
それでも後半は、磐田のプレッシングが次第にゆるくなり、東京Vが相手陣内に攻め込む時間帯が増えてゆく。そんな中、磐田は後半35分にFKのチャンス。これをMF田口泰士が右足で蹴り込むと、壁に入っていた味方選手がおじぎをするようにコースを作り、ボールはそのままゴール左に吸い込まれてゆく。このゴールと前後して、磐田ベンチは次々とカードを切り、アディショナルタイムには中村が登場。ほとんどボールに触ることはなかったが、スタンドを盛り上げる役割をしっかり果たした。そしてタイムアップ。2点のリードを守りきった磐田が、J1残留を果たした。
来季のJ1を戦うに相応しいチームは磐田であった、けれども
来季もJ1で戦うことが決まった磐田。脇役として抜群の働きを見せた大久保(左から4番目)もこの喜びよう 【宇都宮徹壱】
ところでJ1昇格POは第1回から取材しているが、今回はこれまでになく盛り上がりを欠いた終わり方に感じられた。そもそも昇格と残留とでは、喜びのベクトルが全く異なる。従来のPOに入れ替え戦を加えたのは、いささか欲張りすぎだったのではないか。個人的にはPOと入れ替え戦とは、全く別物だと考えている。興行として盛り上げたいなら従来のPOで十分だし、J1のレベルを維持したいのであればJ1・16位とJ2・3位がホーム&アウェーで入れ替え戦を行えばいい。少なくともJ1・16位のホームでの一発勝負は、明らかに公平性を欠いていると言わざるを得ない。
今回の東京Vの場合、過去のPO勝者よりも3カ月以上早く、J1クラブとの公式戦に挑むこととなった。これまでPOで昇格した6チームのうち、翌シーズンの第1節に敗れていないのはセレッソ大阪と名古屋グランパスのみ(いずれもJ1残留)。これは決して偶然ではなく、POで昇格したチームがJ1の環境にアジャストするには、それなりに時間を要すると考えるべきであろう。ましてやJ2仕様の戦力のまま、J1クラブに戦いに挑むのは(しかもアウェーの一発勝負で)、東京V以外のチームでも無理筋だったように思えてならない。
この1試合だけを見れば、来季のJ1を戦うに相応しいチームは磐田であった。その事実を重々認めた上で、ロティーナ監督の下で学んだ若い選手たちが、J1でさらに成長する姿を見てみたいという思いも捨てきれない。その場合、東京Vが1年でJ2に逆戻りする可能性は否定できないだろう。しかし長い目で見れば、その1シーズンでの経験を経て、新たなタレントが生まれる可能性も十分に考えられる。J2からJ1への昇格が2チームとなったのは、磐田が入れ替え戦に勝利した08年以来10年ぶり。再び残留を決めた磐田を祝福しつつも、今大会のレギュレーションには一抹の割り切れなさを拭えずにいる。
<文中敬称略>