準決勝で感じた「開催地問題」の難しさ 天皇杯漫遊記2018 仙台対山形

宇都宮徹壱

勝因は徹底した山形対策とホームアドバンテージ

12月16日から5日に前倒しになった準決勝。3年ぶりの東北ダービーはユアスタでの開催となった。 【宇都宮徹壱】

 激しいダービー関係にありながら、現在はカテゴリーが異なるため対戦機会が限られていた仙台と山形。3年ぶりとなるダービーが、ファイナルの懸かる注目の一戦となったことで、当事者たちにはかなりのプレッシャーがあったものと思われる。そうした中、なぜ仙台は前半のうちに3ゴールを決めて、試合の主導権を握ることができたのだろうか。実は直前の非公開練習の中で、仙台は対戦相手の山形と同じ3−4-3システムを選手に課していた。その理由について渡邉監督は「あえてミラーゲームにするため」と述べている。

「おそらく山形さんは、われわれが3−5−2で来ると予想していたと思います。それを外してミラーゲームにすることで、シンプルに相手の背後を取ることを徹底しました」──このプランが大当たりした。ミラーでぶつかってくる相手に対し、山形は両サイドの裏を徹底的に突かれた上に、試合勘が戻っていないことも重なって立て続けに失点。もちろん、前半のうちに2点を返し、後半で逆転する望みをつないだのは評価できよう。後半序盤にはチャンスも作り、相手も連戦での消耗ぶりを露呈していた。それでも山形が仙台に追いつけなかったのは、もはや地力の差と言うほかない。

 もう1つ仙台に有利に働いたのは、やはり勝手知ったユアスタで戦えたことであろう。今季のJ1でのホーム17試合の戦績は、6勝5分け6敗。決して勝率が良かったわけではないが、それでも不利な要素は1つも見当たらなかった。渡邉監督も「本来であれば規定上、ここで開催できないと思うんですが、いろんなはからいによってできたことを感謝します」。一方、実質的にアウェーとなった山形の木山監督は「積雪のリスクも含めて、仙台のほうが山形よりいいだろうという判断だと思います」とした上で、「素晴らしい雰囲気の中でやらせてもらえたことを感謝します」とも述べている。

 画期的とも言える、ユアスタでの準決勝。それは結局のところ、山形が「アウェー(しかもダービー)」を受け入れることで成立したものである。それは裏の試合も同様で、カシマからの帰路に苦労した浦和のサポーターにも言いたいことはあるだろう。その浦和も鹿島に1−0で勝利したことで、ホームの埼玉スタジアムで決勝を戦えることになった。今度は仙台が、圧倒的不利となるのは明白だ。3年ぶりの決勝進出となる浦和と、これが初となる仙台。今季最後のタイトルと、来季のACL出場権を懸けた戦いは、実に興味深いカードとなった。しかし一方で「カップ戦の公平性」という課題は、最後まで積み残されることとなったのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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