松本山雅がJ1に定着するには? 2度目の挑戦で乗り越えるべき課題

元川悦子

初昇格時の経験値を生かせるか

J1に長くとどまり、サポーターと歓喜を分かち合うことはできるか 【写真:アフロスポーツ】

 1万9066人の大観衆が詰めかけたサンプロ・アルウィン(サンアル)で行われた11月17日の2018年J2最終節。松本山雅FCは徳島ヴォルティスを相手に試合を優勢に進めたが、点を奪えず0−0で引き分けた。しかし、大分トリニータやFC町田ゼルビアなどライバルチームの結果にも助けられ、悲願のJ2優勝と4年ぶりのJ1昇格を決めることができた。

「15年の初昇格の時はクラブもサポーターもメディアやスポンサーの方々も、初めてのJ1で浮き足立つというか、完全に何も分からない状態だった。今度はある程度分かった状態で行けることを少し有利ととらえないといけない。このままでは厳しいので、再びJ1モードにしてやらないといけない」と反町康治監督は強調したが、1年でJ2降格を強いられた過去があるのは大きい。来季はその経験値を最大限生かすことが求められる。

戦力の充実化は必須

初のJ1昇格となった2015年は前年の得点源が他クラブに流出。1年で降格の憂き目にあった 【Getty Images】

 19年のJ1で15位以上の成績を残すために、真っ先にやらなければならないのが戦力充実だ。前回昇格時を振り返ると、14年J2で19ゴールを挙げたエースFW船山貴之(現ジェフユナイテッド千葉)が川崎フロンターレへ移籍。7得点のFW山本大貴と6得点のDF犬飼智也(現鹿島アントラーズ)も期限付き移籍元に戻ることになり、得点源を失うこととなった。穴埋め役としてブラジル人FW・オビナらを補強したが、彼の同年の得点数は6。カテゴリが上がったこともあるが、チーム全体が得点力不足に苦悩したのは間違いない。

「確固たる点取り屋不在」というのは今季も同様だった。総得点54点は、2位・大分トリニータより22点も少ない。研究熱心な反町監督はセットプレーのバリエーションを広げるための試行錯誤を日々、繰り返したが、それだけでは抜本的解決にならなかった。

「バルセロナにしてもレアル・マドリーにしても、優勝するチームにはメッシとかスアレスとか(得点源の)名前が出てくるのが定石。ウチはそういう選手がいなかった。そこは来季に向けての課題かもしれないし、大事になってくる点」と指揮官も指摘する通り、FWの獲得は必須テーマと言える。

 柴田峡チーム統括本部編成部長もその必要性を認め、すでに動き始めている。ただ、「山雅DNA」に合った選手でなければ、獲得できないポリシーは一貫している。

「ウチのクラブには『生真面目さ』『勤勉さ』『最後まで手を抜かない』といった哲学があります。それは反町監督が植え付け、鐡戸裕史(現アンバサダー)や飯田真輝、田中隼磨ら選手たちが体現してきたもの。ハードワークを惜しまない泥臭い戦い方を地域の人たちが認め、応援してくれたからこのクラブは成長することができた。永井龍や今井智基が『松本でやりたい』と言ってくれたのを見ても分かるように、『山雅DNA』に共感する選手が増えたのは4年前との大きな違い。そこを大事にしながら補強を進めることが肝要なんです」と柴田氏は語気を強める。

気がかりな主力の年齢層

 一方、主力の年齢層が高いことも懸念材料だ。36歳の田中、33歳の飯田、32歳の高崎寛之とMF岩間雄大、31歳のDF橋内優也(全て11月30日現在)と軸を担ったメンバーの多くが30代というのは、レベルや強度が上がるJ1では楽観視できない部分だ。もちろん彼らのプロ意識の高さはクラブ側も認めているし、柴田氏も「サッカー選手は年齢だけで判断すべきではない」と言う。ただ、若手の台頭が求められるのもやはり事実。

 実際、今季フル稼働した若手はFW前田大然1人で、アカデミー出身のFW小松蓮など期待の選手が思うような結果を残せなかったのは気がかりなところだ。19年からはホームグロウン制度も新設され、「12歳から21歳の間、3シーズン又は36カ月以上、自クラブで登録していた選手」をJ1クラブは2人以上を保有しなければならなくなる。が、後発の松本山雅の場合、条件を満たすのは前田、小松、GK永井堅梧(カターレ富山へレンタル中)の3人だけ。その現状を視野に入れても、アカデミーの強化・充実は急務の課題と言える。

「僕は2010年から在籍していますが、松本の人たちは地域愛がすごく強い。地元出身選手が活躍したら、より感動が深まり、応援してくれる人も増えると思います。僕が育った茨城県取手市に近い柏レイソルを見ると、アカデミーから毎年、数人が昇格している。日本代表の酒井宏樹(マルセイユ)のような選手も出ています。そういう現象が松本でも起きればもっとインパクトは大きくなる。何とかして田中隼磨、塩沢勝吾(現・北信越1部、アルティスタ浅間)、小松憲太(現アカデミースタッフ)の後に続く地元育ちの選手を育成しなければいけない。この現状を変えられれば、クラブ全体がもう一回り大きくなれると感じています」。この飯田の発言は、松本山雅に携わる全ての人々に共通する認識だ。

 田中は父親の立場でアカデミーを見る機会があるというが、自身がFC松本ヴェガの一員として全国少年サッカー大会に参加し、横浜マリノス・プライマリーに大敗した時代に近いレベル差を関東や関西のチーム相手に感じるケースも皆無ではないようだ。

「Jリーグ経験のある指導者も山雅に来てくれて、強化のスピードは上がっているはずだけれど、試合を見ると大差で負けたり、個々の技術で見劣りする部分も感じますね。その現実を踏まえて、どうアカデミーをテコ入れしていくのかをもっと真剣に考えないといけない。僕はJ1定着を語る前に、『クラブとしてのビジョン』をより明確にすることが最優先だと感じます」と地元出身の田中はあえて厳しい意見を口にする。

 1年半前までアカデミースタッフを務めていた柴田氏も、「柏などのJクラブがやっているように、地域の町クラブと提携を進めたり、小中学校に指導者を派遣するなど地域ぐるみで選手を育てていく体制をより強固にしなければいけない」と強調する。サッカー人口の多い関東や関西に追いつこうと思うなら、地域のサッカー関係者が一体感と情熱を持って取り組むことが肝要だ。その旗振り役になれるように、松本山雅はさらに積極的なアクションを起こしていくべきだろう。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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