日本が示したい“循環型社会”の在り方 街づくり・持続可能性委員会 小宮山委員長に聞く(前編)

構成:スポーツナビ

モーリー・ロバートソンさん(左)がアクション&レガシープラン「街づくり・持続可能性」委員会・小宮山宏委員長に環境問題について聞く 【岡本範和】

 東京オリンピック・パラリンピックまで残り2年を切り、急ピッチで準備が進められている。“世界的スポーツの祭典”が近づくにつれ、東京の街、そして日本全体も徐々に変わっていくことになるだろう。

 1964年に行われた東京大会では、国立競技場などのスポーツ施設が建設されただけでなく、東海道新幹線、首都高速道路などのインフラも整備された。それは、戦後の日本が急速に成長していった象徴的な出来事にも見られている。

 では、2020年の東京大会で、日本はどう変わっていくのか?

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、「アクション&レガシープラン」として、オリンピック・パラリンピックを東京で行われる世界的なスポーツ大会としてだけでなく、20年以降も日本や世界全体へ様々な分野でポジティブな“レガシー(遺産)”を残す大会として“アクション(活動)”していく計画を立てている。

 今回は、テレビ番組で活躍するタレント・ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんが、「アクション&レガシープラン」のキーパーソンに直撃レポート。東京が、そして日本がどのように変わっていくかを深く切り込んでいく。

 第2回は、アクション&レガシープランの「街づくり・持続可能性」委員会の小宮山宏委員長に話を聞いた。

持続可能社会をスポーツ大会につなげられるか

東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった際には「サスティナビリティ(持続性)」が約束されていた 【岡本範和】

――まず「アクション&レガシープラン」における、街づくり・持続可能性委員会の役割を教えて下さい。

小宮山宏委員長(以下、小宮山委員長) 今、私たちは人類史の転換期にいます。SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が2015年に国際連合でまとまり(※15年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」)、パリ協定がその翌年に採択され、“文明の持続性”が問われています。例えば、気象の異常などは最近実感されているところです。

 東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった際、その約束として、「サスティナビリティ(持続性)」が含まれていました。オリンピック・パラリンピックという特別な大会で、スポーツだけでなく文明のことも本気で考える機会にということです。その1つが持続可能社会。人類の文明の持続そのものなのです。
「アクション&レガシープラン」には5つの委員会がありますが、街づくり・持続可能性委員会は、スポーツの話とは少し離れたところもあります。ですが、例えばメダルの製作は、「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」として、使わなくなったスマートフォンやパソコンなどを集め、そこから金や銀や銅を回収し、メダルを製作します。それは“都市鉱山”の象徴的なメダルとなります。

 すでに先進国の社会は飽和状態です。飽和状態ということは、新しくビルを建てるには、古いものを壊します。自動車も飽和状態で、日本でも500万台の車を廃棄し、500万台の新しい自動車を作ります。ただその廃棄するモノの中に資源が含まれています。それが“都市鉱山”です。ですから都市鉱山でメダルを作るということは、21世紀の持続可能社会の鍵になります。自然の鉱山は不要になるということです。持続可能社会とオリンピック・パラリンピックをどう繋げていくかが、私たちの委員会で重要なことです。

モーリー・ロバートソン(以下、モーリー) まさにオリンピック・パラリンピックという、いろいろな理想や美意識が集中する中ならではの発信メッセージだと思います。

 環境サスティナビリティについて、SDGsにしろ、すでに国と国の間で大きなせめぎ合いになっています。現在の政治の世界でも、COP(気候変動枠組条約締約国会議)の時に中国を繋ぎとめたオバマ政権がトランプ政権に変わったら、自分たちがパリ協定から離脱しようとしています。地球温暖化の問題にしても、まさにこの夏、異常気象があって、人類が感じていることを日本もあまねく体験しています。しかしその状況にも関わらず、二酸化炭素の排出量が多い国が、今の政治状況を見ると、温暖化懐疑案をプッシュしてしまっています。つまり大きな力に任せきれないとなると、市民や、比較的中規模、小規模の国が、有志連合となって行うという、苦しい状態になっています。

 その中で、先ほどメダルの話もありましたが、そういう部分で持続可能社会をオリンピック・パラリンピックで見つめ直そうというのは良いですね。

小宮山委員長 レアメタル(希少金属)がたくさん使われているのが自動車です。世界で一番強い磁石にレアメタルが使われています。現在、ほとんどの主要な自動車会社、日本の自動車会社ではすべての磁石を回収しています。ドイツもそうだと思います。米国はどうでしょうか?(笑)

モーリー 米国は大きな野獣がちょっと……。ロープを外してゲージから出てしまっているので(笑)。
 国際社会の意志のようなもの、先々の理想を見いだすためには、オリンピック・パラリンピックという場で示せたら良いですね。

多様性を受け入れることが持続性社会を生き抜くコツ

持続可能社会の中で人間に必要となってくるのは、「自由と多様性」と話す小宮山委員長 【岡本範和】

小宮山委員長 本当に良い機会だと思います。世界全体を動かすほどの量ではありませんが、シンボルとして、21世紀の持続可能社会、1つは今お話しした都市鉱山、地下資源の金属をどうするかということ。もう1つはエネルギーの問題も大きいですね。また“海洋プラスチック”の問題もあり、魚など食べ物の問題もあります。

モーリー 飲み水の問題もありますね。

小宮山委員長 こういう物質の問題は地球的なものですが、一方で社会的な問題、人の問題もあります。地球が持続しても、人が病を抱えていたらダメなわけです。それは現代において非常に重要な問題です。心の病を持つ人が増えていますから。これに対して私は、重要なのは自由と多様性だと思っています。

 日本は多様性に非常に弱い国と言われています。1つはハンディキャップを持つ人に対して。女性に関しても、日本は先進国の中で社会進出が遅れています。高齢者の話にしても、日本の議論はずれていると思います。生産年齢人口を15歳から64歳として、働く人の数が減り、高齢者が増えて大変だという議論を聞きますが、不思議だと思いませんか?

 今、15歳で働いている人はほとんどおらず、高校を卒業して働き始める人も17パーセント程度です。先進国だと、20歳から22歳が普通でしょう。それに私は73歳で、もうすぐ74歳になりますが、64歳を過ぎても働いています。友達もみんな元気ですよ。

 ですから実態に合わせて、人の希望や体調に合わせて働けばいいのです。そのように社会を変えれば、介護や福祉で財政が破綻するという問題は解決します。制度をどうやって実態に合わせていくかということが、極めて重要なのです。

モーリー 多様性の話題で言いますと、もう1つ出てくるのが、ロンドン五輪の際に大きなテーマとなった“包摂”。欧州で問題となっているイミグレーション、移民の問題になると思います。人が移動し、永住に限らず、別の国に働きに行くということが、各国の経済は少なからず依存するようにグローバルは向かっています。

 ところが、多くの人たち、何万人、何十万人という単位でイミグレイト(移住)すると、その社会そのものに光と陰が生まれ、変化していきます。これを悪い変質と見るか、進化と見るかはその人次第なのですが、思いのほか子どもだった頃よりも、大人の方が急激に社会が変わったことを体感します。それによって反発が生まれ、例えば米国のトランプ政権のようにポピュリズムを利用して、政治の小道具にしてしまうことがあります。これは米国や欧州のように、すでに移民活動が成熟した国でさえ起こるので、今後の日本ではこれがもたらす余波が十分想像できます。

小宮山委員長 おっしゃる通りですね。日本は確かに海外の人たちに対し、ある種の垣根を作ります。ですが、世界の中では案外、人種に対して穏やかに受け入れることもできるというのが、一面の真理ではないでしょうか。

 やはり、多様性は社会を元気にすると思います。今、中学校でプログラミングの授業が必須になったりしていますが、先生に知識がない場合、助太刀が必要です。一番うまくいっている事例は、プログラミングをロボットクラブの大学生が教えている場合です。日本の大学で工学部があるところは、どこでもロボットクラブがあります。大学のロボットクラブの学生が中学生に教え、それを退職したシニアのエンジニアなどが助太刀します。学生が、世代を超えたグループを作って対応することで、本当にみんながワクワクして学んでいきます。それを見ていると、多様性が、社会を元気にするのだと思います。

“インクルージョン”という言葉は、「一人も取り残さない」という意味です。多様性自体が価値だということなのです。「儲かるから多様性が良い」とか、「かわいそうだから多様性を受け入れる」というのは嘘です。多様性があることによって、社会は良くなります。多様性自体が価値であるということは、少し進んだ人々の常識になりつつあると思っています。

モーリー 多様性に関する議論では、生理的に多様性が嫌いであるという場合も多いです。ですが、結局それを許し始めると、声の大きいマイノリティが不当に得をすることが多いですね。例えば社会保障において、マイノリティが優遇されてしまい、本来優遇すべき人たちのプライオリティが下がってしまう。それが日本も含めて、どこの国でも政治の小道具となっています。

 しかし多様性の中に含まれることというのは、一人ひとりが自分の個性や属性に応じて、チャンスや機会がそれぞれ発生するということです。機会損失が軽減されて、前の時代にはなかったチャンスが、自分の属性に応じてできる。そうするとその人には心のゆとりもできますし、いろいろな社会との良いインタラクション(相互作用)となり、結局、責任感を帯びて、それが参加意識になります。疎外されていると思うと「ルールに則っていても、自分はどうせ阻害されるのなら、ルールなんて守らなくていい」となり、そこから生まれる闇が、いわゆるマイノリティ利権というものになったりします。むしろポジティブに、『北風と太陽』で言うと太陽になりますが、チャンスを与えられることで、人は「自分はこの社会で報われるんだ」と。ある意味逆説的ですが、マイノリティの方がマジョリティよりも当事者意識が強かったりするので、受け入れられた場合に良い反応がありますね。

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