宇野昌磨、試合運びの難しさはやりがいに NHK杯FSでつかんだ課題解決の糸口

沢田聡子

頭で考えるのではなく、体で覚える

フリーでは自分を信じることができたという宇野、その理由は? 【坂本清】

 その覚悟の結果というべきか、宇野はNHK杯のフリーで、求めていた境地に到達する。

「カナダ(今季GPシリーズ初戦)の時は本当に、強い気持ちで滑る、それだけだった。ですが今の試合は、強い気持ちとかそういうことを何も考えずに、練習してきたことを信じてやる、それだけでした」

 そしてメダリスト会見で、今季のテーマである「自分を信じること」が実践できたかと問われた宇野は次のように答えている。

「信じることができたのは、(今季)GPシリーズを2戦やって、今回のフリーが初めてだったかなと思います。前回(スケートカナダ)のショートとフリー、今回のショートも共に、自分を信じ切れていないからこそ、思い切りやって、それでミスしてしまった。もっともっと自分に自信をつけて自分を信じられるようになれば、もっともっといい演技につながるんじゃないかなと思います」

 さらに一夜明け会見で、宇野はフリーで自分を信じることができた理由を問われ、こう答えている。

「ショートの(4回転)トウループの失敗があったからかな。思い切りいって、失敗した。だから、フリーも思い切りいっても成功する確証はないからこそ、考えて信じたというよりも、自然と、いつの間にか自分を信じて演技をしていたという感じでしたね」

「やっていかないと分からないので、自分の思う通りにやらせています」という樋口コーチは、宇野の本質を知り抜いているのだろう。頭で考えるのではなく、全力でやってみて体で覚えるのが宇野であり、それが強さの秘密でもあるのではないか。

 現在、宇野の練習での滑りは、驚異的なレベルに達しているのかもしれない。だからこそ、それを試合で再現することが大切になる。

「練習でできていることに対して、試合ではなかなか100パーセントは発揮できていないな、というのはありますけれど、それは試合の難しさの1つでもあり、試合の魅力でもある。しっかり、難しい中でも達成できるからこそ、やりがいがあるんじゃないかなと思います」

 16年早春、ボストンで涙を流してかみ締めた試合運びの難しさは、五輪銀メダリストとなった今の宇野にとってはやりがいなのだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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