カップ戦らしさを実現させた山形の戦い 天皇杯漫遊記2018 川崎対山形

宇都宮徹壱

なぜ山形はメンバーを入れ替えたのか?

山形を見事勝利に導いた木山監督。「守備でしっかり走るフレッシュな選手」の起用が見事に当たった 【宇都宮徹壱】

 試合後の会見。川崎の鬼木監督は「山形まで駆けつけたサポーターの皆さんに申し訳なく思います」と語ってから、「優勝を目指していたので残念です。前後半での立ち上がりがすべてでした」と言葉少なに試合を総括した。現在J1の首位を走る川崎は、リーグ連覇のみならず天皇杯との2冠を本気で目指していた。真の意味で強豪クラブとなるためにも、今季は複数のタイトルを獲得するチャンスであった。しかし彼らの野望は、「川崎に勝つにはこれしかない」という山形の徹底した戦いぶりについえることとなった。

 一方、勝利した山形の木山隆之監督。「最近、リーグ戦でもなかなか勝てなかったのですが、ファンと選手が喜び合っているのを見ていると、勝つことはいいなとあらためて思いました」と実感のこもったコメントを残している。それにしてもなぜ山形は、ほぼベストメンバーの川崎に対して、リーグ戦から大幅にメンバーを変えてきたのだろう。木山監督の答えはこうである。

「基本的に天皇杯は、リーグ戦のメンバーを入れ替えるスタイルで戦ってきました。今回はこれまで戦ってきたチームとは(実力差が)違うし、向こうは今週末(ルヴァンカップ決勝で)試合がないので、ある程度ベストメンバーに近い形で来るんじゃないかと予想していました。そうなるとわれわれとしては、守備でしっかり走れるフレッシュな選手を入れる必要があると考えました」

 フレッシュで走れる選手をそろえ、守備に人数をかけながらも、セットプレーとカウンターに活路を見いだす。得点源(ここまでチーム最多の12ゴール)である小林を残しつつ、セットプレーのキッカーとして安西を、そしてカウンターの起点として汰木を、それぞれ起用したことも結果的には的中した。この日の山形のスターティングイレブンは、実のところ「対川崎」を熟慮してのものであった。結果として、4年ぶり2度目となる天皇杯ベスト4進出を果たしただけでなく、「カップ戦らしさ」が随所に感じられるに興味深い一戦となった。

「(優勝まで)あと2つですが、欲を言えば最後まで戦いたい。それでも、まずはリーグ戦を戦うことが必要だと思います」と木山監督。準決勝の相手は、ジュビロ磐田をPK戦の末に破ったベガルタ仙台に決まった。カテゴリーでは上だが、東北ダービーで何度も対戦している相手だけに、最高のモチベーションで挑むことができそうだ。加えて準決勝が開催されるのは、リーグ戦終了後の12月16日。まずはJ1昇格の戦いに集中し、それから天皇杯に気持ちを切り替えることができる。確かに現状を考えると、プレーオフ進出は厳しいと言わざるを得ない。それでも、J1昇格と天皇杯決勝進出を果たした4年前の状況に似ているのは、山形にとって好材料と言えるだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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