大願成就まであと一歩だったが……村田諒太、スキルの差が呼んだ防衛失敗

杉浦大介

序盤から挑戦者が試合をコントロール

2度目の防衛戦に臨んだ村田(写真左)だが、スピードとクイックネスで大きく勝るブラントに判定負けを喫した 【写真は共同】

「自分のボクシングの幅の狭さを感じました。ベストを尽くしたけど、届かなかった」

 晴れの舞台で辛い経験を味わった後でも、聡明な村田諒太(帝拳)は敗因と自身のボクシングを分析する冷静さを保っていた。ただ、残念ながら、試合後ではなく、肝心のこの日の試合中には“村田らしさ”はほとんど発揮されぬままだった。

 現地時間10月20日(日本時間21日)、米国ラスベガスのパークシアターに2782人を集めて行われたWBA世界ミドル級タイトル戦で、王者の村田は指名挑戦者のロブ・ブラント(米国)に0−3(110−118、109−119、109−119)の判定負け。採点こそやや開き過ぎにも思えたが、どちらが勝者に相応しかったかに疑問の余地はなかった。

「(ブラントは)思ったよりも速かったというのが正直なところ。もうちょっと遅いかなとか、もうちょっとスタミナが早く切れるかなと思ったんですけど、自分の消耗もありました。いくら相手が疲れていても、パンチが読まれていたら打てない」

 村田本人がそう分析した通り、スピードとクイックネスで大きく勝る28歳の挑戦者が序盤から試合をコントロールしていった。王者も得意の右を強引に振り回し、懸命に悪い流れを変えようと試みる。しかし、相手のサンデーパンチ(最も得意とするパンチ)を警戒していたブラントに致命的なダメージを与える一撃はついに飛び出さなかった。

 村田も指摘していたが、少々意外だったのはややオーバーペースに見えたブラントが最後まで手数とフットワークを保ったこと。村田も3ラウンドごろから相手のボディを良い角度で叩いており、5ラウンドにはパワフルな右でブラントをぐらつかせる場面もあった。序盤のポイントをほぼ取られているとしても、サイズとパワーに勝る村田に徐々に有利な流れになっても不思議はないようにも思えた。

 ところが――。

村田も最後まで執念を見せるが……

「この試合に向けたハードなトレーニングを積んで備えた成果が出た。あれほどのペースをどうやって保てたのかは自分でもわからないが、とても幸せだ」

 試合後、新王者は謙虚にそう述べたが、実際にこれまでプロでは注目される存在ではなかったブラントの頑張りは見事ではあった。ただ、今戦でのブラントの勝因はスタミナと手数だけではあるまい。持久力と精神力だけでなく、スキル、スピード、身体能力を含めた総合力でチャレンジャーが明白に上回った。

 シャープなコンビネーションをヒットし続けたブラントは中盤までに自信を付け、以降もほぼ総じて自らのペースで戦うことができた。定評ある村田のパワーも、ブラントがダラス在住時代にスパーを重ねたIBF世界ウェルター級王者エロール・スペンス・ジュニア(米国)に比べると見劣りしたのだという。おかげで必要以上の重圧を感じずに戦え、だからこそスタミナも衰えを見せなかったのだろう。

 じり貧の展開に追い込まれても、村田も最後まで逆転を狙い続ける執念を見せた。2ラウンドには左目をカットし、徐々に勝機が薄れていく中で、必死にパンチを放ち続けたタフネスは驚嘆に値する。ただ……少なくとも技術の面で、本人が認めている通り、この日の村田が不足を感じさせたのは事実だった。何より、最終的にはこのスキルの差が勝敗を分けたと言っても大げさではなかったはずである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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