【バレー】「世界で戦える強い日本」になるために トップ4との差を埋める鍵は技術力の向上

田中夕子

米国との5位決定戦に敗れ、日本は6位に終わる

日本は米国との5位決定戦に敗れ、世界選手権を6位で終えた 【坂本清】

 あと一歩と迫る場面もあったが、やはり世界の壁は厚い。

 バレー世界選手権・3次ラウンドでセルビア、イタリアに敗れ準決勝進出を逃した日本は、米国との5位決定戦に臨んだ。

 メダルマッチではない順位決定戦ということもあり、互いにモチベーションもコンディショニングも難しい状況下ではあったが、それでもサーブ&ブロックで上回った米国が3−1で勝利し、日本は6位に終わった。

 決して満足のいく結果でないとはいえ、1次ラウンドのアルゼンチン戦から米国との5位決定戦まで、3週間で12試合を戦った。最終戦を勝利で終わることはできなかったが、「出し切った」と言う中田久美監督の表情はすがすがしかった。

「この大会が始まる前に『光を見つけたい』と言っていましたが、その光はちょっと見つかったのかなと。細かな課題を挙げたらきりがないですけれど、今持っている力は発揮できたのかな、と思います」

 勝利しても内容に課題が残る試合もあれば、敗れても収穫が上回った試合もあった。さまざまな局面の中、多くの選手が「出すべきものは出し切れた」と口をそろえたのが3次ラウンド第2戦のイタリア戦だった。

 ここまで負けなしの相手に対し、サーブで攻め、攻撃を絞らせ、ブロックで締めるコースはどこで、抜いたコースを誰が拾うか、ディフェンスの関係を明確にする。1次、2次ラウンドでは同じボールを2人以上の選手が取りに行く場面も目立ったが、3次ラウンドでは相手の強打に対しても、ブロックとレシーブの配置を整えるだけでなく、チャンスボールやセッターが1本目を拾った後の2本目を誰が上げるか。直接数字には出にくい、細かな面も改善され、相手の攻撃が1本で落ちる場面は減った。

ストレートでの敗戦は「必然」だったセルビア戦

エースのボシュコビッチを封じ切れなかっただけでなく、すべてのプレーでセルビアが上回った 【坂本清】

 世界選手権の序盤はもちろんだが、ネーションズリーグやアジア大会と比べても、ディフェンス面は格段に成長を遂げた。ミドルブロッカーの奥村麻依もそう言う。

「ネーションズリーグやアジア大会の時は割り切れていなくて、どういう状況でもシャット(アウト)したいという気持ちが強くて、力んでいたし、あおってしまうことが多くて、手を出す前に打たれて(ボールを自陣に)吸い込んだり、相手に利用されることがすごく多かったんです。でも今は任せるところは任せる、追いつかなかったら真っすぐ飛ぶ、とまず手を前に出すことを徹底して意識するようになりました。そうしたら、ワンタッチが取れるようになったり、抜けたコースも後ろで拾ってくれることが増えました。

 リードブロックでちゃんと対応すれば、身長の高い相手に対しても、ワンタッチが取れたり、シャットもできる。身長差を気にしなくてもいいんだ、と自信を持てるようになりました。ネーションズリーグの時もアジア大会も、漠然と『いけるだろう』と思っていたけれど、結果的にアジアでもメダルは取れなかった(4位)。世界選手権でもメダルを取ることはできなかったけれど、『これができれば戦える』という自信はついた。その感覚は、今までとは全然違う収穫だったと思います」

 だが、いくら収穫や手応えを感じていても、評価されるのは結果だ。大きなプレッシャーを背負うとはいえ、開催国で試合時間の変動もないことや1次ラウンドからし烈を極めるグループがあった一方、格下と言わざるを得ない対戦国がそろうホームアドバンテージを考えれば、6位という結果をただ「よく頑張った」と評価するばかりでは終われない。

 世界との差――。それが歴然とあらわになったのが、3次ラウンド第1戦のセルビア戦(0−3)だろう。3−1で勝利した2次ラウンドでは出場しなかったエースのティヤナ・ボシュコビッチを封じ切れなかったということだけでなく、すべてのプレーにおいてセルビアが上回った。

 サーブの狙うポイントも、得意なコースにベストサーブを打つ、前衛レフトの選手を狙って攻撃参加を遅らせるといった単純なものだけでなく、そのコースに打つことで複数の攻撃パターンを消せるよう先手を打ち、限られた選択肢の中で展開する日本の攻撃に対してブロック、レシーブを配置。リベロだけでなくサーブを打った後のミドルブロッカーもデータに基づいた位置で守っているため、来たボールを難なく上げる。

 パスからの攻撃がベストに近い状況でできても、さらに1枚上を行く相手のディフェンスに阻まれ、なかなか決まらない日本の攻撃に対し、ブロックとレシーブで切り返された後、セルビアは高さを生かせる位置にセッターが上げ、最高打点から世界屈指のスパイカーがたたき込む。力の差は歴然で、ストレートでの敗戦は必然だった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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