全日本女子のストロングポイントは何か  「勝ち切れない」現状を打破するために

田中夕子

セルビアとの対戦ではメンバー変更が奏功

試合によってメンバーを変えるのは不安定な要素もある一方で、うまくはまれば武器になる 【坂本清】

 前衛時もレフトの2人とリベロがサーブレシーブに入り、そのまま攻撃に参加する。そうなれば当然、相手も攻撃に万全の準備で入らせないよう、前衛レフトに入る古賀や黒後を狙う。特に両サイドがサーブレシーブで並ぶローテーション時は2選手の間を狙われ、セルビア戦の序盤は直接失点につながる場面もあった。

 それだけを見れば、やはり守備を重視したほうがいいのではないか、と考えるかもしれない。だが、実際はどうか。古賀はこう言う。

「オフェンス型といえば確かにそうなんですけれど、サーブレシーブの負担がかかるというよりも、攻撃面ではすごく助けられる意識のほうが強いです。もし多少パスが乱れたとしても(長岡)望悠さんがいてくれる、バックアタックがあるというだけで、すごく気持ちが楽になる。ここで自分が無理に打たなくても、リバウンドを取って逆サイドで切り返せばいい、と工夫もできるし、実際望悠さんの打数が増えるのでブロックも割れる。

 相手のブロックが2枚か、1.5枚なのかというだけで、抜けるコースは全然違ってくるし、攻撃の幅も増えると思います。でも(新鍋)理沙さんが入れば1本目のリズムができるし、二段トスも上げてくれるので、2本目を誰が上げるか、迷うことがなくなるのでレフトは思い切り攻撃に入れる。どちらも課題はあるし、強みもある。今はこれ、と固まっているわけではないので、いいところを生かしていくのがいいかな、と思いながらやっています」

 試合によってメンバーを変えるのは不安定な要素が危惧される一方、うまくはまれば武器にもなる。たとえばセルビア戦では、サーブで崩されても、レフト1カ所だけでなく反対サイドから長岡も攻撃に参加することで、相手のマークも分散する。日本のレフトに対して2枚のブロックがついてきたため、ラリー中に長岡がノーマークになる場面も多々あった。

 そうなれば、次は長岡の攻撃に意識が向き、レフトやミドル、中央からのバックアタックが生き、そうなればまた選択肢が増える。実際にセルビア戦は、セッターの田代佳奈美が「パスが乱れた序盤は望悠に頼ってしまったけれど、マークが厚くなることで石井や古賀がいい状況で打てるケースも増えて、2人の調子もよくなったので攻撃の幅が増えた」と振り返ったように、偏ることなく攻撃陣を生かせたことも勝因の1つだった。

 とはいえ、日本戦の前からすでに3次ラウンド進出を決めていたセルビアはオポジットのティヤナ・ボシュコビッチが欠場し、同じく得点源のブランキツァ・ミハイロビッチも途中交代。ベストとは言い難い状況であり、次も同じパターンが通用するとは限らない。

中田監督「14人の選手を生かしていきたい」

中田監督は3次ラウンドに向け「14人の選手を生かしていきたい」とコメント 【坂本清】

 セルビアだけでなく3次ラウンド進出を果たしたイタリア、中国、米国、オランダはどこも強固な武器を備え、攻守のバランスに長けているチームばかりで、日本が準決勝進出を懸けて戦うイタリア、セルビアは間違いなく世界トップを争う相手であり、表彰台を目指すならば絶対に勝たなければならない。それだけでなく、今大会、そして2020年の東京五輪でメダル獲得を掲げるならば、どう勝つかという内容も問われる。

 安堵(あんど)でも喜びでもなく、悔しさをにじませながら中田久美監督が言った。
「さらに厳しい戦いが続くと思いますので、まんべんなく14人の選手を生かしていきたい。(ブラジル戦は)勝ち切ることができず、反省の多い試合でしたが、また気持ちを切り替えて準備したいと思います」

 1次ラウンドと比べれば連係が取れるようになってきたブロックとディフェンスの関係も、まだ十分とは言い難い。攻撃面においても同様で、ブロックを振ることばかり意識して、トスが速くなったり低くなったりして打ち切ることができなければ、相手にチャンスを与え被ブロックも増える。攻撃枚数を増やすと掲げてきたにもかかわらず、ミドルの打数やバックアタックの本数が減り始めているのも確かだ。

 2次ラウンドで見えた課題を短期間で消化し、3次ラウンドにどうつなげるのか。どんなメンバー、どんな戦略を持って臨むのか。そして、日本のストロングポイントとは何か。

 まさに世界最高峰というべき5チームがそろい、本気でぶつかり合う3次ラウンドはその答えを探す絶好の機会になるはずだ。その場に立てる喜びと、勝つべき試合で勝ち切れなかった苦さをかみ締めながら、荒木が言った。

「ブラジルの選手が最後まで必死に戦って、泣いている姿を見たらグッとくるものがあった。だからこそ自分たちも、もっと必死に魂を込めて戦っていかなきゃいけない。自分たちの目標はもっと高いところにあるんだ、とチームで再確認して、次に向かわなければいけないと思います」

 すべてを懸けてぶつかり合う3次ラウンド。日本は14日にセルビアと対戦する。

2/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント