日本ハムが経験した北海道地震「つなぎの野球」復活が日本一への鍵

ベースボール・タイムズ

選手たちの北海道への思い

被災地を支援するための募金を呼びかける栗山監督(写真中央)、楽天・平石監督代行(写真右) 【写真は共同】

 自宅で自らも被災した栗山監督は、震災直後に「大変な思いをされている人がいっぱいいる。そのことを思いながら野球をすることが大事になる」とコメントした。その他、球団公式ページには各選手からの被災者への気遣いの内容と「ともに頑張りましょう」という趣旨のコメント動画が次々とアップされた。

 そして地震発生から2日後に行われた9月8日の東北楽天戦(楽天生命パーク)では、試合前に監督以下、鍵谷陽平、玉井大翔ほか、イーグルスからも佐藤義則コーチや青山浩二など北海道出身者を中心に募金活動が行われた。

 ただ、この日の試合内容は厳しいものとなった。先発の上沢は、力みからか立ち上がりから制球に苦しみ、2回に2被弾などで一挙8失点し、打線の反撃も及ばず4対9で敗れた。事前に「被災した方に勇気を与える投球をしないといけない」としていた上沢だが、降板後は「大事な試合で思うようなピッチングができなかった。申し訳ない気持ちしかありません」と敗戦の責を負った。

 震災後初の本拠地・札幌ドームでの試合開催は9月14日だった。この日は自家発電設備などを使い、グラウンドの照明が25パーセント削減された状態でのナイターとなった。実はこの日の試合開始直前にも胆振中東部で震度3の揺れがあり、札幌ドームでも揺れを感じた客席のファンがざわつく場面があった。そんな中、チームは先発・ロドリゲスの6回1失点の好投と鶴岡慎也の2本のタイムリーなどで4対3の勝利を収めた。

 試合後、栗山監督が「久々に本当に負けたらどうしようと思った」と吐露すれば、ヒーローの鶴岡は「あまり言わないが、今日は気持ち一本で打ちました」と語り、「北海道のために優勝してくれますか?」とのファンの問いには、力強く「優勝します」と締めくくった。

つなぎの野球でファンに希望を

「タイムリー欠乏症」を打破し、つなぎの野球を取り戻すことはできるか 【写真は共同】

 しかし、「北海道のために」の思いとは裏腹に、ファイターズ打線は下降線をたどった。「タイムリー欠乏症」で残塁が増え、さらに9月19日には中心打者のレアードが左腹斜筋肉離れで離脱。するとその日から3勝6敗と後手を踏み、9月30日には、試合に勝利したものの目の前で西武に胴上げを許す結果となった。

 ただ、まだ道は残されている。今もなお北海道ではたびたび余震が起こり、試合開催日の札幌ドームでもこれまでに3度ほどあった。10月2日には、復興試合を行うなど何とかチームもファンを喜ばせようと必死になっているのは感じるが、それが気負いとなって空回りし、ファンからは「もう十分元気はもらいました」と逆に気遣う声も少なからず聞こえた。その意味ではまだ、チームには震災の影響が残っていると言える。

 求められるのは「原点回帰」だろう。ファイターズの伝統ともいえる「次の打者につなぐ意識」をもう一度、しっかりと心に刻むこと。その姿に北海道のファンは盛り上がり、その声援に打線が呼応し、波状攻撃を生む。連打が生まれれば、ファンはさらに盛り上がる。9月、10月のチーム得点圏打率2割2分5厘(8日時点)が示すように、この「つなぎ」の部分が欠如している。震災から1カ月。ファイターズとの原点ともいえる「つなぎの野球」の精神が、日本一への唯一の道であり、ファンの心の灯となるはずだ。

(八幡淳/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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