A東京が「あえて」明かす内部事情と方針 大改革の末、Bリーグをけん引する存在へ

大島和人

二人三脚で積み上げている強化方針

昨季B1王者へと導いたルカHCは、恋塚がBリーグ2季目に招聘(しょうへい)している 【(C)B.LEAGUE】

 恋塚がBリーグ2季目に招聘(しょうへい)し、クラブをB1チャンピオンに導いたのがルカHC。名ポイントガードとして欧州チャンピオンズカップを3度制し、祖国モンテネグロの代表の指揮も執った現在50歳のやり手だ(編注:Bリーグに登録されている国籍はセルビア)。恋塚はこう振り返る。

「代表に(田中)大貴だったり(竹内)譲次が行っている中で、ルカのバスケに対する理解(を知り)、期待感を持っていた。代表監督を辞めるのであれば、ぜひ来てほしいという話をさせてもらった」

 選手の補強もルカHCのリストアップを元に、2人が協力して進めた。彼らは今も必ず毎日、2人の共通言語である英語でミーティングを行っている。世界的に例を見ない連戦方式、代表強化による頻繁な選手不在など、外国人指揮官にとって「ストレスの種」は無数にある。昨季は主力選手の負傷もあり、決して順風満帆でなかった。しかし、対話を細かく重ねることで、恋塚は指揮官が仕事のしやすい環境を確保した。

 恋塚は指揮官との関係をこう説明する。

「彼はバスケに対して誰にも負けない情熱を持っていて、100パーセントを目指します。なので100パーセントの要求をこちらにも投げかけてきます。チームの現状についても、選手一人一人に関しても『どうしたらいいのか』『何かできないか』ということを言ってくる。予算やアルバルクの考え方もあるし、まずはぶつかるんですけれど、最終的には調和が取れる」

 何か“魔法”があるわけではない。調和を保つ方法は地道な積み重ねだ。

「話を聞いて、一つ一つクリアすることが大切です。選手とのコミュニケーションがうまくいっていないのであれば、僕が選手に話をすればいい。代表のことで選手のコンディションが心配ならばトレーナーに話をしたり、代表側と僕がコミュニケーションを取って風通しを良くしたりすればいい。事象には原因、理由がある。それをまず彼に伝えて、その背景をクリアにするのが僕の仕事です」(恋塚)

 クラブの今後についても、ルカHCと二人三脚で積み上げていく考えだ。強化方針についてはこう述べる。

「バスケに限らず監督が変わると戦術、チームの色が変わることが多いように思います。でもわれわれはベーシックな部分をしっかり築いていきたい。ルカのバスケットボールは、組織的であり、個ではなくチームでゲームを支配するスタイルです。組織的なディフェンスを行うため、全ての選手がハードワークできる身体作り、フィジカル面の強化を徹底しています。1年目の昨シーズンは選手が8人も入れ替わり、手探りの状態でチームを構築しました。でも組織的なディフェンスというベースを作ることができた。2年目は優勝メンバー11人の契約継続を最大の補強と捉えていて、ベースとなる組織的戦術を熟成させつつ、組織の中での個の成長に重点を当てます」

「アルバルクの最終形態はまだまだ先」

アーリーカップも制し順調なスタートを切ったが、恋塚GMは「最終形態はまだまだ先」と先を見据える 【(C)B.LEAGUE】

 恋塚がルカHCに寄せる信頼は極めて強い。指揮官が仮に交代しても残る「ベース」作りも、このセルビア人指揮官には託されている。「何年もHCが一緒だとマンネリになる場合もありますが、ルカに関してはその情熱と、バスケに対する深さがそれを越えている稀有(けう)な存在だと思っている。Jリーグのアーセン・ベンゲル、イビチャ・オシムと同じくらいすごい監督が、日本にポッと来たという感覚」とその価値を説く。

 恋塚は自らのこれまで、そして今後についてこう述べる。

「1年目は事業部長としてプロモーション的にも企業チーム感を払しょくして、アルバルクのブランドを植え付けられた。2年目はGM業に重きを置いてチーム作りに目をやって結果を出せた。3年目は融合が重要です。アリーナ立川立飛をホームにして2シーズン目なので、もっと立川の人たちに応援してもらえるチームにならなければいけません。立川でしっかりモデルケースを作って、その人たちにアリーナがどこにできたとしても来てもらえる状況を作りたい。一方で東京というチーム名をいただいているので、より東京全域に広げていく努力も必要です。地域へのアプローチと、首都圏戦略の両方を持ってやるべきだと考えています」

 今季の取り組みについてはこう思い描いている。

「2年目で優勝させてもらいましたが、アルバルクの最終形態はまだまだ先です。事業的な面でも、強化の部分でも、さらにどこまでしっかり積み上げていけるかが大切です。3年目はファンの方、地域の方に理解してもらって、協力してもらう体制作りにトライしていきたい。皆さんと情報を共有しながら、一緒に盛り上げる環境を作っていけたらと思っています」

 Bリーグ王者はまだゴールでなく、クラブ作りは道半ばだ。しかしA東京にははっきりしたビジョンと強い意志がある。プロを知る恋塚GMと、世界を知るルカHCの二人三脚で、今も未来に向けたベース作りが着実に続いている。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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