佐々木則夫×眞鍋政義、特別対談<後編> 戦術、W杯、五輪…監督の感覚を語る
佐々木則夫さん(左)と眞鍋政義さんの対談後編は、戦術やW杯、五輪についてお互いの感覚を語り合ってもらった 【坂本清】
今回は、女子サッカー前日本代表監督の佐々木則夫さん(現・大宮アルディージャトータルアドバイザー)と、女子バレー前日本代表監督の眞鍋政義さん(現・ヴィクトリーナ姫路ゼネラルマネージャー)の対談後編をお届け。監督時代に感じたこと、チームについてなど裏話を交えつつ、両氏の「監督のカンカク」を聞いた。(文中敬称略)
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バレーとサッカーで異なる戦術面
佐々木 以前、飛行機で女子バレー日本代表と一緒になったことがあるんです。眞鍋くんの前の監督の時かな。みんな単行本を読んでいたんだよね。うちのキャッキャした感じとは違うなぁ、指導が行き届いているなぁと思って感心しました(笑)。
眞鍋 中をみたら漫画じゃなかったですか?(笑)。あくまで印象ですが、サッカーとバレー選手は全く違う感じがします。サッカーは明るいですよね。
佐々木 サッカーは選手にああしろ、こうしろという指示がないじゃない。ほら、眞鍋くんみたいにiPadを持ってデータを見ながら偉そうに指示しないわけよ(笑)。俺の仕事は試合が始まると3枚の交代カードを変えるぐらいで、あとは選手が自分で判断してやらないといけないスポーツだから、その違いはあるのかもしれないね。
眞鍋 バレーボールは小学生の頃から厳しい中でずっとやってきているので、自分で考えることができないんです。これは問題ですよ。やれと言ったことはやるけれど、新しいことを考えることができない。僕が監督になって一番変えたかったのはまさにそこです。女子バレー=厳しいというイメージを変えたいと思ってずっとやってきました。
佐々木 一度言ったことがあるよね。「試合があるのに何でそんなマジな練習するんだよ」と(笑)。夜試合があるのに、「何でそんなハイパワー出すの?」とびっくりした(笑)。
眞鍋 そうなんです。夜に試合があっても午前中の練習でめちゃくちゃやる。「やめとけ」と何回言っても「習慣だから」と、とにかく練習する。サッカーの練習時間は短いですか?
佐々木 大会期間中は一番長くても90分。だいたい1時間ぐらいかな。もちろん手と足、それぞれの違いもあるだろうね。手でやるバレーボールはその分精度も細かくコントロールしやすいから練習すればするだけうまくなる、と考えるのも分かる。だからバレーボールは分析も大変だよね。「どれぐらいデータを取るの?」というくらいとにかく取っている。
iPadを手に指示を出す眞鍋さん。リアルタイムにくるデータを駆使し戦術を練った 【写真:ロイター/アフロ】
佐々木 サッカーはそこまで(指導できる部分が)ない。試合中の通信も最近ようやくOKになって、上から情報が来るようになったぐらいだから。競技的に、どちらかというと判断を指導者が奪ってはいけないという部分がサッカーにはあるね。もちろんベースが分かっていないとダメなので最初は指導をするけれど、いつまでもああせえ、こうせえというのはない。チームとしての戦術的なことを共有して、残りの部分は自分の持っている質を上げるほうが大事なので、いくつものエクスキューズがある。バレーボールでもそうでしょ。セッターにしっかり返す計算のもとにクイックをやる、と決めていても状況によってできない時もあるから、ならばこれ、と方法を変える。判断は常に伴うよね。
眞鍋 メンバーチェンジは最初からある程度この選手を出そう、と決めているんですか?
佐々木 ゲームプランは自分で考えているけれど選手には伝えないね。「ここで誰を代えるよ」とは言わない。ただ、1−0でリードしていて、選手がケガもなくやっている時はフォワードを代えて前線からプレッシャーをかけられる選手を使おう、とか共有する部分はある。とはいえあくまでゲームプランで、いろいろなことがあるし、その通りにはならないほうが多いね。エクスキューズ(プランがなくなること)が多いので、選手もスタッフも臨機応変が大切になりますね。
眞鍋 バレーの場合は分かりやすいです。サーブが不得手な選手がサーブを打つ2巡目の時は代えるとか、ある種パターン化しています。やはりいろいろな点でサッカーとバレーボールは違いもありますね。