全日本女子に生まれた「意識の変化」 バックアタックが奏功、広がった攻撃の幅

田中夕子

それぞれが「次のプレーを考えて動く」重要性

目先だけを見るのではなく、それぞれが次のプレーを考えて動く。その結果が開幕戦の快勝につながった 【坂本清】

 なぜ、これほどバックアタックが生きるようになったのか。

 ネーションズリーグ、アジア大会からの大きな変化を挙げるとすれば、1つは前述の通り、新鍋が入る際にレフトの1枚が後衛でサーブレシーブから外れて攻撃に専念できる環境を作ったこと。加えて、長岡が入る際は長岡の攻撃に相手のマークを引き付けることや、アジア大会から加わった荒木、さらに攻撃力の高い奥村の積極的な攻撃参加により、セッターの中で相手ミドルに対する過剰な恐怖心や警戒心が消えたこともある、と田代は言う。

「ネーションズリーグの時はBパスからバックアタックを使っても効果がないという数字が出されていたので、試合をするうちに選択肢の中からバックアタックがどんどん消えてしまっていました。でも少しパスが乱れた時はアタッカーにも入る位置を変えてもらったり、いろんな連携が取れるようになった。自分の理想としては前衛からの攻撃とバックアタックを半々で使いたい。特にレフトの選手にはまずバックアタックから打数を上げていこうと思って組み立てをしています」

 意識の変化は攻撃陣だけではない。自チームがサーブを打つ際、コートに入るリベロの井上琴絵はこう言う。

「セッターが前衛にいる時も、バックの2人が攻撃に入れる展開を作ろう、と練習してきたので、ラリー中もバックアタックが使いやすいパスを返すことはもちろんですが、攻撃に入る人の邪魔をしないように、というのは前以上に考えるようになりました。

 実際、練習の時には自分が取りに行ってしまって、十分な準備ができなくて打ち切れなかったり、そもそもバックアタックの助走コースを邪魔してトスが上げられなかったシチュエーションがあったので、周りを見ながら、状況を考えながら、何でもかんでも動きすぎないというのは前よりもすごく意識するようになりました」

 目先だけを見るのではなく、それぞれが次のプレーを考えて動く。その結果が開幕戦の快勝につながった。

2次ラウンドからは、真価が問われる戦いが続く

オランダ戦では攻撃が前衛に偏ったところを対応され、フルセットの末に敗れた 【坂本清】

 このまま大会が終わるのであれば、ネーションズリーグよりもバックアタックが使えるようになった、5戦を4勝1敗で終えた、それだけでいいかもしれない。だが、大会はまだ始まったばかりで、2次ラウンドはブラジル、セルビアなど強豪国との対戦が控えている。ここからが真価を問われる戦いだ。

 実際にアルゼンチン戦では気持ちよく決まったバックアタックも、翌日のオランダ戦では序盤からタイミングが合わずに打ち切れない場面が目立った。田代がセットの際に一瞬ボールを手の中で溜めてしまうため、アタッカーが入って来るタイミングにズレが生じる。

 3、4戦目でスタメン出場した石井優希も「1本1本タイミングや高さを確認しながらやっていたけれど、なかなか合わなかった」と言うように、試合の中で修正しきれず、結果的にバックアタックの本数が減った。前衛に攻撃が偏ったところを、オランダのトータルディフェンスで対応され、フルセットの末に敗れた。

 もちろん敗因はバックアタックだけではないが、攻撃の選択肢が減ったことで歯車が狂ったのは事実だ。問題はパスの精度や、対ブロッカーに対するスパイクの精度ではない。微妙に生じたズレの理由を、古賀はこう解釈する。

「前衛からのスパイク以上に、バックアタックのコンビはちょっとしたタイミングで変わってしまう。セッターとアタッカー、両方がお互いに合わせようとしてしまうと合わないんです。アタッカーは一定のリズムで入り続けないといけないし、セッターも一定のリズムで上げ続けないと難しいので、そこはお互いにコミュニケーションを取って、要求し合って解消しなければいけないと思います」

 2次ラウンドからはよりし烈な戦いが続く。3次ラウンドへ進めるのは、各組上位3チーム、計6チームのみ。どんな相手に対しても、どれだけ自チームの長所を生かすことができるか。抽出された課題をどれだけ克服することができるか。より一層過酷な戦いは、これからが本番だ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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