西武が本拠地“180億”大改修 ビジネスと強化の両輪に撒いた種
室内練習場と寮も新設。その効果は?
老朽化の進む室内練習場を刷新。選手が練習に没頭できる環境は整った 【(C)SEIBU Lions】
こうした環境を長らく待ち望んでいた選手たちにとって、どんなプラス効果が生まれるだろうか。以前、菊池雄星がこんな話をしていたことがある。
「選手のパフォーマンス(が構成されるの)は90%が感覚で、残りの5%が環境、残りの5%がデータだと僕は思っています。たかが5%だけど、プロ野球ってそこの世界じゃないですか。何年か後に西武球場の環境が変わるのはたかが5%だけど、そこの伸びは本当に大きいと思います」
菊池はハード、ソフトともに充実した練習環境を求めて自己投資し、シーズンオフには渡米してトレーニングを行っているほどの意識の高さを持つ選手だ。
対して、今ある環境を最大限利用して伸びる選手もいる。代表格が秋山翔吾だ。『スポーツ報知』によると、昨年行われた球場改修の発表会見に出席した後、秋山は“警鐘”を鳴らしている。
「今も(練習は)できる。やらない人間が多いなと思います。これで施設が良くなってからやるんだったら、今からやっておくべきだと本当に思います。生かすも殺すも、最終的には選手次第だと思います」
秋山の言うように、ハードを整えるだけでは宝の持ち腐れになりかねない。ソフトとうまく掛け合わせることで、両者の価値は最大化される。
トラックマンの使い方にも個人差
西武投手陣の中でエース・菊池はトラックマンデータの活用を積極的に行うタイプのようだ 【写真は共同】
「トラックマン(高性能弾道測定器)は過大評価されています。導入するだけでは意味がない。どう使うかが重要です」(某球団関係者)
実際、データの活用は選手によってかなり個人差がある。西武の投手陣には登板後にトラックマンのデータが30項目ほど送られるが、それをどう生かすかは個人次第だ。「データに興味がある」と言う菊池は外部の専門家と自分で契約し、例えば球種によってどれくらいの速度が空振りを奪いやすいかなどと分析して、パフォーマンスの向上につなげている。
一方、送られてきた数字に目を通すが、「データに感覚を左右されたくない」という投手が複数いた。ある投手は走者の有無でリリースポイントが異なるはずだと自覚している一方、トラックマンのエクステンション(ピッチャーズプレートからリリースポイントまでの距離)という項目では走者の有無を分け隔てなく採取・数値化されるので、「そこまで役立たない」と話していた。
また、西武がトラックマンを設置しているのはメットライフドームのみだが、他球団では練習場のブルペンや2軍の球場に設置しているところもある。本格運用するならそうしたところまで考慮する必要があるだろう。
ハードはあくまでただの箱。適切なソフトを介して初めて有機的に機能する。今回の球場改修で練習環境を整えた後、球団としてどんなタイプの選手を獲得し、どうやって育てていくのか。そうしたビジョンがあって初めて、強く、魅力的なチームが継続的にできていく。
スポーツナビ編集部では西武球団に対し、そうしたビジョンを語ってほしいと細かい質問項目とともにリクエストしたが、「戦略的な部分で細かい話はできない」と断られた。個々の事象について説明を求めたわけではなく、大きな地図を知りたいというものだったが、こうした情報は一切明かさないことにしているのか、語れる適任者がいないのか、ビジョンがないのか、はたまた筆者の突っ込みを厄介と感じているかのどれかだろう。
10年に1回の優勝頻度を上げるために
今回の改修工事の全体スケッチ図。球場の魅力が高まることで来場者数の増加や収益の増加が見込まれる一方、肝心のグラウンド内で結果を残してこそ、ビジネスと野球の両輪がうまく回る。果たして今後の球団繁栄に向けた舞台装置になりえるのか、注目が集まる 【(C)SEIBU Lions】
「利益がどんどん伸びてきたから、その分をそこ(FA選手の引き止め)に使っていこうかという話はしていないです。ただ自然の流れとして売上も伸び、利益も高まっていくと、その利益を当然他のものにシフトしていくことはあります。ただ、補強にあてようかとか、FA流出を防ぐための資金に当てようかというダイレクトな話はしていないです。そこだけに使っていくことで考えているわけではないです」(立木氏)
プロ野球団の運営はベースボールオペレーションとビジネスオペレーションの両輪から成り立ち、メジャーリーグのように両者は表裏一体であるのが望ましい。実際、西武は今回の球場改修で「ボールパーク化とチーム/育成の強化」と両面から全体スケッチを描いている。
しかし実際、日本のほとんどの球団はそうなっておらず、特にここ10年はビジネス面だけが一人で先に進んでいるように見える。西武でも通常の取材や今回の立木氏のインタビュー、そしてグラウンド面の事象から判断する限り、ビジネスオペレーションとベースボールオペレーションの相乗効果を強く感じることはできなかった。
2018年の優勝は、選手、首脳陣、裏方が努力を重ね、大勢のファンによる後押しがあって成し遂げられたものだ。ただし6チームで争っているプロ野球で、10年に1回の優勝という頻度を上げていくには、球団のビジョンが不可欠になる。
果たして、3年後に完成される魅力的なボールパークは球団繁栄の舞台装置となるだろうか。その答えは、来季以降に明らかになる。