MLB監督に求められる資質と能力とは? Rソックス、ヤンキースの躍進で明確に

杉浦大介

結果を出した名門2球団の新監督

監督就任1年目からレッドソックスのシーズン最多勝利記録を更新するなど手腕を発揮したコーラ監督 【Getty Images】

 シーズンも押し迫った9月下旬、レッドソックス、ヤンキースというメジャーきっての名門が相次いでプレーオフ進出を決めた。3年連続地区優勝のレッドソックスはメジャー1位、ワイルドカードのヤンキースは同3位の高勝率をマーク(現地時間9月26日時点)。ともに全米的な人気を誇るだけに、ポストシーズンでも注目度は高い。

 この両軍にもう1つ共通するのは、今季は40代の新監督を起用して1年目であることだ。スターぞろいのロースターだけでなく、レッドソックスのアレックス・コーラ、ヤンキースのアーロン・ブーンという2人の青年監督の手綱さばきも注目を集める。

「ポストシーズンで戦う機会を得ることができて名誉だ。彼らとともに戦えて光栄に思う。今年はアップダウンがあったが、成し遂げたことを誇りに思う。これから特別な旅が始まるんだ」

 本拠地ヤンキー・スタジアムでポストシーズン出場を決めた直後、ブーン監督は喜びよりも安堵感をにじませながらそう述べた。昨季にワールドシリーズまであと1勝に迫ったチームを引き継ぐ重圧は大きかったはずだが、今季を通じてその安定感のある采配でまずは好評を勝ち得てきた。

 主砲アーロン・ジャッジが多くのゲームを欠場し、ゲーリー・サンチェス、ソニー・グレイといった主力が不振に喘いできたが、それでもシーズン中の勝ち星は昨季より上。多くの補強を可能にする資本の利点を考慮した上でも、誤算も多かったチームを冷静に舵取りしたブーン監督の手腕は賞賛されていい。

 ジャンカルロ・スタントン、CC・サバシアらのベテランだけでなく、グレイバー・トーリス、ミゲル・アンドゥハーといったラテン系のルーキーたちもうまく使いこなしてきた。メディアとの関係も総じて良好。筆者が最も感心したのは、手痛いスイープ負けを喫して地区優勝が絶望的になった8月上旬のレッドソックス4連戦後の落ち着きぶりだった。

「この週末を思い出し、あの負けがあったからチームが一丸となり、みんなが成長できたと言えるようにしていきたい」

 悔しさを感じさせながらも、ブーンの言葉、表情が乱れることはなかった。大都会で指揮を執る監督に必要なのは、苦境の中でも笑える人間の大きさ。それらは得てして負けた時に見えるもの。今季ここまででは最悪だった敗戦の後で、ブーンの監督としての資質は浮き彫りになった感があった。

 一方、レッドソックスを歴史的シーズンに導いたコーラ監督に対する評価は、現状ではブーン監督のそれをも上回る。MVP候補のムーキー・ベッツ、後半戦ではエース級の投球を続けるデービッド・プライスといった主要メンバーと巧みに心を通わせ、同時に長いシーズンの中で主力選手たちに随所に休みを与えることにも成功。また、現代の潮流であるデータ分析を上手に使いこなしているという点でも、プエルトリコ出身のコーラの評判はすこぶるいい。

 このコーラ監督に率いられ、レッドソックスは24日に早くも球団記録のシーズン106勝目。すでにポストシーズンを通じてのホームフィールドアドバンテージを勝ち取り、“世界一”の本命に挙げられるだろう。今後に何が起ころうと、現役時代からリーダーシップに定評があったラテン系指揮官が今季のア・リーグ最優秀監督に選ばれる可能性は高い。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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