- 杉浦大介
- 2018年9月19日(水) 12:01
往年のスター、現役スターが見守る

ジョー・トーレ、ダリル・ストロベリー、ドワイト・グッデン、キース・ヘルナンデス、ボビー・バレンタイン、テリー・コリンズ、ジョン・フランコ、エドガルド・アルフォンゾ……。
メッツの本拠地であるシティ・フィールドにこれほどの豪華メンバーが集まったのはいつ以来だろうか。試合ではなく記者会見に限定すれば、2009年のオープン後もっとも豪華な舞台だったかもしれない。
9月12日(現地時間)、メッツ広報を39年にわたって務めてきたジェイ・ホーウィッツの勇退が発表され、本拠地でセレモニーとも呼ぶべき会見が行われた。OBだけではなくデービッド・ライト、ジェーコブ・デグロム、ホセ・レイエスといった現役プレーヤーたちもその場に姿を表し、“恩人”の新たな門出を見守った。
「39年は長い時間でした。新しい役割をこなすことになる来季に不安はありますが、楽しみにしています。私の人生における新章の開始です」
フレッド・ウィルポン・オーナーとともにステージに座った73歳のホーウィッツがそう述べた通り、今後もチームには残り、主にメッツOBの広報的な立場に就任するという。それでもフランチャイズの生き字引とでも呼び得る名物広報が第一線を退くことのインパクトは大きい。盛大な会見の中で、“一時代の終わり”という少々大げさな形でこの日の会見を形容したメディアも存在したくらいだった。
イジられキャラでマスコット的な存在
広報の仕事というとチームの宣伝役というイメージかもしれないが、メジャーリーグにおいては選手とメディア間のいわば緩衝役。チームにほぼ常に帯同し、メディアの取材をコントロールし、成績、スタッツなどのアップデートを提供する。ときにスポークスマンを務め、同時にまだ若い選手の教育もしなければならない。
そんな役割を約40年も続けたホーウィッツはかなりの強面かと想像するかもしれないが、実際には“やり手”と呼べるタイプではなかった。いわゆる“イジられキャラ”。好々爺のような風貌通り、チームのマスコット的な存在だった。
1980年に広報部の面接を受けた際には当時のGMにオレンジジュースをかけてしまったとか、キース・ヘルナンデスを獲得した際には空港の隣のゲートで待っていたとか、有名な逸話は枚挙に暇がない。選手からもイタズラの標的とされたエピソードは数知れず。今回の会見でもフランコ、ライトといった歴代の主将が多くの裏話を披露し、場内を爆笑の渦に巻き込んだ。
「ホーウィッツのスーツのポケットにアイスクリーム・サンドウィッチをしのばせた」「椅子に座って居眠りしている間にネクタイを切り刻んだ」「愛用している双眼鏡のレンズを真っ黒に塗り潰した」といったあたりはまだ可愛げがある。しかし、「生涯独身だったホーウィッツの部屋に誕生日プレゼントとしてストリッパーを送り込んだ」「医務室のテーブルにくくりつけた上で鳥の餌をふりかけ、キャンプ地のフィールドに置き去りにした」といった話になると度が過ぎていて、この広報はイジりを通り越して選手たちからイジめにでもあっていたのではないかと勘繰りたくもなる。
しかし、ホーウィッツはそんな扱いも意に介さなかった。選手、メディアからイタズラされ、笑われても、「もしも好かれてなかったら、こんなことはされない」と自らを笑い飛ばす度量を持っていた。確かに、愛されていなかったら、勇退会見にこれだけ多くの選手、関係者が集まりはしなかったはずだ。