上々の米国デビューを飾った井岡一翔 強さ証明でSフライ級戦線の中心選手に
アグレッシブに打ち合う姿勢も見せた
強敵相手にアグレッシブな打ち合いも見せた井岡(左)。そのスタイルは米国ファンを沸かせることもできた 【Getty Images】
試合後、アローヨは潔く負けを認めた。この日まで17勝(14KO)3敗の戦績を残していたプエルトリカンは、井岡の米国初陣のためにあてがわれた“かませ犬”などではなかった。
2016年4月には4階級制覇の英雄ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に善戦し、今年2月には元王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)に判定勝ちした実力派。スーパーフライ級への転級初戦でそんな選手を明白に下し、同時に伝統のアリーナに集まった4019人のファンを少なからず沸かせたことに意味がある。
この日の井岡はとにかくアグレッシブで、リングサイドで見ていても冷やっとさせられるような被弾も散見した。ボディを効かされた状態でも強いパンチが打てるアローヨのパワーは最後まで脅威だった。それでも井岡はほぼフルラウンドにわたって前に出て、スキルと回転力で打ち勝ち続けた。
「(打ち合ったのは)まずは戦略。あとは気持ちで負けたくないというのと、いろいろな想いが重なって前に出た。受け身になりたくなかったんです」
こんな意欲的な姿勢と、それを成功させる技量は、結果と同様かそれ以上に内容が問われる米国のリングではより大きな価値を帯びる。
「井岡は才能のある選手だと聞いてはいた。しかし、ハードパンチャーのアローヨと打ち合って、打ち勝ったのは素晴らしかった。中でも特にアローヨをスローダウンさせた左フックのボディ打ちには感心させられた」
試合後、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)のプロモーターとして知られ、今興行を主催したトム・ロフラー氏は笑顔を浮かべながらそう述べていた。
エストラーダらとのビッグファイトも
「Superfly」シリーズの中心選手としての期待がかかる井岡。強豪選手とのビッグファイトの可能性も 【Getty Images】
「今夜、HBOが放送した3戦はどれも好試合だったが、その中でも井岡が最も印象的だった。HBO傘下で素晴らしい未来が広がっているよ」
ロフラーがそう語るように、最近は資金難のHBOが低予算の「Superfly」シリーズを継続するとすれば、確実に井岡にも声がかかるだろう。年末には別の場所で1戦をこなすにしても、来年2、3月に計画されそうな「Superfly4」ではシーサケット、この日のメインで勝ったファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)のような著名どころとのビッグファイトへの夢が膨らむ。
「強い選手とやりたいというのは、米国に来たからではなく、日本でやっている時からそうでした。今回、そういうトップ選手とやるために来たし、イコール、自分の強さを証明するために来た。スタートラインに立てたので、ここからスーパーフライ級戦線で自分が中心選手となっていきたい」
井岡のそんな言葉通り、米国でのキャリアはまだ始まったばかり。まだ米リングで“呼び物”になり得る段階ではないが、それでも新天地でのデビュー戦でのパフォーマンスが今後に生きてくることは間違いない。井岡も試合後には「いっぱいいっぱいだった」という言葉を何度も繰り返したほど、強豪相手の厳しいファイトだった。それほどハイリスクな道を選択し、最後は明白な形で突破したことで、3階級制覇王者は米国のファン、関係者からのリスペクトというハイリターンをいきなり手にしたのである。