FC今治とジャパンズ・ウェイをつなぐもの 小野剛氏が語る「日本らしさ」の真の意味

宇都宮徹壱

前提として──再びクローズアップされたジャパンズ・ウェイ

FC今治のスタッフでありJFAの技術委員でもある小野剛氏に話を聞いた 【宇都宮徹壱】

 平成最後の8月、その最後の週末を今治で迎えた。今年で4回目となった、育成年代の大会『BARI CUP(バリカップ)』。今年はU−15、U−13、U−12、U−10、そしてレディースの5つのカテゴリーに分かれ、8月初旬からほぼ1カ月にわたりさまざまな大会やイベント、指導者講習会が行われた(U−10の大会は、9月16日にトップチームの試合の前座として行われる)。

 25日には、FC今治コーチディベロップメントオフィサーの小野剛氏による指導者講習会が行われ、私も取材と称して参加させていただいた。テーマは「ワールドカップ(W杯)2018からみた育成年代への提言」。FIFA(国際サッカー連盟)インストラクターであり、JFA(日本サッカー協会)技術委員でもある小野氏のプレゼンテーションは、予想に違わず非常にクオリティーの高いものであった。こうした講習会が今治で行われること自体、実に意義深いものに感じられる。参加者も同様の思いだったはずだ。

子供たちの成長を願いFC今治が主催する「BARI CUP(バリカップ)」の様子 【宇都宮徹壱】

 さて、今回の取材の主目的は、その小野氏へのインタビューである。現在、今治に籍を置きながらも生活の拠点を東京に戻し、関塚隆技術委員長のサポート役としてJFAに復帰した小野氏。そんな彼にぜひとも確認したかったのが、このところJFAから盛んに聞こえてくる「ジャパンズ・ウェイ」についてであった。ジャパンズ・ウェイ──先のW杯でセネガルに引き分けた時、現地で視察していた田嶋幸三会長が「こういう戦い方をすれば、日本人の体格でも世界と渡り合える」として口にしていたのが、ジャパンズ・ウェイであった。以下、JFA公式サイトから引用する。

《足りないものは高める努力をしつつも、世界基準よりも勝る日本人のストロングポイントをさらに伸ばしていき、それを活かして日本人らしいスタイルをもって戦っていくJapan's Wayとは、特定のチーム戦術、ゲーム戦術を指す言葉ではなく、日本人の良さを活かしたサッカーを目指すという考え方そのものであり、イメージの共有のための言葉です。》(「日本が進むべき方向性 Japan's Way」より)

 当初は聞き慣れない言葉に感じられたが、田嶋会長によれば「06年に、当時の小野技術委員長が提唱した」と語っている。果たして、それは事実なのか? そして12年の時を経て、なぜ再びジャパンズ・ウェイはクローズアップされることになったのか。今回の取材に先立ち、私は小野氏が技術委員長だった06年から10年の『JFA Technical news』を読み直し、「Japan's Way」の記述があるページをコピーしておいた。「よくここまで調べましたね」と苦笑しながら、小野氏はW杯ドイツ大会が終了した06年の状況から語り始めた。

「日本ならではの良さで世界に打って出る」

バリカップで行われた指導者講習会に登壇した小野氏 【宇都宮徹壱】

 私が田嶋さんの後任として技術委員長となったのは、06年のW杯が終わって新体制になってからでした。この時の『JFA Technical news』で、私はこのように大会を総括しています。《日本人の特長を生かした、日本人としての闘い方を追求していく。「全員がハードワークする」というこの傾向は、日本人が特性として最も力を発揮できる部分であると考えている。》──これが「ジャパンズ・ウェイ」という考え方のベースとなりました。

 私が初めて「ジャパンズ・ウェイ」という言葉を使ったのが、06年の11月だったと思います。千葉県で技術委員会の合宿をやったのですが、その時に作成したパワーポイントに残っていました。この時の合宿には、アカデミーダイレクターの布(啓一郎)さん、女子の上田(栄治)さん、あと風間八宏さんもいましたね。そういう面々で「日本のサッカーはこれからどういう方向へ進むべきか」ということを、1泊2日で話し合ったんですね。そこでキーワードとなったのが「ジャパンズ・ウェイ」と「打って出る」でした。

 当時の状況を説明すると、ドイツでのW杯が残念な結果に終わったこともあって、日本サッカーを卑下する傾向が強かったんですね。「日本人は農耕民族なんだから、そもそもサッカーに向いていないんじゃないか」とか(苦笑)。もっともサッカーだけでなく、テレビをつけても「日本の常識は世界の非常識」とか「だから日本人はダメなんだ」みたいな、どちらかというとネガティブな内容のものが多かった時代ですよね。

 でも本当に日本人は、サッカーに向いていないんだろうか? 「日本人にはマリーシア(ずる賢さ)が足りない」というけれど、そもそも武士が後ろから斬りつける文化なんかなかったわけですよ。マリーシアだけでなく、フィジカルでも足りないところは確かにある。でも一方で日本には、素晴らしい面もたくさんあるじゃないか。協調性とか、自己犠牲とか、持久力とか。テクニックだってそこそこある。育成のシステムにしたってそうですね。「ヨーロッパでは16歳までにクラブと契約しないとプロになれない。日本も学校の部活でなく、育成をクラブに絞ったほうがいいんじゃないか」といった意見もあります。

 でも、ちょっと待てよ。日本にはこれだけ学校の施設があって、情熱を傾けている指導者もたくさんいる。そんな国、世界中のどこにありますかという話ですよ。「ドイツはこうだからこうしないと」とか、「オランダのこういうところを取り入れないと」とか、コピー&ペースト的な論調が当時はたくさんありました。でもわれわれは日本人であり、日本には日本の良さがある。「足りないからダメだ」じゃなくて、日本ならではの良さで世界に打って出る。そして勝っていく。そういった「ジャパンズ・ウェイで打って出る」ということを、1泊2日の合宿の中で徹底的に話し合った記憶があります。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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