【ボクシング】3年契約での米国進出を決めた岡田博喜 ジムのサポートを受けて夢の扉を開く

船橋真二郎

同ジム・小國の世界王座戴冠が刺激に

岡田博喜(右)のトップランク契約締結会見で“司会進行役”を務めたのは先輩の元IBF世界スーパーバンタム級王者・小國以載。2016年大みそかの小國の世界奪取が岡田に上を意識させるきっかけとなった。 【船橋真二郎】

 デビューから8連勝で日本王者となり、防衛を重ねても、そうそうチャンスが巡ってこない中量級にあって、視線はなかなか上を向かなかった。

「さばさばしていると思うし、熱くなれない」と自認する岡田に刺激を与えたのは小國だった。2016年の大みそか、圧倒的不利の下馬評を覆し、強打の世界王者、ジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)を攻略した姿に心を動かされた。

「小國さんが世界チャンピオンになったのはデカかったですね。間近で見せてもらって、もしかしたら、俺もそんなに遠くはないんじゃないかなと思ったし、少しずつ欲が出てきました。(世界を)やれるか、やれないか。あとは運だなと」

 その運も向いてくる。現役最強候補に挙げられるようになったテレンス・クロフォード(米国)が、2017年夏に4団体統一を果たすとウェルター級に転級。スーパーライト級は戦国時代に突入する。同年11月、近藤明広(一力)がニューヨークでIBF王座決定戦に出場(判定負け)するなど、視界が開けてきた。

 そんな状況で迎えたのが、世界ランカー対決となったジェイソン・パガラ(フィリピン)とのWBOアジアパシフィック王座決定戦。「初めての世界ランカーだし、どこまで通用するのかも楽しみ」と岡田も腕をぶしたが、前日計量で体重超過したパガラに6ラウンドTKOの圧勝に終わる。自分の現在地も確かめられず、「日本でやっていても先につながらない」と気持ちは海外にも傾き始めた。

ボクシングに必要なものは「気持ち」

 岡田の世界挑戦の道筋を模索してきた鈴木眞吾・角海老宝石ジム会長によると、WBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)の参戦で注目を集めているWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)シーズン2のスーパーライト級出場の話もあったが、叶わず。ラミレスのアンダーカード出場のオファーから、一気に大型契約が舞い込んだという。

 スポーツ動画配信『DAZN』が放映権を獲得したWBSSには世界王者をはじめ、トップ選手8名が集まる。さらに英国の有力プロモーター、エディ・ハーンが率いるマッチルーム・ボクシングも『DAZN』とのプロジェクトを背景に米国に本格進出し、選手との契約に躍起になっている。こうした状況にあって、スポーツ専門チャンネル『ESPN』とタッグを組むトップランクが選手を集めていることも味方したに違いない。

 マッチルーム・ボクシング配下のWBO世界スーパーライト級王者、モーリス・フッカー(米国/27戦24勝16KO無敗3分)とトップランクがプロモートする同級1位のアレックス・サウセド(メキシコ/28戦全勝18KO)の指名試合は、入札の末にトップランクが落札。今秋のタイトルマッチでサウセドが勝利すれば、岡田のチャンスも広がることになる。

 WBSSに参戦するホープ、ジョシュ・テイラー(イギリス/13戦全勝11KO)を除き、「今のスーパーライト級には、そこまでスーパーな奴はいない」という岡田だが、厳しい戦いになることは覚悟の上。絶対的に必要なものに「気持ち」を挙げた。

 一見、クールな岡田だが、ボクシングの魅力を「ここまで気持ちをぶつけ合えるものは他にはない」という。「らしくない」と混ぜ返すと語気を強めて言った。

「それがなきゃ、どこかで折れて負けますよ。みんな、見たがってるじゃないですか。意地と意地の張り合いを。それを見せるのは楽しいし、勝てば見返りもデカい。最終的には気持ちだとずっと思っていましたよ」

 思い出されるのはフルラウンドの打撃戦を戦い抜き、日本王座の初防衛に成功した麻生興一(三迫)戦。親交があり、心理的にも難しい元ジムメートと演じた大激闘が「僕を強くさせてくれた」という。

ジムを挙げて岡田の米国進出をサポート

左から佐藤直樹トレーナー、岡田を挟んで日本スーパーライト級王者の細川バレンタイン、奥村健太トレーナー。セコンドだけでなく、多数のジムメートも帯同するなど、ジムを挙げて岡田の米国進出をバックアップする。 【船橋真二郎】

 結果以上に試合内容を求められるのが米国のリング。「少しでも面白い試合をして、少しでもファイトマネーを上げていきたい」という岡田は、ノンタイトルの米国初戦でキャリア最高額を手にするという。

「一攫千金しか見てないです。夢がありますね」

 ニヤリと笑った岡田は、亀海喜寛(帝拳)が昨年8月にロサンゼルスで元世界4階級制覇のスター選手、ミゲール・コット(プエルトリコ)に挑戦したときのコメントを会見で引用し、「狂った犬のように追いかけ回して、バカみたいに打ち合ったほうが面白い」と笑わせたが、あくまで自分のスタイルをベースに戦う構え。

 デビュー当初から岡田を担当する佐藤直樹トレーナーは「ウワーッと攻めるだけが気持ちの強さじゃない。どんなときでも冷静でいられるのが本当の強さ。飄々(ひょうひょう)としていますけど、岡田にはその強さがある」と言い、京太郎も「どこに行っても、誰が相手でも、岡田は変わらない」とロサンゼルス合宿を振り返った。

 今はまだ夢の扉に手をかけたところ。3年契約とはいえ、評価次第でどうなるか分からないことは理解している。まずは「独特の距離感があり、捉えどころがない」というクリスチャン・ラファエル・コリア(アルゼンチン)との米国初戦に集中する。チーフには佐藤トレーナー、カットマンには血止めの名人・鈴木会長、サブには情熱にあふれた若き奥村健太トレーナーのセコンド陣に加え、マネージャー役を買って出た小國、英語が堪能な現日本スーパーライト級王者の細川バレタインなど、ジムメートも多数帯同。ジムを挙げて、岡田の米国進出をバックアップする。

 米国に飛び立つのは9月7日の予定。岡田の夢を現実にする戦いが始まる。
■岡田博喜(おかだ・ひろき)プロフィール
1989年12月7日生まれ、東京都中野区出身。18勝無敗13KOの右ボクサーファイター。中学2年でジムに通い始め、駿台学園高に進学。高校3年時にはインターハイ、国体で優勝を果たす。明治大を中退後の11年10月、2回TKO勝ちでプロデビュー。14年3月に日本スーパーライト級王座を獲得。この王座は6度防衛後に返上し、17年12月にWBOアジアパシフィック・スーパーライト級王者に。家族は妻と1女。

2/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント