岩佐亮佑、攻め切る覚悟示せず王座陥落 重要な一戦で乗り越えられなかったもの
試合終盤にチャンス作るも攻め切れず
終盤に疲れが見えたドヘニー(右)に対してクリーンヒットもあったが、ダウンを奪うまでには至らず 【写真は共同】
ドヘニーは実際、そのときの心境をこう明かしている。
「9ラウンドで疲れを感じたが、その瞬間に目に映ったのがフィアンセと息子、そして母の姿だった。彼らのために勝たなければならないと強く感じ、残りのラウンドを戦い抜いた」
それでも岩佐は攻め切れなかった。ドヘニーのクリンチに絡め取られ、ごまかされ、攻めは散発に終わってしまう。劣勢で迎えた試合後半のインターバルには岩佐を激しく叱咤(しった)し、両脚をたたいて鼓舞し続ける小林会長の姿があった。セコンドアウトのブザーが鳴り、スツールから立ち上がる岩佐には大応援団がイワサ・コールで後押しし続けた。
岩佐が大きな見せ場を作ったのは、ようやく11ラウンドだった。左ストレートをクリーンヒット。後退したところを連打で攻める。ドヘニーは早々に赤くなっていた左目下からも出血した。岩佐はクリンチにさえぎられながらも攻めの姿勢を見せ続け、最終12ラウンドに望みをつないだかに思われた。
3月の防衛戦と同じ課題を露呈してしまった
3月の初防衛戦と同じ課題にぶち当たった岩佐。乗り越えられなかったものは自分自身だったのかも知れない 【写真は共同】
「クリンチをふりほどいて打つぐらいの気持ちを出さなければ、世界ではまったく通用しないことがはっきりしたと思う。ある程度、練習では出せるようになってきて、今回は相当、期待していたんですけど、試合で出せるか出せないかは本人次第なので」
展開こそ違え、3月の初防衛戦でも露呈した岩佐の課題。小林会長の思いが立ち戻るところは変わらなかった。
好戦的ファイターと見られた挑戦者のエルネスト・サウロン(フィリピン)は守りを固めるばかりで攻めてこない。完封ペースの岩佐だったが、そのペースを堅持したまま平坦な試合に甘んじてしまう。あと一歩、踏み込んでヤマ場を作りに行く勇気を愛弟子に求めてきた。
岩佐自身、前回の試合内容には納得しておらず、今回は「チャンスに詰めきる、倒しきる」と、覚悟を持って臨んでいたはずだったのだが……。
「ポイントは取られていると思っていました。ただ変に焦ったら、自分の距離を失って、逆に倒されるというのが見えて。なかなか行きづらかったですし、詰めきれなかったですね。それで倒されているし、そういう怖さがありましたね」
岩佐が言うのは3年前の世界初挑戦。敵地でリー・ハスキンス(英国)に倒されたときの残像である。
さばさばとしながらも時折、こみ上げてくるものを抑えているように見えた岩佐が吐露した言葉は重かった。
「やっぱり、大きい壁は大きい壁でしたね。僕は乗り越えられる人間じゃなかった。それだけですね。今日の自分の出来にはガッカリだったし、これだけ戦ってきても乗り越えられない。ちょっと考えてしまいますね、自分のこと、今後のことを……」
岩佐が乗り越えられなかったものとは何か――。
ちょうど10年前の8月、高校3冠の実績を引っ提げ、鳴り物入りでプロデビュー。センスあふれるボクシングで将来を嘱望された。
日本タイトル初挑戦は山中慎介(帝拳)に阻まれ、世界初挑戦もハスキンスに敗れた。プロでは、この2敗のみ。いずれもサウスポーだったことで、岩佐は苦手意識を口にしてきた。前回は回り道している間に苦闘を強いられることの多かったフィリピン人選手への苦手意識を公言。だが、乗り越えられなかったものとは間違いなく、そんな苦手意識などではなかったと思う。
“イーグル・アイ”の異名が示すとおり、岩佐は目が良く、勘がいい。きっと攻めるよりも先にリスクを敏感に嗅ぎ取ってしまうのだ。結局、岩佐が乗り越えられなかったものは、才能があるがゆえの自分ではなかったかと思えるのである。