小塚崇彦の“考えるドライビング” 氷上からアスファルトへ舞台を移して

奥野大志

コースデビューは「走っている途中にパニックに」

マニュアル車の運転はほぼ教習所以来と語る小塚、日々の練習で腕を磨いた 【写真提供:埼玉トヨペットGreen Brave】

 3月下旬に富士スピードウェイのサーキットライセンスを取得。同日に行われたスポーツ走行に参加し、密山選手の先導付きで1周4563メートルのレーシングコースを初体験した。

「すごく緊張しました。走っている途中にパニックになるんですよね。ギアが何速に入っているのかわからなくなるし。曲がるたびに全部ギアチェンジしようとしていたのですが、途中からそのままいけると。バタバタしているうちに時間が過ぎ去っていきました」

「1個終わったら安心してしまい、次のことを考えるのが難しい。スケートのプログラムも一緒だと思うのですが、1つのジャンプが終わっても、次のジャンプ、そしてその次がある。それがどんどん頭の中に浮かんでくるようにすれば、ちょっとずつ見えてくるのかなと。ただ、まだ2回目ですから。ちょっとずつ慣れてくると思いますが、やっぱり集中力が必要ですね」

 4月には単独でのサーキット走行も経験し、レース出場に必要な国内A級ライセンスを取得。GBエンタメならではのチームの万全なサポートも光っている。小塚選手はフィギュアスケーターとしての独特の視点で、フィギュアスケートとサーキット走行の共通性をこう表現した。

「スケートリンクのサイズはリンク毎に違いますし、滑るところや氷の状況、スピードの出る感覚も違います。サーキットは氷と同じかな。スケートは決められたことをやっていき、そこに穴や溝ができていたら、よけながら滑る。レースではクルマや落ちているものをよけなければいけない。決まっているところは決まっていますが、臨機応変にやらなければいけないところもある。ひとつのプログラムを滑るのとサーキットを1周まわってくるのは似ていますね」

クラッシュを経験するも、冷静に分析

 5月に入ってからは本格的なサーキットトレーニングを実施。富士スピードウェイのショートコースで行われたレッスンでは初めてのクラッシュも経験した。ただ、小塚選手のコメントからも徐々に手応えを感じているのは明らか。冷静に自分の運転を分析するのも小塚選手の特徴である。

「タイム的にも37秒台前半が出て、いい感じで攻めていけたし、密山選手から言われていた荷重移動もつかめてきていました。右行って、左行って、その反動でまた右にという感じだったので。お、いいなと思いながらやっていて、集中していたのですが、経験不足ですね。プロの人や、何度も何度も乗りこなしている人だったら、あの(クラッシュの)瞬間で行けるって思わないで、“キュッ”と止まることができるのだと思います。乗りこなしていって、慣れていくしかないですね」

 第5戦のクラブマンシリーズのエントリー台数は今シーズン最多の110台(7月10日時点)。全車が一度にスタートできるのは45台のため、予選上位組と下位組に分かれて決勝レース(10周)が行われる。残り20台は予選落ちで、土曜日で足切りである。デビューレースを迎える小塚選手にとって、予選通過も保証されていない状況だ。

 小塚選手の練習は今も続いており、6月にはTOYOTA GAZOO Racingの一般向け走行プログラムに参加。さらにレース直前まで毎週のように走行スケジュールが組まれている。もちろん、第5戦のエントリー状況に関しては小塚選手の耳にも入っているはずだ。

「プロドライバーの同乗走行を体験した後、人の走りをマネるとうまくいくと思いました。ぼくにはフィギュアスケートで鍛えたマネする力がありますから」

 レーサー・小塚崇彦誕生まであと数日。時間を削りとるための“考えるドライビング”は続く。

(映像提供:J SPORTS)

2/2ページ

著者プロフィール

1973年東京都生まれ。埼玉県川越市出身。出版社勤務を経て2012年に独立。企業のモータースポーツ活動にフォーカスし、全力で戦い続けるレーシングドライバーやメカニックたちのリアルなドラマを広く伝えている。2014年から埼玉トヨペットGreen Braveのオフィシャルライターとしてチームに帯同。自動車メディアにも寄稿している。ペンネームはゴリ奥野

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント