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フランスとクロアチア、それぞれの20年
日々是世界杯2018(7月15日)

一体感を取り戻したフランスとナショナリズムが薄れたクロアチア

ルジニキ・スタジアムの最寄り駅に設置された過去のW杯の展示。フランスの初優勝から20年が経った
ルジニキ・スタジアムの最寄り駅に設置された過去のW杯の展示。フランスの初優勝から20年が経った【宇都宮徹壱】

 試合後の授賞式は、激しい雨の中で行われた。ベストヤングプレーヤー賞は、フランスのエムバペ。ゴールデンブーツ(得点王)は6得点を挙げたイングランドのハリー・ケイン。ゴールデングローブ(最優秀GK)はベルギーのティボー・クルトワ。そして大会MVPとなるゴールデンボールには、クロアチアのモドリッチが選ばれた。優勝を逃したとはいえ、全32チームのどの選手よりも長い694分を走り抜き、しかも絶大なるキャプテンシーと抜群のテクニックを駆使して祖国を初の決勝進出に導いたのだ。当然の受賞と言えよう。結果として各賞は、きれいにベスト4に振り分けられる形となった。


 あらためて、優勝したフランスについて考えてみたい。優勝経験のあるチームに、初の決勝進出チームが挑む構図は、98年大会のブラジル対フランス以来のこと。あの時チャレンジャーだったフランスは、今回はクロアチアに対して「受けて立つ」立場となった。20年前にキャプテンだったデシャンが、今回は監督として二度目の優勝を達成したことも含めて、この20年間の厚みというものを思わずにはいられない。この間、フランスはもちろん順風満帆ではなかった。4年後の02年大会はグループステージ敗退に終わり、06年大会以降は「ポスト・ジダン」の方向性を見いだせずに迷走した。


 98年のフランスについて、もうひとつの視点を提示したい。あの時の優勝は、人種や民族を異にする選手たちが団結して得られた結果であり、その事実が国民に勇気と誇りを与えることとなった。しかしその後、国内事情は暗転。増加する難民・移民の問題、極右勢力の台頭、そして相次ぐテロ事件によって社会の分断は決定的なものとなってしまった。もちろん、こうした状況をサッカーが解決するとは言わない。それでも今回の「レ・ブルー(フランス代表の愛称)」の優勝が、20年前の国民的一体感をよみがえらせる可能性は十分にあり得るのではないか。それが「分断の時代」からの転機となることを願わずにはいられない。


 それからクロアチアについても一言。彼らもまた、3位となった98年大会から20年をかけて、新たなステージに到達することとなった。もっとも20年前のクロアチアは、戦争で独立を勝ち取ったばかりということもあり、選手もサポーターもナショナリズムを前面に押し出している印象が強かった。あれから20年が経過し、今では欧州連合(EU)の一員となったこともあるのだろう。今大会のクロアチアは、よりサッカーの本質に力点が置かれて語られるようになった。もちろん彼らとて、この20年はさまざまな曲折があったはず。それらを乗り越えての準優勝という結果には、心からの拍手を送りたい。


 かくして、1カ月にわたるロシアでのフットボールの祭典は終了した。最後に、大会全体についても総括しようと思ったのだが、これについては稿をあらためて考察することにしたい。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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