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戸田和幸の決勝レビューとW杯総括
日本が世界で勝つためには「知力」が必要

カンテが本来のパフォーマンスを発揮できなかった理由

モドリッチ(右)の巧みなポジショニングにより、カンテは目立つことができなかった
モドリッチ(右)の巧みなポジショニングにより、カンテは目立つことができなかった【Getty Images】

 はるかに疲れているはずのクロアチアが見せた積極的な守備、そして攻撃によって出鼻をくじかれる形となった序盤のフランスは、やや受け身に回ったと思います。


 4−4−2のフランスに対し、4−3−3のクロアチアは中盤の3人がいかにボールを触り、ゲームをコントロールできるかがテーマでした。流動性はもちろんありますが、中盤3人の基本の配置は逆三角形です。フランスのポール・ポグバとエンゴロ・カンテの2セントラルMFに対し、角度を付けて真っすぐプレスを受けないよう工夫を凝らしてプレーメークしていました。


 フランスからすると、中盤センターは「2対3」の状況で、チームとして持つ守備戦術は、コンパクトな3ラインを形成し、アントワーヌ・グリーズマンとジルーの2トップが相手の最終ラインにプレッシングを行うのが基本線です。


 クロアチアの中盤3人をいかに機能不全に陥れるかが、フランス側の重要なテーマとなりました。最終ラインのビダとロブレンに対し、時にはブロゾビッチが真ん中に入って3バックを形成して3対2を作ったり、時にはモドリッチとラキティッチが斜め後ろに下りてSBを押し出しながら数的優位、ズレを作ったりと、非常に理解度の高い3人によって確実にボールを前進させられる「出口」を見つけながらクロアチアはうまく戦っていたと思います。


 特にモドリッチとラキティッチはそれぞれカンテとポグバという“モンスター”の挑戦を受ける形となったこの試合。2人は自らのポジション取りで彼らを「斜め前」におびき出しながら空いた中央や外側から敵陣にボールが入っていけるような、繊細で知性溢れるポジショニングとパス、そしてランニングを披露しました。


 この試合のカンテがそれまでの試合のように多くのボールを奪い、目立つことができなかった背景は、前半27分にイエローカードをもらってしまったということだけではありません。エムバペが右にいることによる影響ももちろんありますが、モドリッチの「行けばはたかれ、行かなければ運ばれる」という巧みなプレーぶりに動きを止められ、奪いには行きたいが自分が動くことで空くことになるスペースが気になったために、思い切ってアプローチし切れなかったからではないかと思いました。


 寄せたいけど寄せられない、だけど寄せないとより効果的なプレーを選択されてしまう。どこか思い切りに欠けたように見えたカンテのパフォーマンスの裏側には、モドリッチの巧みなポジショニング、もしくはクロアチアのプレーモデルがかかわっていると感じました。

フランスが見せた「現実的」なサッカー

クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア
クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア【データ提供:データスタジアム】

 なかなか思うようにゲームを作れないフランスは、特にエムバぺとパバ―ルのサイドから何度か突破を許してクロスを入れられていましたが、ラファエル・バランとサミュエル・ウムティティというCBの能力もあってうまくしのぐと、前半18分に試合が動きます。


 今大会のフランスは、初戦のオーストラリア戦を除き、非常に「現実的」なサッカーを展開してきました。勝つために必要なこと、ディディエ・デシャン監督から求められていることを徹底して行うことで、彼らは頂点まで上り詰めました。この試合でも、それは変わることはありませんでした。「サッカーはボールを保持することを競い合うスポーツではない」と言っているかのように、守るべき時は徹底して守り、奪った瞬間には驚くほどのスピードと精度のカウンターを繰り出したのです。


この試合でのデータをざっと出してみても


(1)ボール保持率:クロアチア61%、フランス39%

(2)パス総数:クロアチア543本、フランス268本

(3)パス成功率:クロアチア80%、フランス69%

(4)シュート:クロアチア13本(枠内3本)、フランス8本(同6本)

(5)枠内シュート率:クロアチア23%、フランス75%


 決勝戦をご覧になった人が受けたであろう印象通り、(1)から(3)までの数字に関してはクロアチアが圧倒しています。ただし、(4)と(5)はフランスが勝っている。(4)についてはシュートの数こそクロアチアが上回っていますが、枠内本数を見るとフランスが大きく上回っているのが分かります。


 フランスは決してボールを持つことを放棄したわけではなく、持たれた場合は全体を自陣まで下げ、しっかりと守ったところからのカウンターに切り替えました。決して無理やりなことはせず、ボールを保持できたときは、全体で押し上げながらきちんと組み立ててフィニッシュまで持ち込む。それが今大会でフランスが見せたサッカーだったと思います。頑なにボールを保持することにこだわるようなことはせず、状況に応じて必要な、柔軟な対応ができたことが、フランスがチャンピオンになれた大きな要因の1つだと思います。

「ロングパス」を効果的に使ったフランス

 さらにはフランスはパス本数だけでなく、成功率も高くはありません。相手のプレスを回避するために中盤を省略してジルーにロングパスを送り、前線で起点を作って「こぼれ球」を拾うことが彼らの攻撃の重要なオプションだということも、「成功率」が低い理由なのではないかと見ています。


 こぼれ球ありきでターゲットマンに長いボールを持っていく戦術を採用することで、前に出てくる相手を瞬間的に「置き去り」にすることができます。そして前にボールが出ていくタイミングを共有できている攻撃側が、戻る相手より素早くトップに対してサポートすることで、キープできたあとの攻撃が有利になったり、こぼれ球を拾える率も高くなります。


 この試合でフランスが奪った最初の2得点は、共にこの「ロングパス」がきっかけになっています。1点目はカンテ、リュカ・エルナンデスと2回にわたって長いボールを敵陣に送り込み、2回目のロングボールをジルーがヘディングで競り勝ち、グリーズマンがエムバペにつないだところから攻撃が始まりました。最終的にグリーズマンがファウルをもらい、このフリーキックから先制点を挙げました。


 2点目はGKのウーゴ・ロリスからエムバペに約60メートルのパントキック。下がりながらのビダのヘディングがコーナーキックとなり、マテュイディの逸らしたボールがペリシッチの手に当たってPKとなりました。エルナンデスとロリスが蹴ったロングパスがそのままきれいに味方へと渡ったわけではありませんが、彼らが蹴ったロングパスには明確な「意図」が存在し、なおかつキックのクオリティーが高かった。だからこそジルーは競り勝つことができたし、ビダは触らなければ走り出しているエムバペに抜け出されてしまうという怖さから、ヘディングを選択せざるを得なくなりました。


 一見、何の意図もないように感じる「ロングボール」、いや「ロングパス」が効果的に相手の守備をかいくぐることにつながり、フランスは2つのゴールへと結びつけたのです。

フランスは全ての選手たちが「アスリート」だった

フランスは全ての選手たちが「アスリート」だった
フランスは全ての選手たちが「アスリート」だった【写真:ロイター/アフロ】

 試合を決定付けた後半20分の4点目は、相手に押し込まれたところからでした。グリーズマンまでもがボックス前まで戻って、相手の攻撃を食い止めパバ―ルがクリア。このボールは敵陣へと飛びましたが、五分五分のボールに可能性を見いだしたジルーが猛然とスプリント。相手DFと競り合ったこぼれ球をマテュイディが素早い出足で奪ったところから攻撃が始まり、エムバペの見事なミドルシュートが決まりました。


 サッカーを理解し、試合を理解し、相手を理解する。自分たちの強みを正しく理解し、試合に勝つために必要だと思われることを徹底して行うことができたのが、今大会のフランス代表チームでした。グリーズマンもジルーも、必要であればいくらでも走り、中盤まで下がって守備を行った。ポグバとカンテ、そしてマテュイディの3人はエムバペができる限り攻撃に良い形で向かえるよう、実質3人で横幅68メートルを管理していました。4−4−2で守る形を見せながらも、エムバペは攻め残りするという歪なオーガナイズ、それでも守備が機能し効果的なカウンターまで結び付けられたのはこの3人がいたからこそ。彼らの持つ飛び抜けた身体能力、戦術理解力とボール奪取のセンスを最大限に活用し、チームに大きく貢献しました。


 デシャン監督の戦術を形にする上で大きな働きを見せた3人の中でも、また今大会に出場した全選手の中でも、カンテは随一の活躍でチームに多大なる貢献を果たしました。前半にイエローカードをもらったことも影響したのでしょうが、モドリッチに対しどこか思い切りに欠けた対応が続いた稀代のボールハンターであるカンテを55分で諦め、197センチの長身ながらテクニックにも優れるスティーブン・エンゾンジをピッチに送り込んだことで守備が安定。こうしたデシャン監督の思い切った采配も当たり、フランスは盤石の戦いで今大会を締めくくりました。


 選手としても頂点に立った経験を持つデシャンという稀有な指揮官によって素晴らしい「チーム」へと成長し、頂点に立ったフランス。これだけの結果を残すことができた理由には、全ての選手たちがより優れた「アスリート」であったということが非常に大きなパートを占めていたと思います。


 ウムティティとバラン、ポグバとカンテにマテュイディ、そしてエムバペ。驚くほどの身体能力とスピード、耐久力を持った黒人選手がチームに与える「速さ」と「強さ」は理屈抜きで相手の自由を奪い、恐怖を与える圧倒的な力となりました。ロリス、エルナンデスとパバールの両SB、グリーズマンにジルーといった白人選手の持つ繊細な技術や調整力との融合。これこそがフランスの強さであると感じました。


 決勝戦でもそれまでの試合同様、精力的に走り働き広範囲をカバーし、前掛かりになる相手を裏返す華麗なボレーでのスルーボールをエムバペに出し、そのエムバペの突破から自らがことさら重要な3点目を奪うなど、今大会を通じてのポグバの献身的な働きぶりには、マンチェスター・ユナイテッドでプレーするポグバとは別人かと思わせるすごみと貫禄を感じました。


 一度捕まえた相手はプレーが切れるまで追いかける責任感、戻りの遅い味方選手に大きな声で指示を出すリーダー然とした姿は、これまで見られなかったものです。デシャン監督によって新たなステージに足を踏み入れることができたポグバの今後が非常に楽しみです。

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