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戸田和幸の決勝レビューとW杯総括
日本が世界で勝つためには「知力」が必要
フランスの優勝で幕を閉じたW杯を戸田和幸さんに総括してもらった
フランスの優勝で幕を閉じたW杯を戸田和幸さんに総括してもらった【Getty Images】

 現地時間14日、ワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝でフランスがクロアチアを4−2で破り、20年ぶり2回目の優勝を果たした。この試合をサッカー解説者の戸田和幸さんにデータスタジアム株式会社のデータを用いながら分析してもらった。


 また、大会中に解説者として現地を訪れた戸田さんに、今大会を総括してもらった。

フランスの「弱点」を突いたクロアチア

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション
プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション【データ提供:データスタジアム】

 フランスの20年ぶりとなる優勝でW杯ロシア大会は幕を閉じました。


 フランスは能力の高さに疑いの余地はないですが、年齢的には若く、国際大会での経験不足を指摘されていました。しかし、2戦目以降、スタメンとして出場してチームを変えたオリビエ・ジルー、ブレーズ・マテュイディといった選手の活躍もあり、大会を勝ち進む中でチームとして成長し、成熟を見せました。


 大きな大会に出るたびに、期待されながらも望む結果を手にすることができない時代が続いてきたものの、ようやく彼らの持つ能力と経験が実を結び、大きなインパクトを残しながら勝ち進んできたクロアチアとの対戦となった決勝戦。クロアチアに関しては決勝トーナメントに入ってからの3試合すべてで120分戦ってきたことによる体力面での消耗が心配されましたが、彼らはそんな心配も一瞬で吹き飛ばすかのような積極的な入りを見せ、フランスにプレッシャーをかけ続け主導権を握りました。


 まさに労を惜しまない献身的な働きを前線で見せながらも、ストライカーとしての能力の高さも申し分ないマリオ・マンジュキッチを1トップに置き、ドリブルが得意なイバン・ペリシッチが左、野心を隠さないアグレッシブさが特徴のアンテ・レビッチが右に構える攻撃陣は、それぞれの持つ異なった特徴が絡み合い、うまさ、速さ、そして嫌らしさを相手守備陣に与えました。


 クロアチアを象徴する両巨頭、ルカ・モドリッチとイバン・ラキティッチのインサイドハーフは、規律を守りながらも縦横無尽に動き回りゲームをコントロールし、マルセロ・ブロゾビッチがアンカーポジションに入ったことで両者共に所属クラブとほぼ同じポジションでのプレーが可能となり、逆三角形の中盤3人が状況に合わせて形を変えながらゲームメーク。しっかりとしたポゼッションプレーで敵陣へと入っていき、緩急と長短を織り交ぜたパスワークから両サイドバック(SB)の攻撃参加を作り出す。特に右のシメ・ブルサリコからのクロスボールは大きな武器となりました。


 素晴らしく強固な守備組織を持っているわけではないものの、前線と中盤の頑張りに加え、デヤン・ロブレンとドマゴイ・ビダのセンターバック(CB)コンビも大会を通じて高い集中力を保ったパフォーマンスを披露し、GKのダニエル・スバシッチの活躍も光りました。そしてフランスとの世界一を決める試合においても、クロアチアは堂々としたサッカーを見せました。


 攻撃時は4−3−3(グリーズマンは左スタートもフリーで動く)、守備時は4−4−2と2つのオーガナイズを使うフランスに対し、クロアチアは攻守共に4−3−3。攻撃時は右ウイングでプレーするも、守備時は4枚の中盤の右にキリアン・エムバペを置くフランスに対し、クロアチアはエムバペのいるフランスの右サイドから攻撃を仕掛けてきました。


 準決勝でフランスと対戦したベルギーも同様にエデン・アザールを左ウイングバック(WB)の位置に置き、エムバペとバンジャマン・パバールのサイドから侵入・突破を狙っていました。クロアチアも、4−4−2の形はとりつつも、右側の守備は左に比べると、ずっと強度が落ちるというフランスの「弱点」を突く形で序盤から攻め込んでいきました。

モドリッチとラキティッチが見せた守備のうまさ

ボールを奪ったエリアのシェア
ボールを奪ったエリアのシェア【データ提供:データスタジアム】

 また守備では1トップのマンジュキッチに対して、ラキティッチとモドリッチがインサイドハーフの位置から1列前まで出て、フランスのCBに対して積極的なプレッシングを実行していました。クラブレベルで言うと、例えばジョゼップ・グアルディオラのマンチェスター・シティも、ダビド・シルバとケビン・デ・ブライネの両インサイドハーフが一列前まで出て4−4−2の形となり、積極的にプレッシングを行います。この守備で相手のビルドアップを効果的に止めることができるのですが、前に出ていくときの「タイミング」と「角度」がとても難しく、また重要な動きとなります。


 この中盤を厚くしてスペースを消したところから奪いにいく4−3−3からの4−4−2(4−2−4)という守備での「ズラし」については、1トップの選手がむやみやたらに追いかけてしまうと、2列目から前に出ていくポイントが作れず、逆に相手アンカーポジションの選手へのパスコースを作ってしまうことにもつながります。


 ポイントは、CBからCBへの横パスを出させたタイミングで、パスを受けることになるCB側のインサイドハーフが一列前に出る。もしくは片方のCBにトップの選手があらかじめ付いておき、空いているもう1人のCBに対して同サイドのインサイドハーフが1列前まで出ていくことで瞬間的に同数の状況を作り、中盤のスペースを消していた守備からボールを奪いにいく守備のフェーズへと移行していくことになります。


 加えてインサイドハーフの選手が1列前まで出ていく時にセットで行わなくてはならないのが「アンカーポジションへのパスコースを消す」ということですが、これが実はなかなか難しい。どこからどこに向かって走ると、アンカーへのパスコースも消しながらCBに対して効果的なアプローチを行うことができるのか。自分の「背中」の状況が分かっていないと効果的なアプローチとはなりませんが、クロアチアのモドリッチとラキティッチはこの守備が抜群にうまい。


 さらに、アンカーポジションの選手は、片方のインサイドハーフの動きに合わせて次にボールが出てくる場所もイメージしながら、前のスペースを埋める動きが必要となります。縦パスは通させない立ち方を見せ、いざバックパスや横パスが入ると、すかさず絶妙のポジショニングから前・斜め方向へのアプローチで相手のビルドアッププレーを見事に止めてしまう彼らの守備は、決勝戦でもよく機能していました。


 見た目の強さや速さではなく、自らの立つ位置によって相手チームの攻撃の選択肢を少しずつ削っていき、いざアプローチをしたときには見事なスイッチとなり、後ろの選手たちに「ボールの奪いどころ」を提示する、もしくは自らがボールを奪う。そして彼ら2人の素晴らしいところは、前方向だけでなく自陣に戻る守備も一貫して高いレベルで実践し、カバーリングまでこなしてしまうところにあります。

クロアチアの2人はインテリジェンスの塊

ラキティッチ(右)らが見せる守備を、戸田さんはインテリジェンスの塊そのものと評す
ラキティッチ(右)らが見せる守備を、戸田さんはインテリジェンスの塊そのものと評す【Getty Images】

 ラキティッチとモドリッチがそれぞれバルセロナとレアル・マドリーで見せている働きぶりを見れば、攻撃だけではなく守備にまで言及する意味がよく理解できると思います。当たり前にできることの種類が多く、またそのレベルがあまりに高い。フットボールインテリジェンスの塊と言える選手たちです。


 今回のW杯では地上波での解説を預かることとなり、計7試合の中継を担当しました。W杯は4年に1度しか開催されない、世界一を目指して国を代表して戦う大会です。本来であれば、世界トップの選手たちが見せてくれるこういった守備の素晴らしさについても余すことなく言及し、サッカーの持つ奥深さや守備の面白さを伝えていかなくてはならないのですが、やはりそこまですることは難しかったです。


 サッカー選手がどれだけ「目と頭と口」を使いながらピッチの上で限界まで走り抜いているのかを伝える義務が自分にはあると、常日ごろから伝える仕事に取り組んできてはいるものの、現実はまだまだ力及ばず。サッカーというスポーツには「個人」「グループ」「チーム」というくくりごとに語らなくてはならないことがたくさんあり、チームがあってこその個々人のパフォーマンスなのだということを、どれだけ丁寧にかみ砕いて伝えていくことができるのか。


「分かりやすさ」の定義が非常に曖昧な現在のサッカー中継、世界最高には世界最高の理由があり、それをできる限り伝えていく義務があると、この美しいスポーツを伝えていく責任と義務を与えられた者として、あらためて強く感じさせられたW杯となりました。


 モドリッチやラキティッチがなぜそこまで素晴らしい選手だと評価されているのか。その理由をできる限り正しく伝えていかなくてはならないですし、攻撃だけでなく、彼らが見せる守備はまさにインテリジェンスの塊そのものです。正しい位置取りからの適切なタイミングと角度でのランニング。このすべてがそろって初めて相手チームの持つ選択肢をいくつか「消す」ことができます。そういった1つ前への動きが、どれだけ相手の攻撃を窮屈にさせているのか。こういった一見なんでもないような、説明しないと分からない守備についても、今後はさらに責任を持って伝えていかなくてはならないと感じています。

スポーツナビ

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