W杯ロシア大会、新ルールの効果を考える 賛否両論のVARとフェアプレーポイント

元川悦子

W杯ロシア大会ではVARをはじめとする3つの新ルールが適用され、順位決定にあたってはFPPが導入された 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会は7月14日(現地時間、以下同)の3位決定戦・ベルギー対イングランド、15日のファイナル・フランス対クロアチアの2試合を残すのみとなった。1カ月間の激闘が繰り広げられてきた今大会では、ご存知のとおり、以下の3つの新ルールが適用され、試合展開や結果に影響を及ぼすケースがいくつか散見された。

(1)ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の導入
(2)延長戦で4人目の交代が認められる
(3)テクニカルエリア内で電子機器が使用可能に

 グループリーグの順位決定にあたって、フェアプレーポイント(FPP)が導入されたことも1つの変更点だ。イエローカードが−1点、警告2回によるレッドカードが−3点、一発退場が−4点、警告を受けた受けた上での一発退場が−5点……と定められ、勝ち点、得失点差、総得点、当該対戦成績が並んだ場合に適用される。この恩恵を受けてベスト16進出を果たした日本が最初の適用例となり、少なからず物議を醸すことになった。

最も大きなインパクトを残したVAR

VARは得点、PK、レッドカード、警告などの選手間違いの4項目に適用される 【Getty Images】

 上記4つの新たなルールの中で、最もインパクトが大きかったのがVARだろう。このシステムは、映像をチェックする補助審判が主審に助言するもの。適用は得点、PK、レッドカード、警告などの選手間違いの4項目に関わる事項で「明らかな誤り」に限って判定される。

 すでにブンデスリーガなど複数リーグで採用されているが、W杯では初。競技規則を定める国際サッカー評議会が、過去2年間にVARが導入された972試合を分析したところ、正しい判定比率は93%から98.8%まで上昇したというデータもあるだけに、FIFA(国際サッカー連盟)も自信を持って導入に踏み切ったと見られる。

 12日に記者会見を行ったFIFAテクニカルスタディグループ(TSG)の元ブラジル代表監督、カルロス・アルベルト・パレイラ氏は「1974年の西ドイツ大会、決勝の西ドイツ対オランダ戦のPK(開始早々にヨハン・クライフがドリブル突破から奪取したPKによるオランダの先制点)はファウルを受けたのがペナルティー(PA)エリア外だった。VARがあればそういうミスは起きない」と語っていた。

 上記のような場面、あるいは86年メキシコ大会でのディエゴ・マラドーナの「神の手ゴール」のような、目に見える誤審が減るのは確かだろう。

 ウルグアイのラジオ局「カデナ・セレステ」のハビエル・デレオン記者も「これだけ映像技術が進むと、ゴールシーンやクロスプレーのリプレーが繰り返し流され、何が正しい判定なのか、瞬時に世界中の数10億人に伝わってしまいます。主審が肉眼で一瞬にして全てを正確に見極めるのは不可能。VAR導入によって、1つ1つのシーンをより明確に把握し、正しい判断を下せるのは良いことだと思う」と前向きに話していた。それは、大半のメディアやサッカー関係者に共通する見解と言っていい。

使用基準は定められておらず、曖昧になる場面も

ラウンド16ではC・サンチェスがPKを与えられた場面でVARが使用されず、コロンビア国内で大きな問題になった 【Getty Images】

 ただ、今大会を通してみると、VARが使われた場面とそうではない場面にばらつきがあったのも事実だ。

 インドの日刊紙『Deccan Chronicle』のT・N・ラグ記者も「グループリーグのドイツ対スウェーデン戦で、前半13分にスウェーデンFWマルクス・ベリがPAエリア内で倒されたシーンが、ドイツDFジェローム・ボアテングのファウルではないかという疑惑がありました。スウェーデンベンチはPKを主張したものの、主審はVARを使わなかった。少しでも疑わしい状況であれば、VARを活用すべきなのに、あえてそれをしなかった。その主審の行動には違和感が残ります」と指摘していた。

 こういった例は枚挙にいとまがない。特に顕著だったのが、ラウンド16のコロンビア対イングランド戦だ。後半9分にコロンビアのカルロス・サンチェスがペナルティーエリア内でFWハリー・ケインを倒し、PKが与えられたものの、VARは使用されなかった。このシーンの映像を見返すと、ケインの方がファウルを犯しているようにも映る。試合後には、コロンビアのホセ・ペケルマン監督も「あの判定は考えられないし、到底納得できない」と発言したほか、マラドーナ氏などサッカー界の要人からも批判の声が出ている。コロンビア国内では、試合のやり直しを求める署名活動が盛んに行われるほどの大きな問題に発展した。

「『サッカーは人間のやるスポーツだ』とイランを指揮するカルロス・ケイロス監督も話していた通り、サッカーに多様な見方や判断があるのは理解しています。ただ、VARを導入した以上、使ったり使わなかったりという基準が曖昧ではいけない。主審の主観で全てが決まる今の体制は、改善の余地があります。『ペナルティーエリア内の微妙なプレーは全てVARで確認する』というように統一性を持たせていく必要があるでしょう。何らかの改善策を講じないと、今回のコロンビア対イングランド戦のようなことは今後も起こり得る。私はそう危惧(きぐ)しています」とブラジルの日刊紙『Metro』のフェルナンド・バレイカ記者は警鐘を鳴らしていた。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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