スペインの“ティキタカ”は自己満足か? 今の代表に必要なチャンスとゴール

敗退後も、国内ではW杯に関する報道が……

敗退後も、スペインではW杯をめぐるネガティブな報道が度々話題になっている 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会、スペインは7月1日、PK戦の末にロシアに敗れてラウンド16で姿を消した。その後も、スペイン代表のW杯をめぐる報道、それも多くはネガティブな例が、度々話題に上がっている。

 その原因は、初戦の2日前という前代未聞のタイミングで生じた衝撃的な監督解任劇だけではない。今大会の傾向の1つである、軒並み結果を出せなかったポゼッションスタイルの代表例であることも一因だろう。

 スペイン代表は何年も前から戦術的な問題を抱えてきた。W杯史上最多となる1100本以上もパスをつなぎ、ほぼ完全にボールを支配しながら、ロシアの堅守を破れず、ベスト16止まりに終わった原因も同じだった。もはや慢性化して久しいその問題とは、高いボール支配率がゴール数に反映されないことだ。これはストライカーを1人しか起用しないMF過多のシステムに起因している。

 4−5−1をベースに戦った今大会のスペインは、相手ゴールへ向かう縦へのプレーが乏しかった。試合を通してボールを支配下に置き続け、ライバルにカウンターを仕掛けるチャンスを何度も与えなかったことは事実だ。だが、いくらボールを独占し続けたところで、その優越性をスコアに反映させることができなければ、守備を固めながらカウンター一発を狙ってくるライバルに勝ち点1、時に勝ち点3を奪われる危険性は常に存在する。

 もちろんボールポゼッションが無意味だと言っているわけではない。だがチャンスを作り出す生産性、そのチャンスをできる限り多くのゴールにつなげる効率性を伴ってこそ、ボールポゼッションは意味を持つのである。

 本大会の招集メンバーを選んだフレン・ロペテギ前監督は、23人のリストの中にセンターFWタイプのストライカーを3人しか含めなかった。そのうちジエゴ・コスタとロドリゴの2人はブラジル人の血を引く選手であり、純粋なスペイン人はイアゴ・アスパスしかいなかった。

ストライカーを1人しか起用せず、MF過多のシステムに

全7ゴールのうち4ゴールをストライカーが決めていることからも、その存在の重要性は一目瞭然だ 【Getty Images】

 そして本大会でチームを率いたフェルナンド・イエロは、そのうちの1人だけしか先発に起用しなかった。それがゴールを奪い合うというフットボール本来の目的に反した行為であることは、全7ゴールのうち4ゴールをストライカーが決めた(コスタが3ゴール、アスパスが1ゴール)という事実があらためて証明したと言える。

 そもそも「ゴール」は「目的、目標」を意味する言葉である。そしてフットボールにおける「ゴール」とは、ボールポゼッションで上回ることでも、自陣のゴールを守り抜くことでもなく、敵陣のゴール内にボールを運んだ回数で上回ることにある。

 だが今大会のスペインはダビド・シルバ、アンドレス・イニエスタ、イスコという3人のメディアプンタ(トップ下の意)と、オーガナイザー役のMF(チアゴ・アルカンタラ、コケ)、攻守のバランスを取るセルヒオ・ブスケツを中盤に並べる一方で、前線にはストライカーを1人しか起用しなかった。他にフィニッシュの場面で高い決定力を発揮できる選手がいなければ、当然ながら、効率よくゴールを奪うことは難しくなる。

 しかもベンチにはマルコ・アセンシオ、ルーカス・バスケスら成長著しい若手を含め、中盤のチャンスメーカーが溢れる傍ら、フィニッシュのスペシャリストと言える選手はアスパスしかいなかった。

 前線に居続けるのではなく、前線に生じたスペースに2列目から飛び出していく形の方がマークされにくいという攻撃のコンセプトは、それがオプションの1つである限り有効である。ただ、それが唯一の形となってしまえば話は別だ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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