治安問題はほぼ皆無、報道陣からも好評 W杯開催がロシアに大きな遺産を残す
欧州のサポーターが少ない印象の今大会
今大会は欧州のサポーターがかなり少ない印象を受ける 【Getty Images】
ここまで11都市・12会場で62試合が行われてきた今大会は、全体を通して大きなトラブルもなく、順調に過ぎている。しかし、開幕前はロシアの治安や安全面が大いに懸念されていた。
「2年前の16年のユーロ(欧州選手権/フランス)では、イングランド対ロシアが行われたマルセイユのスタジアムで両国サポーターが衝突し、35人が負傷する痛ましい事件が起きました。一方、ロシア対スロバキアが行われたリールでも、ロシアの過激なサポーターがイングランドとウェールズのファンを挑発し、小競り合いに発展するケースがありました。
こうした出来事が西ヨーロッパの人々にはネガティブに映り、『ロシアのサポーターは怖い』『過激派が動いている』『いつテロが起きるか分からない』というイメージが色濃く残りました。加えて、プーチン政権に対する批判的見方も依然として根強い。こうした理由から、今回、現地に出向く人が極端に減ったんです」とベルギーのウェブサイト『Voetbalkrant.com』のフロレント・マリス記者は指摘する。
確かに今大会、観客席を見てみると、欧州のサポーターがかなり少ない印象を受ける。1990年のイタリア大会以来のベスト4進出を果たしたイングランドのファンも、11日の準決勝・クロアチア戦に1万〜1万5000人程度が訪れただけだという。約7万8000人収容のルジニキでは、サポーターは「ゴール裏の一角を占めている」というイメージで、スタンドの過半数を席巻した過去のW杯やユーロに比べると、やや勢いや迫力が足りないように感じられた。
「自国の代表が快進撃を見せ始めるのに伴い、サポーターが大会途中から現地に赴こうとする動きがこれまでのW杯では多かった。しかし、今回はチケットを持っていないとビザ代わりの『ファンID』を取得できないため、急に思い立って動くことが不可能でした。W杯は世界中の人が集まる巨大な祭り。だからこそ、チケットを持つ持たないにかかわらず、もっと人々の往来が自由になれば良かった。ロシアの組織委員会にはそう仕向けてほしかったです」とブラジルの日刊紙『Metro』のフェルナンド・バレイカ記者も残念がっていた。
結果的に大会を主に盛り上げたのは、チケットを購入して南米やアジアからやってきた人々と地元・ロシア人。欧州で開催されているW杯としては一種、独特な雰囲気が漂っていたのは事実だろう。
セキュリティー体制の徹底で治安問題はほぼ皆無
ロシア国内のセキュリティー体制が徹底され、大きな問題は起きていない 【写真:ロイター/アフロ】
同国では目下、空港、鉄道やメトロの駅などにX線検査機が設置されていて、爆発物など危険な事態を引き起こす可能性のあるものは全て排除される仕組みになっている。スタジアムの入場ゲートも同様で、事細かいチェックが連日、行われていた。
メディアの場合はX線検査機に荷物を通すだけではダメで、係官がパソコンや携帯電話、カメラなどの電子機器を1つ1つ出させて確認し、電波を発するものは持ち込ませないという厳しい警戒体制をとっていた。スーツケースに入っている衣類や下着など、身の回りの品々まで調べられ、「怒り心頭に発した」と話した報道関係者がいたほど、セキュリティーチェックは極めて厳しかった。
その成果もあって、スタジアム内で発煙筒が焚かれたり、異物が投げ込まれるような例は今のところ起きていない。ファンやメディア関係者が深刻な事件や事故に巻き込まれたケースも少ないようだ。