戸田和幸が感じたフランスの思いの強さ ベルギー相手に、勝利に必要なことを徹底

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ベルギーは攻撃があって守備がついてくるチーム

ブラジルを破って4強まで勝ち進んできたベルギーは、この試合でもフランスをかく乱しようと試みたが…… 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 決勝進出を懸けたベルギーとの試合を振り返ってみると、この試合でもフランスは非常に「効果的」で「勝つために必要なこと」を徹底して行ったと思いました。ブラジルを破って32年ぶりの4強まで勝ち進んできたベルギーは、この試合でもそれまでの試合とは違うものを用意し、フランスをかく乱しようと試みます。

 守備時は4バック、攻撃時は後ろを3枚にしてウイングバックを置き、フランスの一番薄いところから攻め込んでいくため、左ウイングバックの位置にエデン・アザールを配置しました。フランスのオーガナイズは基本4−3−3、中盤センターにはポグバ、カンテ、そしてマテュイディといった世界最高レベルのエキスパートが待ち構えているので、シャドーの位置で仕掛けることは効果的ではないと、ロベルト・マルティネス監督は考えたのではないでしょうか。

 パバールとのマッチアップであれば、確実に優位性は保てるという狙いを感じたアザールの左ワイドからのプレー、マルティネス監督の狙い通り、序盤はやはり彼のところからフランス陣内に切り込んでいく形が多く見られました。

 またこの試合では、ケビン・デブライネが右のシャドーポジションからのスタートとなりました。ゴールへの道筋を見つける優れた目と頭を持ち、ポジショニング・オフザボールのランニング、そして一振りでゴールへ直結するアシストのパスにおいて、とてつもない才能を見せるこのアーティストのパフォーマンスにも注目してみることとなりました。

クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 この試合での両チームの「かみ合わせ」で考えてみると、ベルギーが攻撃する場合、フランスの両サイドにやや広めのスペースがあるため、先述の通り左はアザール、右はナセル・シャドリがフリーになりがちな前半となりました。

 エムバペは基本的に攻め残りをするため、グリーズマンが時折守備に参加するものの、基本的には4バックと左からマテュイディ・カンテ・ポグバで中盤を形成したフランス。ただし、やはりベルギーの個の力とカウンターを警戒したのでしょう、3ラインは常にコンパクトな陣形を維持し、背後のスペースも消した状態で前線の3人もハーフラインより後ろに構えるという「守備的」なスタンスで試合に入っていました。

 お互いに殺傷能力の高い武器を持つチーム同士の戦いになりましたが、フランスは守備から入り、より攻撃のマインドが強くウイングバックを置いて攻撃を行うベルギーがボールを持ち、ゴールを目指すといった図式の試合展開になりました。試合終了後のスタッツを見ても、ボール支配率はベルギーが60%、パス総数もベルギーの605本に対し、フランスは328本とかなりの違いが出ています。

 それぞれが持つプレーモデルの違いといえばそれまでですが、やはりベルギーは攻撃があって守備がついてくるチームです。あらためて振り返っても、よくブラジル戦はあの戦い方を選手たちが納得して実践できたなと思いました。

非常に高かった両GKのパフォーマンス

ボールを奪ったエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 持って攻めるベルギーと待ち構えてカウンターを狙うフランスというお互いの考え方が明確になった前半ですが、待ち構えるフランスは13分に魅せます。アタッキングサードまで入ったベルギーでしたが、シャドリからデブライネへのパスがずれ、フランスのカウンターが発動します。

 自陣右まで戻り、相手のパスをカットしたカンテからグリーズマン、そしてポグバへとパスがつながると、軽やかなステップでムサ・デンベレをかわし、その瞬間を逃さずバンサン・コンパニとヤン・ベルトンゲンの「間」にものすごいスピードで割って入ってきたエムバペにロングスルーパス。

 わずかにパスが長くなってしまったため、前へ出たティボー・クルトワに防がれてしまいましたが、フランスが狙っていたであろう1本のパスで最終ラインを打ち破るカウンターが、ベルギー守備陣を打ち破る寸前までいった場面でした。

 一方のベルギーも、やはり両サイドのアザールとシャドリがフリーでボールを持てる時間が多く、また守備でも積極的なプレスを見せていました。前半15分、この試合ポグバにマンマークでついたマルアヌ・フェライニの執ような守備を自陣ボックス近くで受けたポグバがバックパスを選択。ロリスに蹴らせたボールをデンベレが競り勝つと、こぼれ球をデブライネが1タッチでアザールへとつなぎ、強烈な左足シュートを打ちますが枠を外れます。

 また前半19分には、コンパニからの速いサイドチェンジを受けたシャドリが、まだ役割の整理ができておらず、戻りながらの対応となったマテュイディを縦にかわしてクロス。流れたボールを拾ったアザールがパバールをカットインでかわして強烈な右足ミドルを打ち、わずかにバーを越えた場面もありました。

 そして、前半22分には決定機。コーナーキックのこぼれ球をトビー・アルデルワイレルトが反転しての左足シュート。見事な身のこなしからのシュートでしたが、ロリスがビッグセーブを見せました。さらに前半28分には、敵陣でエムバペを囲みボールを奪うと、アザールがドリブルから左サイドに流れてきたデブライネへパス。デブライネは縦に持ち出して、触れば決まるという鋭いクロスを入れましたが合わず、と惜しい場面が続いたベルギーは、この時間で1点が欲しかった。

ロリス、クルトワの両GKのパフォーマンスが非常に高く、それが試合の緊迫感を高めていた 【写真:ロイター/アフロ】

 フランスの守備は、中央は非常に狭く堅いものの、どうしても両サイドで後手を踏み、やや押され気味な展開が続きました。そこでデシャン監督が打った手は、左MFのマテュイディを左サイドバックのエルナンデスの外側に移動し、攻め上がってくるシャドリをマークさせるというものでした。

 4−3−3の左MFとして中盤にポジションをとりながら、高い位置をとってくるシャドリに対して「斜め後ろ」に走って対応したマテュイディですが、彼の守備時のスタートポジションを修正し、守備から改善して攻撃につなげていくというデシャン監督の判断は、確実に試合の流れを変えたと思います。

 前半34分、シャドリに対して「斜め前」にアプローチできるポジションをマテュイディが取ります。アルデルワイレルトからシャドリにパスが出ますが、マテュイディは守備時のスタートポジションを変更したので、シャドリにボールが渡った時には「斜め前」方向にアプローチすることができました。マテュイディに寄せられたシャドリは横にサポートに入っていたアクセル・ビツェルにパスをしたところを、カンテが奪ってカウンター。最終的にはグリーズマンからのミドルパスをエムバペが1タッチで折り返し、ジルーがシュートもふかすという決定機に近い場面にまで持ち込むきっかけとなりました。

 前半40分にはサイドにふたをされ、やや攻めあぐねたベルギーのデンベレからの中央ゾーンへのパスをまたしてもカンテがカット。ここからの攻撃でエムバペから内側をオーバーラップしたパバールにスルーボールが通り決定的な場面を迎えますが、シュートはクルトワが右足で止めてチームを救いました。この試合はロリス、クルトワの両GKのパフォーマンスが非常に高く、それが緊迫感を高めてくれました。

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