戸田和幸が感じたフランスの思いの強さ ベルギー相手に、勝利に必要なことを徹底
決勝に進んだフランス代表は大会を勝ち進む中でチームとして成長し、成熟してきた 【写真:ロイター/アフロ】
デシャンが乗り移ったかのような戦いを見せたフランス
既にワールドクラスの選手ではありましたが、この大会での活躍・優勝を機に世界ナンバー1プレーヤーとして長く君臨することとなるジダンを、守備的MFとしてクラブ・代表共に支えたデシャン。決して大きくはないですが鍛え抜かれたたくましい肉体と、的確なポジショニングからのハードな守備、決して自分を主張することのない堅実で正確な配球でユベントスとフランス代表で一時代を築き上げ、間違っても派手なことはせず、目の前の試合を勝つために必要なことをまさに身を粉にして徹底して実践できる選手――それが、現フランス代表監督のデシャンでした。
そんなデシャン自身が乗り移ったかのような戦いを見せ、見事に20年ぶりの決勝戦にたどり着いたフランス代表は、大会を勝ち進む中でチームとして成長し、成熟してきました。
オーストラリアとの初戦では3トップを採用し、ウスマン・デンベレ、アントワーヌ・グリーズマン、キリアン・エムバペという夢のある3トップで臨むも、機能するところまではいかず。2戦目からはデンベレに代わってオリビエ・ジルー、コランタン・トリソに代わり、ブレーズ・マテュイディが先発出場しました。すると、チームに必要だった「バランス」「オフザボールの動き」「献身性」がもたらされ、難敵ペルーをエムバペのゴールで危なげなく撃破。
既にグループリーグ突破を決めた状態で臨んだ3戦目は、6人メンバーを入れ替えつつ、デンマークと手堅くスコアレスドロー。見事にグループを首位で通過することに成功しました。GKのウーゴ・ロリス、センターバックのウムティティとラファエル・バラン、中盤センターのエンゴロ・カンテ、ポール・ポグバ、マテュイディ、そして最前線のジルー。
センターラインに立つ選手たちは皆、欧州のビッグクラブに所属し、ジルーを除けば全員レギュラーとして活躍している選手です。チャンピオンズリーグの経験も豊富、前回のブラジル大会ではベスト8でドイツに、ユーロ(欧州選手権)2016では決勝で惜しくもポルトガルに敗れはしましたが、個々人としても代表チームとしても着実に実績と経験を積み上げてきたのがフランスでした。
両サイドバックにはバンジャマン・パバール、リュカ・エルナンデスという共に22歳の若手を抜てき。大会を勝ち進みながら着実に成長しているこの2人の奮闘も最終ラインの安定に大きく貢献しています。
そしてエムバペ。
既にその名は広く知られていた選手ではありましたが、特にアルゼンチン戦での活躍がセンセーショナルだったこともあり「再ブレーク」を果たしました。
ジルーとマテュイディが加わって「埋まった」何か
フランスはジルー(左)とマテュイディ(右)が加わって、明らかに「埋まった」何かがあった 【写真:ロイター/アフロ】
また、この選手のもう1つの大きな特徴は「知性」です。フットボールインテリジェンスが非常に高く、ポジショニングが驚くほど巧みです。いついかなるプレー選択を行えば、チームにとってより良い影響を与えることができるか考えられる頭を持ち、「判断力」にも飛び抜けたものを持つ、19歳とは全く思えない完成度の高い選手でもあります。
今大会のフランスは、試合を戦うごとに「チーム」になってきました。このエムバペのようなスーパータレントが一番能力を発揮できる形でプレーさせようと、本来のプレースタイルとは若干違う役回りを受け入れ、巧みなチャンスメークや貴重なゴールを生み出すプレースキックで大きな貢献を見せているグリーズマンの存在も見逃してはいけません。
選手がいなくてはチームが存在することはありませんが、チームがなければ個が輝くことは難しいということは、今大会でのアルゼンチン代表を思い出してもらえば分かるのではないかと思います。各ポジションにインターナショナルレベルの選手を、そして守備陣にはワールドクラスをそろえ、なおかつエムバペのような将来のスーパースター候補もいるフランス。初戦ではうまく協調することができずに低調な内容に終わりましたが、ジルーとマテュイディというボールを「持たず」してチームに大きく貢献することができる(もちろんボールを持っても貢献しています)選手が入って、今のフランス代表が生まれました。
デシャン監督がどのくらいのものを期待してオーストラリア戦に先に記した3人を選んだのか分かりませんが、ジルーとマテュイディが加わって、明らかに「埋まった」何かがありました。
プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション 【データ提供:データスタジアム】
やはり11人で構成されるのがサッカー。選手の持つプロファイルには多種多様なものがあり、別の言い方をすればバランスが求められます。そういう視点で見て、デシャン監督は初戦を戦った中でひとつの「区切り」を付けたのだと感じましたし、以降のフランスの戦いぶりには大きな「納得感」と「説得力」を感じています。