準決勝を前に、決勝のカードを考えてみる 日々是世界杯2018(7月9日)

宇都宮徹壱

またしても「予想外のトラブル」。その理由は……

エルミタージュの周辺は、深夜になっても観光客で溢れていた。23時でも空はこの明るさ 【宇都宮徹壱】

 ワールドカップ(W杯)開催26日目。日本を発って1カ月以上が過ぎたが、その間に日本ではさまざまな事件や災害があったようだ。とりわけ先週から続く西日本の大雨で、100名を超える犠牲者が出ていることについては、個人的にも強い衝撃を受けるとともに心を痛めている。日本代表の戦いが終わったこともあり、多くの国民にとってもはやW杯は「過去の出来事」へと速やかに移行していることだろう。それでも私としては、これ以上に被害が拡大しないことを遠くロシアの空の下で願いつつ、残り少なくなったW杯の模様を引き続き現地からレポートすることとしたい。

 さて、前日の7月8日と9日は、準決勝を前にして2日間のノーマッチデーとなった。本当は前日にサンクトペテルブルクに入る予定だったのだが、予想外のトラブルに見舞われて到着が1日遅れてしまい、ようやく現地のホテルにチェックインした時には22時を回っていた。とはいえ、この時期のサンクトペテルブルクは白夜の季節。明るい夜空の下のエルミタージュ美術館を眺めていると、何とも言えぬ神秘的な気分に浸ることができる。地元の人々や当地を訪れている観光客もまた、深夜とは思えぬくらい実にアクティブだ。

 ここで私の「予想外のトラブル」について、恥を忍んで告白しておこう。要するに、飛行機に乗り遅れたのである。とはいえ今回は、3時間前に空港に到着して、きちんとチェックインまで済ませていたのだ。にもかかわらず、ボーディングを待つ間にウトウトしてしまい、気が付いたら私の乗る予定だった便はすでに飛び立ってしまった。ただ幸いにも、預け荷物はサンクトペテルブルクには運ばれず、そのままカザンの空港に残っていた。現地の事情に詳しい友人によれば「チェックインした乗客が搭乗しなければ、テロの疑いがあるので荷物は離陸前に降ろされる」のだそうだ。つまり私は、危うくテロの疑いをかけられるところだったのである。

 こんな失敗談を打ち明ける気になったのも、空港でぼう然としていた私を助けてくれたのが、今大会のボランティアスタッフであったからだ。しかも偶然にも、日本語ができるスタッフが常駐していたので、彼女のおかげで翌日の夜に出るサンクトペテルブルクの便を予約することができた。思えば大会期間中は、ホテルにたどり着けない、タクシーがつかまらない、自販機の使い方がよく分からない、などの細かいトラブルが毎日のように発生した。しかしそのたびに、近くにいたロシア人が親切に助け舟を出してくれたのである。そうしたロシア人のホスピタリティについては、いずれ稿をあらためて論じることにしたい。

W杯優勝の「経験国」と「未経験国」

エルミタージュで出会ったベルギー人の夫婦。「ここまで来れただけでも幸せ」と笑顔で語る 【宇都宮徹壱】

 今回は、間もなく始まる準決勝について考察したい。10日はサンクトペテルブルクにてフランス対ベルギー、そして11日にはモスクワでクロアチア対イングランドというカードが予定されている。今さらプレビュー記事を書いても仕方がないので、ここはひとつ先を読んで、「決勝はどの顔合わせが面白そうか」について考えてみることにしよう。今回のセミファイナルは、「W杯優勝経験」という観点で見ると、いずれも「経験国対未経験国」という顔合わせとなった。ということは、決勝は「経験国対未経験国」となる可能性が50%で、「経験国同士」と「未経験国同士」がそれぞれ25%ということになる。

 まずは「経験国対未経験国」のケースから考えてみよう。すなわち、フランス対クロアチア、あるいはベルギー対イングランドというカードである。前者は、W杯では98年のフランス大会準決勝以来の対戦(2ー1でフランスが勝利)、後者は今大会のグループステージでの再戦となる(この時は1−0でベルギーが勝利)。決勝が「経験国対未経験国」となるのは、20年前のフランス大会以来のことで、開催国のフランスがブラジルに3−0で勝利した。どちらのファンでもないやじ馬としては、やはり未経験国に肩入れしたくなるところ。その場合は、無条件でベルギーかクロアチアを応援することになるだろう。

 続いて「経験国同士」の対戦。フランス対イングランドがこれに該当する。このケースは、前回大会のドイツ対アルゼンチンをはじめ、06年のイタリア対フランス、02年のブラジル対ドイツなど、これまでにも数多くの名勝負が行われてきた。しかし周知のとおり、今大会はイタリアが予選敗退となり、ドイツもブラジルもアルゼンチンも準決勝にたどり着くことなく、ロシアを後にしている。フランスとイングランドによる、ドーバー海峡を挟んでの決勝が実現すれば、新鮮な顔合わせに話題が集まるはずだ。このカードであれば、自分が生まれた年(66年)以来の優勝となるイングランドを推したい。

 最後に「未経験国同士」、すなわちベルギー対クロアチアというカードが、ファイナルで実現した場合について考えてみよう。このケースは、最近では8年前のスペイン対オランダというカードで実現している。もっとも今回の場合、どちらも3位決定戦は経験しているものの、決勝進出そのものが初となる。過去の事例に当たってみると、W杯の黎明(れいめい)期である34年のイタリア大会(イタリア対チェコスロバキア)にまで、さかのぼることが分かった。このカードこそ実現してほしいと、個人的にはひそかに願っている。どちらを応援するかについては、その時に結論を出すとして、まずはセミファイナルの行方に注目したい。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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