戸田和幸がW杯準々決勝を徹底分析 ブラジルを惑わせたベルギーの「奇策」

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デブライネ(左)のゴールなどでベルギーがブラジルに勝利。この試合を戸田和幸さんはどう見たのか 【写真:ロイター/アフロ】

 現地時間6日、ワールドカップ(W杯)ロシア大会の準々決勝でブラジル代表とベルギー代表が対戦した。世界ランキング2位と3位(共に6月7日付)の激戦は、前半に2得点を奪った3位のベルギーが2−1で勝利。ベルギーは32年ぶりにベスト4進出を果たした。この試合をサッカー解説者の戸田和幸さんにデータスタジアム株式会社のデータを用いながら分析してもらった。

ゲームメーカーを欠いたブラジル

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション 【データ提供:データスタジアム】

 試合を見始めてすぐ、何とも言えない違和感に襲われた準々決勝ベルギーvs.ブラジル戦。ベルギーのロベルト・マルティネス監督が見せた「奇策」によって、ブラジルは完全にリズムを崩されました。後半に入るとまさに怒とうの攻撃を見せたものの、サッカー王国としては受け入れられないベスト8での敗退となりました。

 今大会のブラジルを総括すると、「もう1人のゲームメーカーの不在とネイマールの不調」に尽きると個人的には感じています。ブラジルの基本オーガナイズは4−3−3。全てのポジションにワールドクラスをそろえ、チッチ監督就任以降、まさに隙のない戦いを見せ続けてきました。しかし、敵なしと思われたブラジルに暗雲が立ち込めます。大黒柱ネイマールの長期負傷離脱と、シーズン最後に負ってしまったけがによるダニエウ・アウベスのW杯欠場です。

 特に右サイドバック(SB)のアウベス欠場は痛かった。なぜならブラジルのプレーモデルは左SBのマルセロと、欠場することになってしまったアウベスがいてこそ成立するものだったからです。マルセロとアウベスがこのチームにおけるゲームメーカー。これが、チッチ監督が就任して以降勝ち続けてきたセレソンのプレーモデルでした。

 ネイマール、ガブリエウ・ジェズス、フィリペ・コウチーニョ。この3人が前線に構え、中盤にはパウリーニョ、レナト・アウグスト、そしてカゼミーロ。テクニックレベルも十分なものを持ちつつ、前に後ろによく走るこの3人のMFがチームのエンジンとなり、ネイマールとコウチーニョがウイングとしてプレーすることで相手守備陣を開かせた瞬間に、パウリーニョとアウグストが2列目からゴール前に飛び込んでいく。

 中盤の強度という意味でも非常に頼りになるこの3人のMFが、相手の攻撃を抑え、広範囲に動きながらチームにダイナミックさを与えてきました。中盤にテクニシャンがいないブラジル。これが、チッチ監督が進めてきたセレソンの形でした。そして、それが成立したのは、両サイドに極上のテクニックと高いサッカー理解からくる判断力を持つマルセロとアウベスがいたからこそでした。

 サッカーにおける守備の考え方はさまざまですが、やはりピッチ中央を使われてしまうと前後左右全ての方向に展開することができるため、守備側は的を絞るのが難しくなります。ですから3ラインをコンパクトに保ち、中央エリアを使わせないようにしながら1つの方向へと誘導し、スモールフィールドを作って奪いにいくことを基本的にはどのチームも考えます。

 しかしブラジルにおいては、両SBにチームで一番上手な選手がいるのです。いくらスモールフィールドを作り、全体をスライドさせ圧縮した状態で奪いにいっても、彼らは何事もなかったかのように密集をすり抜け、フリーな選手にボールを渡し、もしくは自らワンツーなどを駆使して突破してしまう。両SBに世界でも突出した、桁違いにテクニックと判断レベルの高い選手がいる。これがブラジルの大きな強みでした。

「左サイド偏重」だったブラジルの攻撃

クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 そして、ネイマール。残念ながら、今大会はブラジルが誇るスーパースターの大会にはなりませんでした。やはり数カ月の負傷離脱は、ゴールに向かう一番重要な場面でのキレとしなやかさにかなりの影響を及ぼしたように感じました。

 この試合でも何度もアタッキングサードからベルギーゴールに向かって勝負したものの、ことごとくベルギー守備陣にストップされ、時に危険なカウンターへとつながるきっかけを与えてしまいました。プレー選択、判断についてもマルセロとコウチーニョとのパス交換にかなりの偏りを見せ、ペナルティーボックス手前に2列の壁を作った巨人たちの守備網にかかり続けることとなりました。

 この試合におけるブラジル代表チームのパスデータ見てみると、上位5番目までが全てこの3人の間で行われたものでした。マルセロからコウチーニョが23本で1位、その逆が20本で2位。次がコウチーニョからネイマールの18本で3位、その逆が16本で4位。そして5位がマルセロからネイマールで15本。

 対照的に、右SBのファグネルに関わるデータを見てみます。コウチーニョから1本、ネイマールから0本、同サイドで縦関係を構築するはずのウィリアンからも0本という数字が残っています。ちなみにファグネルが記録した32本のパスの内、一番多いものはセンターバック(CB)のチアゴ・シウバへのもので14本でした。ウィリアンへは4本パスを記録していますが、コウチーニョへは0本でネイマールへは1本。

 この極端に左サイドに偏ったブラジルの攻撃データが意味するものは何か。その答えは2つあると考えています。1つはファグネルの能力と役割によるもの。もう1つはベルギーの守備戦術によるものです。

 1つ目の理由については既に述べたアウベスの不在が大きく影響しているのは間違いないと思います。ファグネルも優秀なSBだとは思いますが、いなくなってしまった「世界一」の右SBと比較すると、どうしても見劣りするのは仕方がない。アウベスがいなくなり、ブラジルの攻撃が左サイドに大きく偏りを見せるようになったのは、この試合だけでなく大会前のテストマッチからずっと見られていた傾向です。

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