日本代表の帰国とベスト8の顔ぶれ 日々是世界杯2018(7月5日)

宇都宮徹壱

日本代表の帰国会見に思うこと

カザンの観光スポット、バウマン通りにて。大会マスコットのザビバカと記念撮影 【宇都宮徹壱】

 ワールドカップ(W杯)22日目。この日は前日に続いてノーマッチデーだったので、午前中はモスクワからカザンへの移動日に充てた。朝の5時にモスクワの宿をチェックアウトして、シェレメチボ空港から9時15分の飛行機に乗り、そして昼前にはカザンに到着した。移動日なのだから、もう少しゆったりしたスケジュールでも良かったのかもしれない。しかし私は、ここカザンで日本が準々決勝を戦うことを信じ、前日会見に間に合うように、こうしたスケジュールを組んでいたのである。

 残念ながらわれらが代表は、今大会でのベースキャンプでもあったカザンを引き払い、日本へ帰国することと相成った。ちょうど私が当地に到着するタイミングで、成田空港での帰国会見が行われていたようだ。登壇したのは、JFA(日本サッカー協会)の田嶋幸三会長、西野朗監督、そして長谷部誠主将。それぞれの会見でのコメントから、個人的に感じたことを記すことにしたい。まずは代表引退を発表した長谷部から。

「代表だけでなく、Jリーグや海外でプレーする選手、女子などいろいろなカテゴリーがありますけれど、日本サッカー界全体に関心を持っていただき、時に温かく、時に厳しいサポートをお願いしたいと思います」

 8年間にわたるキャプテンの重責から解放されても、今後の日本サッカー界のことを思う気持ちに、この人らしさを感じた。少し気の早い話ではあるが10年後には、JFAの要職で活躍しているような気もする。続いて、退任が決まった西野監督。

「ロストフでのベルギー戦が終わった後に、倒れ込んだ後の背中に感じた芝生の感触、空の色、それを忘れるな。選手たちが座った居心地の悪いベンチの感触を忘れるな」

 と、選手たちに伝えたそうだ。こうした詩的な表現が監督の口から出たのは、ちょっと意外。確かに、あの試合での感触を選手たちには忘れないでほしいところだ。とはいえ今回のメンバーの多くは、4年後にW杯のピッチに立つことはないだろう。そうして考えると、やはり若い選手にもチャンスを与えてほしかった、とも思う。最後に、田嶋会長。

「また『日本代表なんか嫌いだ』と、応援しないと言った皆さんが関心を持ってくださり、そういった方々にも感謝しなければいけないと思っています」

 ファンとの認識のズレを感じさせる、実に残念なコメントと言わざるを得ない。日本代表を「嫌い」になったのではなく、応援したくてもしづらくなったファンが一定数いたということなのだ。なぜそうなってしまったのか、ご自身に自覚はないのだろうか。

ベスト8の顔ぶれから4強を予想する

ベルギーとの準々決勝を翌日に控え、大いに盛り上がるブラジルのサポーターたち 【宇都宮徹壱】

 夜、カザンの観光スポットの1つであるバウマン通りを歩く。前回、ここを訪れた時は、アルゼンチンとフランスのサポーターで賑わっていたが、今回はブラジルのサポーターが席巻。あちこちのカフェで陽気にチャントを披露し、地元の人々の格好の撮影対象となっていた。翌日の対戦相手である、ベルギーのサポーターは現時点では少数派。ここに日本のサポーターがたどり着いていたなら、どんなに愉快なことだっただろう。失ったものの大きさを、あらためてかみ締めている。

 さて、6日から始まる準々決勝の顔ぶれを俯瞰しておこう。対戦カードは、ウルグアイ対フランス、ブラジル対ベルギー、ロシア対クロアチア、スウェーデン対イングランドとなった。ヨーロッパが6チーム、そして南米が2チーム。北中米カリブ(メキシコ)とアジア(日本)が脱落して、完全にアウトサイダー不在のベスト8となった。ここからどこがベスト4に抜け出るのか、予想を試みることにしたい。

 グループステージ3試合を圧勝し、ポルトガルに競り勝ったウルグアイ。とはいえ2枚看板の1人、エディンソン・カバーニがけがで出場できないとなると攻撃力は半減する。キリアン・エムバペの覚醒で勢いに乗る、フランスが有利と見るのが妥当であろう。ブラジル対ベルギーは、屈指の攻撃力を誇る両チームによるスペクタクルな展開が期待できそうだ。どちらも個の打開力を持つタレントをそろえているが、組織としての強みはむしろブラジルの方に感じる。派手な打ち合いから、ここは僅差でブラジルが抜けると見る。

 32カ国の中で、FIFA(国際サッカー連盟)ランキング最下位の開催国ロシアは、ここまでよく頑張った。しかし、クロアチアを相手に2試合連続のミラクルを起こすのは難しい。接戦にはなるだろうが、順当にクロアチアが勝ち上がるだろう。そして、スウェーデン対イングランド。イングランドには90年大会以来のベスト4を期待したいが、スウェーデンにはなかなか勝てないというジンクスがある。ジンクスついでに言えば、スウェーデンはなぜか「戌年のW杯」に強い。ここはロースコアでスウェーデン勝利と予想する。

 というわけで、日本が大会から去ってしまった寂しさはあるものの、W杯はベスト8からさらに熱を帯びることになる。目前のハイレベルなゲームを楽しみつつ、「日本には何が足りなかったのか」についても考察する機会としたい。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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