ベルギーの戦術変更に、日本は対応できず 戸田和幸が感じたプランBの必要性

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日本は常にコレクティブなサッカーを展開できた

クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 攻撃面では斜めのボールが前線に入る場面が多く、前半6分には酒井宏から大迫に入り、柴崎から乾へとスルーボールが通ってクロスという攻撃を見せました。

 その直後にも今度は吉田麻也から大迫に速い縦パス、そこから乾へと展開。ここではシュートまで持ち込めなかったものの、右方向からの効果的な斜めや縦のボールがトップに入ったところから攻撃を作りました。ベルギーの左サイドはE・アザールがいるサイドです。思った通りに守備が緩かったため、吉田から酒井宏へのパスも効果的な形で入りました。

 また、ベルギーが高い位置から奪いに来ることはせず、ミドルゾーンからのタイトな守備も行わずに構えて見る形となったので、日本は2CB(吉田と昌子源)対ルカクの数的優位な状況を有効に活用しながら、落ち着いたビルドアップを実践しました。

 特に序盤は右方向からのビルドアップが効果的で、香川はビツェル、デ・ブライネの2セントラルMFにとっては捕まえることが難しい、巧みなポジション取りを見せていました。香川が度々ライン間でボールを受けては起点となり、そこからサイドへ展開する形は非常に効果的でした。

 今回の日本代表がグループリーグを突破し、ベルギー相手にもこれだけの戦いを見せることができた理由は、攻守両面において、常にコレクティブなサッカーを展開できたこと。これに尽きると思います。

 オフ・ザ・ボールの局面をより重要なものと捉え、的確なスタートポジションをとったところからズレを作り、常に相手より有利な状況を作りながら攻守を行うこと。集団として相手の自由を奪い、集団として効果的にボールを保持し、ゴールを目指すこと。チームを意識し、オーガナイズを守った上で自分の特徴を出すこと。チームとしてのベースを持ち、その上でそれぞれが自分の特徴を発揮できたことが、ベルギーのような大国に対してあれだけの戦いを見せることができた理由だと思います。

日本の守備に対して、ベルギーが見せた工夫

日本の前線からの守備を嫌い、ベルギーは時折ロングボールをルカクに送る工夫を見せた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 立ち上がりからの日本の積極的な守備に対し、ベルギーがどう対応したかを振り返ります。

 前半8分にはコンパニから右CBのトビー・アルデルワイレルトにパスが出ると、乾がスプリントでアプローチしました。すると、アルデルワイレルトは巧みに左足にボールを置き、乾の内側から右WBのムニエへパスをつなぎます。この時、長友佑都はシャドーのポジションをとるメルテンスをマークしており、連動する形で1つ前に出られず、フリーでパスを受けたムニエに攻め込まれました。

 前半10分にはGKクルトワからアルデルワイレルトへパスが出ると、中盤を飛ばして同サイドへ流れてきたルカクへシンプルなロングパスを送りました。中盤への圧が高いと見るや、シンプルに中盤を省略してルカクのところへとボールを運んでしまい、昌子と1対1の形を作るといった工夫を見せてきました。

 日本が前にパワーを使ってくるのであれば、その分、ルカクの周りは選手が少なくなり、なおかつ背後には大きなスペースがあるということがきちんと頭に入っているからこその効果的なダイレクトプレーです。この2つの攻撃によって、日本の守備は若干「はめ込む」ことに対する意識と意欲に制限がかかり、以降、少しずつスタート位置が下がるようになったように見えました。

 また、ビツェルやデ・ブライネが3バックの斜め右に下りる動きも見せ、デ・ブライネと入れ替わる形でE・アザールが低めの位置でボールを受ける動きも見せたりと、ミドルサードに安定して入っていくための工夫も見せてきました。特にE・アザールはさすがワールドクラスというパフォーマンスを随所に披露し、どこでボールを受けても自信満々でボールを運び、局面を変える動きを見せ続けました。

プレスをかけにくくなった日本

乾(右)が59本、長友が56本と、左サイドの2人は多くのスプリントを記録した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 徐々にプレスをかけにくくなっていった日本の中盤での守備を見て感じたことは、全体が下がるようになった時の「乾と長友の関係」と「トップ下に近いポジションをとってくるアザールをどう抑えるのか」ということでした。

 日本の守備はどちらかというと右の原口がより人を意識するポジションをとり、左の乾はハーフポジションでいくつかのパスコースをけん制しながら、いざ出たパスに対してスプリントで守備を行うという、左右で若干違う守備を行ってきました。

 この試合での原口はベルトンゲンに向かってアプローチすることが多く、時に高い位置取りをするカラスコに対してもしっかりと付いていく守備を見せました。走行距離(81分間で9.3キロ)としてはさほど出てはいませんが、後半3分の得点の場面でもロングスプリントでベルトンゲンの背後を取るなど、長い距離も厭わず強度の高い走りを見せていました。

 左の乾はハーフポジションでいくつかのパスコースをけん制しながら、スイッチを入れるアプローチで周りの選手に対して「次の場所を教える守備」が得意な選手です。この試合ではムニエの65本に次ぐ59本のスプリント回数を記録しました。

 また、乾の後ろに構える長友も56本を記録。日本の右サイドにE・アザールという最重要人物がいるため、全体にやや右よりになることで広めのスペースをカバーしなくてはならないことに加え、ライン間でのポジショニングに優れるメルテンスへのパスコースを消しながらムニエにも対応しなくてはなりませんでした。左サイドの2人の守備は豊富な運動量とスプリントでよく対抗しましたが、少しずつ、メルテンスの内に入る動きとムニエの大外を駆け上がる動きに後手を踏むようになりました。

 23分にはベルギーが時折見せる外と内の入れ替わりからチャンスメーク。中盤に下りたE・アザールから右のビツェルへ、その時には既にメルテンスが大外にポジションを取り、ムニエはメルテンスがいたポジションに入ります。2人の動くタイミングとポジショニングが巧みだったので、長友はメルテンスにアプローチできず、乾も瞬間的に大外にいたムニエがいなくなったことで止まってしまい、内側にパスを通されました。

 結果的にムニエからルカクへのパスが短かったために事なきを得ましたが、こういった入れ替わる動きをすることで相手の頭と足を止めるベルギーの攻撃に、その後日本は苦しめられることとなりました。前半34分には左サイドからの攻撃で、大外のE・アザールから内に入ったカラスコへ斜めのパスが通され、酒井宏と吉田の間でフリーとなりゴール方向へドリブル、中央のメルテンスまでつながれてしまい、あわやという場面を作られています。

押し込まれ、多くのクロスを許した日本

日本はこの試合、ベルギーに22本のクロスを許した 【写真:ロイター/アフロ】

 日本の守備は、大迫と香川がミドルゾーンに立ち中央へのパスコースを消し、その2人に連動する形で原口と乾が続いてスモールフィールドを作って奪いにいくというもの。この守備がしっかりと行えている時の日本は、ベルギーに対しても十分に対抗できていました。

 しかし、自陣へと下がらざるを得なくなった時の守備については、うまくファーストDFを決めることができないため、よりルカクの近くにポジションを取る2シャドーを気にすることになるので、中を閉じる傾向が強くなる。より危険なシャドーを消すことが優先されるため、どうしても外側がフリーになるという現象が見られるようになりました。

 この試合でのベルギーのクロス数を見てみると、22本(右10本、左12本)という数字が残っています。セネガル戦でも20本のクロスを許していた日本ですが、1トップに圧倒的なフィジカルと高さを持つルカクがいたことを考えると、やはりこの数字は多すぎると感じます。

 あらためて映像でも確認したところ、やはり前半から嫌な形でクロスを入れられています。前半25分にはムニエと入れ替わる形で大外に出たメルテンスからルカクへクロス。ギリギリで吉田が食い止めましたが、ゴール前で1対1の局面を作られ、あとボール1個分前だったらと胆を冷やす場面でした。

 また、前半39分には酒井宏の背後にカラスコが流れ、手前でキープしていたE・アザールからのパスを受けると、吉田が外まで出ざるを得ない状況となってしまいました。巧みなドリブルで縦に持ち出され、左足でクロスを上げられると、ゴール前では乾(169センチ)とムニエ(190センチ)という空中戦ではまず勝ち目のないミスマッチが作られてしまっていました。

 この場面でもボールが高かったことで逆サイドまで流れてくれましたが、ピンポイントではなくても、ある程度の質のクロスが入って来ていたら、間違いなく乾はムニエに競り負け、かなりの確率で失点が考えられるような場面です。

 こういった決定機に近い、かなり際どいボールが前半から入って来ていましたが、後半に入るとより効果的な形で内と外を効果的に使っての攻撃が増えます。失点には至りませんでしたが、日本が先制した直後の後半4分には、内側に立ったメルテンスに長友が足止めされ、乾がビツェルに対峙するもムニエがフリーに。完璧にフリーでボールを持ったムニエから、長友の内側をゴール方向に走ったメルテンスにスルーパスが出されると、昌子のカバーも間に合わず、マイナスに戻されたグラウンダーのクロスをE・アザールがシュート。幸運にもポストに当たってくれたことで失点は免れましたが、完璧に崩された場面でした。

 後半17分には右に移動してきたE・アザールからルカクへとライン間を通過する縦パスを通されます。ルカクからメルテンスに落としたボールは、大外を駆け上がってきたムニエへ。十分に中の状況を確認できるくらいフリーな状態でワンタッチクロスを入れられると、ニアポストに走り込んだルカクにフリーで合わせられてしまいました。

 あくまでもコンパクトな3ラインを形成し、ミドルゾーンに構えたところから「前方向」に守備を行えた時の日本は、ベルギーのような強国が相手であっても、大きな効果を発揮し、良い形で守備が行えていたと思います。ただし、先に記したように相手にボール保持された状態で自陣での守備を強いられるフェーズ、もしくはミドルゾーンからのプレッシングが行えない、または行わずに「ブロック」を形成してしっかり守らなくてはならない場面においては、別のオーガナイズが必要なのではないかと、試合を見ながらずっと考えていました。

前線からのプレスができないときにどうするか?

 これだけ能力が高い選手がそろう相手に対し、常に優位性を保ちながら守備を行うことはまず不可能です。今回のW杯で日本代表がここまで戦うことができた大きな要因は、大迫・香川・原口・乾の4人による1列目での守備での貢献があってのことです。彼らの巧みなスペース管理と、チェイシングがあってこそ奪いどころが明確になり、全体がひとつの生き物のように動く中で対戦相手の自由を奪うことができていました。

 あとは、その1つ目の守備プランが成立しない状況での守備をどうすべきだったのか。ここがこの素晴らしい試合を終えた後に僕が感じた課題の1つとなりました。

 前線2枚に対して3バックでビルドアップ、サイドバックは高めの位置取りをし、サイドハーフが内側に入って来る。これは日本がこの試合を含め、パラグアイ戦、コロンビア戦の後半、セネガル戦で見せた攻撃の形です。ベルギーが攻撃時に採用していた3−4−2−1は、日本が長谷部を後ろに下げて3バックの形を作り、全てのエリアで「ズレ」を作って攻撃を仕掛けるというものと似た意味を持つものでした。

 日本は大迫と香川の2枚でベルギーの3バックに対峙し、そこに両サイドハーフがサポートするという形を持って守備を行いましたが、4バックで1トップと2シャドーをマークすることは、相手のWBが高い位置をとってくることを考えても簡単ではありません。あくまで3ラインがコンパクトな陣形、ミドルゾーンもしくはそれより前のエリアで守備を行う時には、彼ら4人から始まる守備は大きな効果を発揮しましたが、自陣まで下がった時、もしくは押し下げられてしまった時には、必然的にサイドハーフが斜め後ろに押し下げられることが多くなってしまう。そうなると4−4−2での3ラインの形が崩れてしまったり、斜め後ろに下がってしまうことでシャドーへのパスルートが生まれてしまいました。

 よりゴールへ直結するシャドーへのパスコースを消そうとすると、WBの選手がフリーな状態でボールが受けられるようになり、ボックス付近から仕掛けられることが多くなってしまいました。この試合で日本が苦しんだ展開、時間帯は詰まるところこれだったのではないかと思います。

 ただでさえ驚くほどの能力を持ったベルギーの選手たちに、時間とスペースを与えてしまったら。そしてその形はベルギーが狙って作り出しているものだとすると、やはり危険な形は確実に作られてしまうと思いますし、実際にかなりの回数、非常に危険な形を作られてしまいました。

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