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酷暑のボルゴグラード、スタメン変更は?
日々是世界杯2018(6月27日)

かつて「スターリングラード」と呼ばれた地で

あまりの暑さに公園の噴水で水浴びする子供たち。遠景にボルゴグラード・アリーナが見える
あまりの暑さに公園の噴水で水浴びする子供たち。遠景にボルゴグラード・アリーナが見える【宇都宮徹壱】

 ワールドカップ(W杯)14日目。この日はグループFとグループEの2試合ずつが、いずれも同時刻に開催される。グループFはカザンで韓国対ドイツ、エカテリンブルクでメキシコ対スウェーデン。グループEは、モスクワでセルビア対ブラジル、ニジニ・ノブゴロドでスイス対コスタリカ。これら8カ国は、いずれも過去のW杯でベスト8以上の経験がある中堅以上ばかり(セルビアは旧ユーゴスラビア時代の実績)。すでに敗退が決まっているコスタリカをはじめ、この日も4チームがロシアから姿を消すことになる。が、まさかそこに前回王者が含まれるとは、おそらく誰も予想できなかっただろう。


 この日のミッションは、日本代表の第3戦の会場であるボルゴグラードへの移動、および前日会見の取材である。モスクワのシェレメチボ空港で搭乗ゲートに向かうと、私とまったく同じ目的の同業者が数多くいて、ちょっとびっくりした。のみならず、JFA(日本サッカー協会)の田嶋幸三会長も同じ便だった。その表情は、代表監督交代を断行した直後の2カ月前と比べると、実に晴れやかで明るいものになっていた。今回の日本代表の躍進を心から喜んでいる様子がうかがえる。およそ2時間弱のフライトで、目的地に到着。空港を出ると、モスクワとはまるで違った、突き刺すような暑さを感じた。


 サランスク、エカテリンブルク、そしてボルゴグラード。今回のW杯では多くの日本人が、それまでまったく縁のなかったロシアの地方都市に赴くこととなった。今回、勝ち点4を手にして、この地にたどり着いたのは実に感慨深い。もっとも私自身は18年前、モスクワから丸一日列車に乗ってボルゴグラードを訪れたことがある。理由は「現地でカップ戦がある」との情報を得ていたからだが、実際に訪れてみるとそんなものはなく、滞在期間中はずっと大祖国戦争(第二次世界大戦)に関する博物館を見て回った記憶がある。


 ボルゴグラードは、ボルガ川の下流域に位置する南部の工業都市で、人口は100万人超。帝政ロシア時代に「ツァリーツィン」と呼ばれていたこの地は、1925年から61年まで、かの独裁者の名にちなんで「スターリングラード」と命名された。第二次世界大戦の「スターリングラード攻防戦」では、ソ連軍とナチス・ドイツ軍がこの地で半年にわたる凄惨(せいさん)な激闘を繰り返し、両軍の死傷者は200万人以上、60万人いた住民は1万人足らずにまで激減したと伝えられる。「ママエフ・クルガン(ママイの墳墓丘)」と呼ばれる丘に立つ、高さ100メートルを超える「母なる祖国像」は、戦勝記念と犠牲者への鎮魂の碑でもある。

ドイツの敗退が選手に与えた影響とは?

スタジアムでの前日練習風景。同時刻はピッチが日陰となるため、直射日光は回避できそうだ
スタジアムでの前日練習風景。同時刻はピッチが日陰となるため、直射日光は回避できそうだ【宇都宮徹壱】

 17時から行われた前日会見。西野朗監督は「実際、1人1人が疲弊している中で戦っている」ことは認めながらも、ポーランド戦での選手の入れ替えの可能性については「今日のトレーニングの中で最終的な確認ができますので、それによって最終的に判断したいと思います」と述べるにとどまった。コロンビア戦とセネガル戦は、いずれも同じスターティングイレブンで臨んだが、当然ながら出場している選手は消耗している。しかも今回は1日少ない中3日で、ボルゴグラードは酷暑(この日は37度あった)。果たして指揮官は、どのような決断を下すのであろうか、


 その後、冒頭15分のみ公開の前日練習を経てメディアルームで作業をしながら、グループFの試合をチェックする。最初はチラ見する程度だったが、次第にエカテリンブルクとカザンの戦況に目を奪われるようになった。前者は、スウェーデンがメキシコに対して3−0と圧倒。後者は、韓国がドイツに大善戦を見せて、スコアレスのままアディショナルタイムにもつれる。そしてついに後半45+3分、CKからキム・ヨングォンのゴールで韓国が先制(最初はオフサイドの判定だったが、VARによりゴールが認められる)。さらに45+6分、ドイツGKマヌエル・ノイアーまでもが攻撃参加している中、カウンターからソン・フンミンが追加点を挙げる。かくして前回王者は、グループ最下位でロシアを去ることが決まった。


 トレーニングを終えた日本の選手たちも、この驚くべき結末をテレビで見て、一様に思うところがあったようだ。


「自分は『明日はわが身』だと思いました。自分たちも(グループ突破が)決まっているわけでないし、油断したらああなるかもしれない」(植田直通)


「この(勝ち点)4は安全ラインではないし、前回王者でも何が起こるか分からない大会なので、しっかり勝ち点3をとりたい(昌子源)


「(ドイツには)もっと勝ち上がってほしかったですけれど、これがW杯の難しさなのかなと。それと韓国が、敗退が決まった中でああいう戦いを見せて、僕らも刺激を受けるところはありましたね」(香川真司)


 実際には韓国は、わずかながらグループ突破の可能性を残していた。ただし心理的に「失うものは何もない」状況だったのは事実。日本が対戦するポーランドは、すでに2敗しているため敗退は決定している。しかし、だからと言って簡単な相手というわけではない。「簡単な試合はひとつもないと思っている。W杯は初めてだけれど、そう思って臨みたいと思います」と力強く語ったのは、セネガル戦でW杯初ゴールを挙げた乾貴士である。「引き分けでもOK」という状況ではあるが、だからこそ気を引き締めて、グループリーグ最後の試合を勝利で飾ってほしいところだ。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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