マーリンズ再建策は想定内か誤算か? 気になるジーターCEOの手腕

杉浦大介

マーリンズのマッティングリー監督(右)と話すジーターCEO 【Getty Images】

“勝利の使者”はオーナーとしても成功できるか――。昨秋、マーリンズを買収するグループの一員となり、10月3日(現地時間)に最高経営責任者(CEO)に就任したデレク・ジーターの手腕に大きな注目が集まっているのは当然なのだろう。

 現役時代のジーターはメジャー史上6位の通算3465安打を放ち、ヤンキースの5度の“世界一”に大きく貢献。ニューヨークの街の象徴的な存在として、合計で2億5000万ドル(約274億円)以上もの給料を稼いだ。それほどの成功者が、今度はフロントの人間として低迷中のマーリンズの再建に乗り出したのである。

「オーナー業に関わらず、彼は何をやっても成功できる人間だと私は確信している。ここまでのキャリアと実績が証明している。それを可能にするだけの意欲と能力を持っているからだ」

 ヤンキース時代の同僚ポール・オニールのそんな言葉に、多くのベースボールファンはうなずくはずだ。どんな役割でも上手にこなすのが我らが“キャプテン”。MLBを超越するほどのネームバリューを持つヒーローは、フィールドで誇示した神通力を今後はCEOとしても発揮していくかと思われた。しかし――。

落胆したファンから退任要求も

 ここまでのジーターの舵取りは必ずしも順風満帆とはいえない。就任直後、ジャック・マッキーオン、ジェフ・コーナイン、トニー・ペレス、アンドレ・ドーソンといったフランチャイズの功労者たちに低給を提示し、球団職員の立場から弾き出して批判を浴びたのがケチのつき始め。昨年のウインターミーティングには姿すら見せず、NFLのゲームをスイート席で観戦している姿がテレビに映って顰蹙(ひんしゅく)を買った。

 さらに今オフの間、ジャンカルロ・スタントン、クリスチャン・イエリチ、マルセル・オズナ、ディー・ゴードンといったスター選手を次々と放出。オーナーが変わろうと、“ファイヤーセールを繰り返してきた歴史は変わらないのか”と地元ファンをがっかりさせてしまった。

 1月には落胆したファンがジーター退任を要求する嘆願書を作成し、大量の署名が集まるほどの騒ぎになる始末。こんな状況ではチームの成績向上が望めるわけがない。案の定、完全な無名集団となったマーリンズは今季も31勝47敗でナ・リーグ東区最下位に低迷している。

「(ファイヤーセールを行うことで)ファンを落胆させてしまうこと予想はしていた。ただ、このチームはもう14年間もポストシーズンに進出できていない。だとしたら、何かを変えなければいけないんだ」

 4月下旬、米プレミアケーブル局の『HBO』で放送されたインタビューで、ジーターは自身の再建政策をそう説明していた。

ベテランから若手へのシフトは常套手段だが…

 ベテランを放出し、見返りに若手プロスペクトを獲得するのはチーム作りの常套手段ではある。昨季開幕時点で約1億1190万ドル(約123億円)で20位だった給料総額を今季開幕時点で8584万ドル(約94億円)まで減らし、赤字をなくす方向に舵を切ったのは理解できる方向性。とりあえず負債をなくせば、低予算チームのマーリンズでも今後はよりフレキシブルなチーム作りが展開できるからだ。

「ヤンキースも勝てない時代はあったが、若手の成長ゆえに強くなった。最近のカブス、アストロズ、インディアンスの例を見れば、成功への青写真は描けるはずだ」

 ジーターのそんな言葉通り、ヤンキースの長い黄金時代が始まったのはジーター、マリアーノ・リベラ、アンディ・ペティート、ホルヘ・ポサダといういわゆる“コア・フォー”が台頭してからだった。特に戦力均衡の進む近年のMLBでは、自前のプロスペクトを辛抱強く育てる方向性が主流になっている。それと同じやり方で、ジーターが辛抱強く自らのチームを作ろうとしていることは明白だ。

 ただ……一昨年はカブス、昨季はアストロズが世界一になった成功例があるとはいえ、同じ方法をマイアミの地で成し遂げるのは容易なことではないだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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