解説者・戸田和幸が見た日本代表の成長 W杯は総力戦、チームは「乗ってくる」

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コロンビア戦から修正されたオーガナイズ

長谷部、柴崎のボランチコンビがビルドアップをうまくオーガナイズ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 この試合でのセネガルの守備は、4−3−3でスタートし、アンカーポジションに入った13番のA・エンディアイエが香川を意識しているようなポジション取りをしています。2人のプレーエリアを見てみると、一番パーセンテージが高いエリアが被っていることからも、香川を意識してついていく動きを多く見せていたのが分かると思います。

 1つの特徴としては、両SHのマネとサールの「高さ」に若干の違いがあり、マネは常にハーフポジションを取って3バックを形成した時の吉田に対して守備を行う準備をしているように見えました。一方、右サイドのサールは、長友の動きについていく形でポジションを取っていることが多かったのですが、結果的にこちら側のサイドでの攻防が違いを生んだと思います。

 おそらく日本が長谷部を下ろして3バックでビルドアップを行うということは、コロンビア戦を見てある程度、把握していたはずで、実際セネガルは3バックにした日本に対し、マネと1トップのニアンに加え、右インサイドハーフのP・エンディアイエが昌子に出させたボールに対して寄せていく場面が前半は幾度か見られました。

 前回のコロンビア戦のレビュー記事の中で、「長谷部が下りて3バックを形成した時の全体のオーガナイズ」について書かせてもらいました。相手が2トップで守備を行ってきた場合には長谷部(時に柴崎)が2センターバック(CB)の間に下りて3バックを形成。2トップに対し2CBという同数でビルドアップを行うのではなく、数的優位な状況を作ることで効果的に効率よく敵陣までボールを運んでいくための戦術行動です。

 コロンビア戦では、長谷部の動きに連動する形での両サイドバック(SB)のポジショニングに変化が見られなかったため、後ろに重たい状態となりました。相手の守備陣形に対し望むような影響を与えることができず、内に入ってきた原口にパスが出たところで奪われてしまった、と書きました。

 しかし、セネガル戦においては長谷部や柴崎の「下りる」動きに連動する形で、酒井宏樹、長友の両SBが相手サイドハーフの「斜め後ろ」にポジションを取ったり、乾と原口が内側のレーンに入ってくるという動きがタイミングよく行われたことで、4−4−2気味で構える相手に対して効果的なパスルートを作り、相手の足を止めることに成功していました。

左が香川、右がA・エンディアイエのプレーエリア。香川を意識していたことが分かる 【データ提供:データスタジアム】

 また、香川もアンカーのA・エンディアイエが後ろからついてくることを理解しており、自分がゴール前へと入っていく動きはそこまで見られなかったものの、斜め後ろや手前に動くことでマーカーを引き付け、大迫勇也や乾へのパスルートを作る賢い動きを数多く見せました。

 序盤こそ勢いと強度を感じさせたセネガルでしたが、日本が後ろを3枚にしてビルドアップを行い始めてから、少しずつ勢いが弱まっていきます。最初は上に書いた通り、3トップ気味の形で昌子のところにプレスをかけてきましたが、長谷部や柴崎が交互に下り、長友が幅を取り、乾が内側へと入ってきたタイミングで縦パスが入るようになり始めて以降のことです。サールとワゲの縦の連携がとれなくなり、日本の左サイドから効果的な縦パスが乾や大迫のところに入るようになり、彼らの守備は止まり始めます。

 明確な意図を持って、日本が効果的なオーガナイズを形成し、彼らの足を止めたことは間違いありません。ですが、この試合のセネガルの守備を見ていて、正直なところ、守備における「規則性」がどこにあるのか分かりませんでした。序盤こそやや3トップ気味の形で早めにプレッシャーをかけて主導権を握りましたが、徐々にその強度と連続性は低下。右インサイドハーフのP・エンディアイエが1列目に出る形での4−4−2でのブロックも、右サイドハーフのサールは中盤の選手としての横のつながりではなく、高い位置を取ってくる長友を意識するポジション取りをするので歪(いびつ)な形の5バックにも見えました。

 日本が3バックにしてビルドアップを行うようになってからは、どこを抑えにかかろうとしているのかよく分からない守備となり、ファーストディフェンダーが決められなくなったため足も止まり……彼らの持つ局面での強さと速さは少しずつ影を潜め、ついに同点にされます。

効果的だった日本の攻撃

日本代表の効果的な攻撃から乾のゴールが生まれた 【Getty Images】

 前半34分に日本が奪った同点ゴールを振り返ってみましょう。

 長谷部と入れ替わる形で吉田の右斜め前でボールを持った柴崎から、40メートル近いパスがスペースへ走った長友へと渡ります。この時、香川が右インサイドハーフに近いポジションを取り、空いたスペースに乾が入ってきていました。おそらく長友をマークする役割を与えられていたはずのサールは、柴崎がボールを持った時点で既に背後に長友を置いてしまいました。右SBのワゲもインサイドポジションを取った乾についていくだけで、長友に対する意識は見られませんでした。大迫や香川、もしくは乾といった、ライン間で巧みなポジション取りをする選手たちを意識することで、セネガルの守備は少しずつ止まり始めていたのです。

 長谷部と柴崎が重なることなく2CBの間、もしくは脇にサポートをすることで効果的に敵陣へと入っていくことができるようになり、見事なゴールで日本は同点に追いつきました。

 この試合では、3バックに対して大外でポジションを取る酒井宏と長友のポジショニングと、彼らに対する乾と原口の関係性も良かったと思います。基本、内側が空いていればそちらを優先的に使い、大迫が非常に質の高いポストプレーを見せました。長谷部がバランスを取り、柴崎が主体的に動いてゲームを作り、日本は後半に入るとさらにゲームを支配できるようになったと思います。

 後半15分の柴崎からのワンタッチクロスに大迫が合わせ切れなかった場面や、19分には昌子の前線へのロングボールに大迫が素早く反応し、キープをしたところから乾がシュートを打つもバーに当たった場面もありました。

 特にセネガルの右サイドはウイークポイントだという認識があったのではないかと思う攻撃を日本は仕掛けており、右CBのサリフ・サネはカバーエリアがさほど広くはなく、左のクリバリと比較するとその違いははっきりと出ていました。クリバリがいる左サイドはカバーリングも広く速かったため、攻略することは難しかったですが、サネのサイドは19分の場面でもはっきりと表れているように、前へ出たワゲのカバーには入らずオフサイドをアピール、走った大迫をフリーにさせてしまい、クリバリがカバーに走ったものの決定機を作られてしまいました。こうした相手CBの特徴も把握していたのではと思わせる、効果的な攻撃を日本は見せていました。

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