日本の快進撃を支えた3つの要因を推測 日々是世界杯2018(6月25日)

宇都宮徹壱

日本の躍進がもたらしたぜいたくな悩み

ライトアップされたエカテリンブルク・アリーナ。セネガル戦の取材を終えて誇らしげに見上げる 【宇都宮徹壱】

 ワールドカップ(W杯)12日目。いよいよ大会もグループリーグ3戦目に突入する。この日はグループAとグループBの2試合ずつが、いずれも同時刻に開催される。グループAは、サマラでウルグアイ対ロシア、ボルゴグラードでサウジアラビア対エジプト。グループBは、サランスクでイラン対ポルトガル、カリーニングラードでスペイン対モロッコ。もっとも、グループAはすでにロシアとウルグアイのラウンド16進出が決定しており、グループBもスペインとポルトガルでほぼ決まりだろう(イラン対ポルトガルは1−1に終わり、イランのグループリーグ敗退が決定)。

 そんな感じで、余裕をもって他のグループの状況を俯瞰して見ていられるのも、日本代表が現時点で勝ち点4を確保しているからだ。グループリーグ2戦目で、これだけ勝ち点を積み重ねているのは、2002年の日韓大会以来(それ以外では初めて)。しかも3戦目で対戦するポーランドは、すでに2敗してグループリーグ敗退が決まっている。ゆえに現時点では、1位突破の可能性も十分に考えられよう。実現したら、これまた日韓大会以来の快挙。今大会で、これほど優位に立っているアジアのチームは他にない。これまた、実に誇らしい話ではある。

 とはいえ取材する立場としてみると、いささか悩ましいところでもある。というのも今大会を取材するにあたり、私は(そして多くの同業者も)日本が2位通過することを前提にスケジュールを立てているからだ。ボルゴグラードでの3戦目の取材を終えたら、7月2日のラウンド16はロストフ・ナ・ドヌ、そして6日の準々決勝はカザン。これが1位通過となった場合、ラウンド16は3日のモスクワ、そして準々決勝は7日のサマラとなる。どちらになるかは、3戦目の結果を見るまで分からない。いずれにせよ、われわれは随分とぜいたくな悩みを抱えるようになったものだと、つくづく思う。

 さてこの日は、エカテリンブルクからモスクワへの移動のみで取材はない。そこでグループリーグ2試合を終えての、現時点での日本代表の総括めいたものを試みることにしたい。この驚くべき日本の快進撃をもたらしたものは、いったい何だったのか? おそらく日本国内のメディアでも、その話題で持ちきりであろう。とはいえ本当の意味での総括は、日本が今大会を終えた時点でなされるべきである。よって現時点では、あくまでも「仮説」として考えられる要因を3点挙げるにとどめたい。その3点とは、選手のコンディショニング、本番ギリギリまでの選手の見極め、そして「受け身にならない」という基本姿勢である。

西野監督のマネジメント+財産

日本サポーターに歓喜をもたらしたのは、西野監督のチームマネジメントと采配と決断であった 【宇都宮徹壱】

 まず、選手のコンディションニングの成功。今回、とりわけ「コンディション的に間に合うのだろうか?」と懸念されていたのが、香川真司と乾貴士であった。西野朗監督の言葉を借りれば、メンバー発表時点での香川は「このキャンプで最終的に(コンディションを)確認したい」、乾は「リスクを考えて(ガーナ戦で出場を)避けました」という状況だった。しかしフタを開けてみれば、いずれもコロンビア戦までにはトップフォームを取り戻して、今回の快進撃の大きな原動力となっている。彼らのピーキングを見極めた西野監督の彗眼(けいがん)には、ただただ脱帽するしかない。

 次に、本番ギリギリまでの選手の見極め。ガーナ戦、スイス戦での連敗(共に0−2)を受けてのパラグアイ戦(4−2)で、西野監督はあえて「出番のない選手にもチャンスを与える」ことを決断する。結果として本大会でスタメンに定着したのが、香川と乾、そして唯一の国内組である昌子源と、今大会で覚醒した柴崎岳であった。とりわけ柴崎に関しては、本大会の2試合を通じて「柴崎のチームになった」と言わしめるくらいの存在感を示しているが、パラグアイ戦までは大島僚太のほうに期待が寄せられていた。ギリギリのタイミングまで初戦のメンバーを見極めた、西野監督の判断も結果として吉となった。

 そして「受け身にならない」という基本姿勢。コロンビア戦序盤での幸運なPK(そして相手選手の退場)は、このアグレッシブな姿勢によってもたらされた。続くセネガル戦で勝ち点1を得られたのも、同じ理由である。実のところ大会前、西野監督は相手との実力差を鑑みて、もっとディフェンシブな戦い方をするものと予想していた。ところが実際には、どんな相手に対しても「受け身にならない」ことを指揮官は選択し、今大会でうまくハマることとなった。「ひたすら守ってカウンター」が生き残る唯一の道だった10年の南アフリカ大会を思うと、そこに8年間の日本サッカーの確実な進歩を見る思いがする。

 確かに今大会は、いくつかの幸運に恵まれた部分はあった。その幸運を引き出したのが、西野監督のチームマネジメントと采配と決断であったことは紛れもない事実である。しかし一方で、そのベースとなるものがすでに日本代表に内在されていたことも留意すべきであろう。セネガル戦で顕著だった1対1での勝負強さは、前任のヴァイッド・ハリルホジッチ監督がチームに植え付けたものであるし、柴崎を最初に積極的に起用したのはハビエル・アギーレ監督であった。そしてコンディショニングの重要性は、4年前のアルベルト・ザッケローニ監督時代の失敗が糧となっている。そうした積み重ねがあっての、今回の快進撃であることは、ゆめゆめ忘れるべきではないだろう。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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